第8話 あやしいセミナー
入口の扉は開いていた。扉の裏にはマジックで書いてはいるが、こどもの書いたような大きめの文字の張り紙。そこにはセミナーのタイトルと開始時間が見える。
「もうすぐ開始ですね。あー、あー、テステス、通信テスト。聴こえてますかあ? ん? そうだこれって一方通行だった……」
胸につけたクマのブローチに小声で語りかけたあとで、えへっ、と
――開始5分前って他の参加者がいてもいい気がするけど。もう中でみなさんは待っているとかそんな感じかな。
階段を降りると左手に木製の扉ガラスの奥は薄暗い照明のようで、中の様子ははっきりとは見えなかった。普段はバーだとかそんな感じで使われているのだろうかと、楓はそんな場所など入ったこともないのに勝手な想像を膨らませていた。鍵など掛かってはいないその扉はすっと開いた。
――あれ? 誰もいない。本日の開催は中止ですとか、そういうのですかな。
「失礼しまーす! チラシを見て来ましたーっ!」
せっかく来たこともあり、奥に誰かいるのかもと呼びかけてみた。少しして人の気配と足音がした。
「ああ、お待たせいたしました。今日はなんと素晴らしい日でありましょうか! そう、そんな気がしていたのです。これは運命、まさに神が導かれた出会いという他はありません」
両手を広げたかと思うと、自分をぎゅっと抱きしめてひとり何かの感動で打ち震えている男。それは金髪の外国人神父。神父だと楓が判断したのはその服装と胸にかけられているロザリオ。
――なんて日本語の
とりあえず英語などの外国語のスキルは
「あ、あの……。今日はそのセミナーというのはあるのでしょうか?」
「はっ!? これは私としたことが……。あまりに久しぶりの参加者に感激して我を忘れておりました。
――久しぶりのって……。ちょっとこれはハズレなのではないでしょうか。秋山少佐もガセネタを
誰も座っていないズラッと並んだパイプ椅子がどことなく淋しげな雰囲気を
「えっと、特に入会とかそんなことは考えてなくて。し、知り合いから貰ったチラシで興味を持ったもので」
「いえいえ、もちろん。問題などございませんよ。さあ、どうぞお掛けください」
後ろの席に着くのも何なので、最前列の真ん中の席に座った。神父はせっせとプロジェクターとノートパソコンの準備を始めている。自分ひとりのために説明会だかセミナーをしようとしている神父をみていると何だか楓は申し訳ない気持ちになってしまう。
――この残念な様子を少佐はどこかでクマちゃんブローチの先で観ているのかな? 何だかそっちにも申し訳なくなってきたし……。
準備をしながらこちらをチラチラと確認する神父に、
「さあ、本当にお待たせいたしました。会を進めさせていただきます私は……、えっと、ええ、そうそう、レンブラントと申します。ああ、お嬢さんのお名前、よろしかったら教えていただけますでしょうか?」
「あっ、はい! 楓です。山本楓18歳です!」
ふと楓は潜入捜査なので偽名でもよかったと気づくが、これは誠意には誠意で答えるという山本家の家訓からすれば問題ないと気持ちをすぐに切り替えた。
「ほう、お若くて可愛らしいお嬢さんを前にお話できるとは、私少し緊張してしまいますね」
ニコッと笑う神父。年齢は父親と同じくらいであろうか、おそらく若い頃はそのイケメンな顔面で信者を魅了していたのかもしれないと、得意の楓の妄想は展開されていくのであった。
「と、我らが主は
妄想のネタもつき眠気と必死に戦う楓。どうも昔からこういった講義式の授業のような感じが苦手な彼女。さらに少佐が
――絶対この様子、少佐は見てないし。ああ、これ私の放置は確定だわ。
想定していた1時間ほどが過ぎ、何か離席する言い訳を考えようとしていたとき、映し出されていたスライドの雰囲気が変わった。
「などど長々とお話させていただきましたが、参加された方、楓さんの人となりを見極めるためでございまして……。あなたなら世界の真実をお伝えするのに
「本編?」
それは廃墟のような場所を映し出している動画だった。映像を写しているのはこの神父なのか他の人なのか、ただ無言で道路がひび割れそこから草が生え放題な道をただ進んでいく。画面に映る建物は巨大なものが多いがどれも破壊された跡が見られる。その誰もいない夕方の
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