第5話 欠員
「ここが俺達の拠点だ。『
「えっと本部基地とは離れた場所で独立して存在しているんですね。さすがは国家の誇る特務部隊ですぅ。でも……、なんかイメージとは違いますね」
二人の目の前にあるのは何の変哲もない鉄筋コンクリートの白い建物。経年劣化も感じられ緑の
「基本、雨風さえ
「ああ、機動兵器ですね。大戦の戦勝イベントでの模擬戦、動画で見たことがあります。あれって、とってもカッコいいですよね」
「何と言うか山本、お前と話していると小学生の
「いやあ、それは気が合いそうですねえ。将来有望ならいまから
「小一だがいいか? 紹介はしてもいいぞ」
「ぐぬぬ。小学生でしたね。ちょっとそういう趣味はございませんので、やはり遠慮させていただきます。ん? 少佐ってよく見ると男前? まさか独身だなんてことは……」
じっと秋山の顔を凝視する。
「くっ、出会いがないのだ! この部隊は特にな! お前も含めて変わったやつばかりが集められる。これも大佐の……」
「ん? そう言えば、今年の配属って私だけなんですか?」
「そんなことも知らんとは。去年ひとり欠員が出たからな……」
「欠員……」
楓は秋山の表情が少し
「そういうことだ。国際情勢にも左右されるが、現状で
「ええっ! 嘘ですよね。私、士官学校で唯一成績が良かったのが適性反応試験と練習機ですけど機動操作なんですよ! 筆記はあれですけど……、私、バリバリの実技の人なのに。これは損失、国家レベルの損失ですって!」
「まあ、お前の成績は俺ももちろん把握しているが、これは大佐殿のお考えなのでな。軍人である以上上官の命令は絶対だ。まあ、それにこの中にいる連中の異常さを知ればそんな考えも無くなると思うがな」
秋山は少しニヤリとすると金属製の分厚い扉を開いた。
――パンパンパーン!
いくつものパーティクラッカーの音。飛んできたたくさんの紙テープに包まれる
「うぇーい! 新人さんいらっしゃーーーーい!」
「あっ、どうもです。えっと、山本楓、ピチピチの18さいっす! よ・ろ・し・くぅ!」
「おっ、ノリのいい子じゃねえか。少佐、こいつは当たりだな」
金色のピアスを唇と鼻につけた革ジャン、モヒカンの男がそう言う。
「ピチピチっていう言葉、おばあちゃんが言ってたのを聴いて以来だわ。この子いつの時代から
大人の色気の
「むむむっ、ティーンですと! 我が隊の記録によるとこれは初! 士官学校卒と同時にこの隊への入隊、彼女は天才、逸材なのか!」
四角い
「いや、その……。実は
深々と頭を下げる楓。
「そうだ。彼女の言う通り、山本大佐の御息女だ。お前たち死にたくなければ変なことするなよ」
「げっ、山本ぉ……」
「くっ、あの糞親父……。でも、あなたあのオヤジに似なくて良かったわね。たしかにどっちかといえば美咲さん似だわ」
「大佐に娘がいたとは……。これは超レア情報をゲットです」
「いや、レアでもないかもです。でも、かなりの言われようですね。愛されるメンテ係ってずっと教え込まれてきたのは、やはり真っ赤な嘘だったようで」
「ああ、楓ちゃんだったわね。あの糞親父、メンテの腕前は一流よ。まあ、あいつが機動兵器の生みの親だから当然と言えば当然だけど」
「えっ、お父さんが機動兵器を開発したんですか!?」
「何? 娘なのに知らなかったの?」
「ええ、いろいろありましてですね」
秋山が楓の隣に立つ。
「そっちのモヒカンが棚橋、真っ黒な女がまんま名字も黒田、銀縁眼鏡はメガネでいいか……」
「ちょおーーーーっと! メガネですけどメガネって何ですか、綾小路です! あ・や・の・こ・う・じ!」
「だって長いし……、お前ら名字なんて大佐の前でしか使わないだろ。モヒカンにメガネにフェロモンだ」
「はあ? だれがフェロモンよ。フェアリーよ妖精のフェアリー!」
「いや、だってお前、森に住んでる悪い魔法使いみたいだって大佐がいってただろ。なんで大佐の前じゃ大人しくて俺の前だとお前たちそんな自由なんだよ。俺だってお前たちの遥か上の上官さまなんだが……」
「だってあの糞オヤジ、怖いんですもの……」
「そうそう、チョーヤベえ、つぅの!」
「
「お父さんが怖い?」
三人の発言に目を丸くする楓。彼女は家庭ではどこにでもいるようなだらしないお父さんの姿しか見ていなかった。
「機動訓練なんて鬼だぜ、実戦より訓練のほうが命がけってさ……」
「あいつ技術者もできるくせに人工知能に頼らせてくれないのよ。いつの時代の根性論者なんだか」
「スペックが人間の限界を超えています。それを僕達に要求するのは無茶な話なのですけども」
「おいおい、そんなこと言って……。お前らが今日まで生き残っていられるのは誰のお陰だよ」
「……」
秋山の言葉に反論なく黙り込む三人。
「でも真田は……。私たちより優秀だったあの子は……」
「あれは、仕方ない……。忘れろ」
ここにいない人の名前が聴こえたのと同時に楓の頭にはさっきの欠員の言葉が浮かんでいた。
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