第6話 真田
そこは人類が生息域としては諦め手放した場所、旧北海道地区。公式には10年前に大戦終結が世界的に発表されたが、このような政府が国民の移動を制限している地域は世界中いたるところに存在する。旧日本国においては他にも旧四国地区、旧九州地区がいまだ奪還の目処が立っていない地域である。人間の尺度での戦争の勝利は彼らには通用しない。降伏の概念もなければ休戦協定もない。もちろん人間の使う言語情報としては持ってはいるが、彼らは自らの設定した命令を達成するためにあらゆる手段を講じ、その実現を目指し続ける。人類の生息域の多くは巨大な壁で囲まれているのだが、それが撤去されないのは費用などの問題ではなく、防衛上の問題によるものだ。これは壁の内側で平和を
その日は強い
「大佐殿が直々に作戦に参加されるとは心強いですね」
秋山が上機嫌で言う。
「なんだよ、ひよ子たちを連れてきてるからって
作戦本部として設置した
「ふふっ、先輩は偉くなっても変わんないっすね」
「まあな。俺のスタンスは変わんねえ。書類仕事は全部放り投げて来てやったぜ。そんなもんより、人類の脅威になる可能性は早めに潰しとかねえとな。未来ある
「ああ、そう言えば娘さん士官学校を卒業するんでしたか。でも、よく軍人になる道を反対しなかったっすね」
「うん……、まあ……。自分の未来は自分でつかみとれってのがウチの方針でな。そう言っても
「そんなことは俺には分かんねえっすよ」
「そりゃ独身のお前に聞いたのが間違いだったな」
すると天幕にひとりの女性隊員が入ってきた。
「ああ
「はい、少佐。さきほど、目標と思われる敵の反応を確認。総員、既に出撃の準備はできております」
フランス人とのハーフである真田。彼女の金髪に多くかかる雪が外の状況を示していた。
「この吹雪じゃ、視界がきかねえからな。ここは
「大佐殿、敵の個体にこの悪条件で戦えるような新技術は現在確認されておりません。これは例の特殊個体の暴走ではないかと判断いたします」
「うむ。まあ、優秀な真田ちゃんの判断なら俺もそれに乗っかるか。だろ、秋山」
「ええ、問題ないと思います。雪が深くなる前に本土に帰還したいですからね」
「じゃあ、俺も娘の未来のためにいっちょ頑張るか!」
機動兵器は人の能力を底上げするための体長2mほどの装甲付きパワードスーツである。伝達系は人の意識がダイレクトに伝わる分、操作難易度は高くその訓練以上に兵器との相性の要素が大きい。軽量化を重視しているため高性能小型バッテリーを搭載してはいるが稼働可能時間は長くはない。しかし、先の大戦の残党である敵の自立型兵器はその後も独自の進化を続けており、これが現状対抗できる唯一の兵器であることも事実である。少ない機体の数はその生産の難しさもあるが、実際のところは乗りこなせるパイロットが限られているところに原因がある。敵の
秋山隊の任務は、敵個体の確保による技術の回収、分析という調査が主体である。しかし最近の敵の技術の進歩は
「こちらモヒカン、異常ナッシング」
「メガネも右に同じ。この吹雪では記録映像もたいしたものは撮れないでしょう」
「あー寒いわ、ちゃっちゃと倒してあったかいお部屋に帰りたーい! それ以外はフェアリーから特に報告することもないわね」
機動兵器に乗り込む隊員は防寒スーツを着込んではいるが、大きく氷点下を下回るこの環境では体温が奪われるのを完全には防ぐことはできない。いまのところ口調にも余裕は感じられるが、通常の戦闘よりも今回は短時間勝負であることの認識は全員が持っていた。
「
真田機からの通信が入る。その言葉に緊張が走る。副隊長の真田だけでなく全員の機動兵器のモニターに辛うじて映っていた敵影が突然消失した。
「これは俺達を誘い込むための
山本大佐が冷静ではあるが、苦々しく
「な、なんだこいつは! に、二号機
真田の叫び声が全機に伝わる。
「どうした真田! 応答しろ!」
隊長の秋山の呼びかけにその後反応はなく通信はそのまま
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