episode04:
浴衣にお面。わたあめにかき氷。
人を見に来たのかと思うくらいにぎゅうぎゅうに人が詰まる会場。
僕に最も相応しくない夏の大イベント、花火大会に彼女と二人でやってきた。
「あと、打ち上げ開始まで一分だそうです。……あ! カウントダウン始まりましたよ!」
髪を頭の真ん中でお団子にし、紺色の浴衣を着る彼女は僕の腕に絡みつく。脇から通した手のひらをもう片方に打ちつけ、カウントダウンの音楽に合わせて手を叩く。
そんなのやってもやらなくても時間は進む。やりたい人だけやってればいいだろうと思い、ぼーっと空を眺めていると「楓くんもやりましょう」と楽しそうな声で圧を掛けられた。
「…………」
彼女の要望であれば仕方がない。従いながらも、少し反発するように腑抜けた音を鳴らした。
「さん、にー、いち、…………」
光が一筋の線を描きながらヒューっと、空へと昇っていく。
あれだけ盛り上がっていた会場はしんと音を抑え、開花の時を待つ。
彼女もその一員のようで、静かに――僕の腕をきゅっと掴みながらその時を待っていた。
「…………」
真っ暗な夜空に琥珀色の光が花のように広がる。
光の到来の後にバンと鈍く低い音が、聞こえる――はずだった。
だけど、僕はその開いてはすぐに落ちていく火花が儚くて綺麗で。鼓膜を震わせる音を認識できないくらいに釘付けになって見てしまう。
「綺麗ですね、楓くん」
「…………」
理由が分からないが、眩しく輝くあの色に愛しさを感じる。自分の生き方には絶対に差し込まない光だからだろうか。
そんなことを考えながら花火を打ち上げる対岸側から風が吹き込む。
ふわりと、懐かしい夏の匂いがした。
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