第4話 追憶
まだ復興が進んでいない郊外。一本の桜の木が満開の花をつけていた。その下にから見上げているのは青年将校と彼の部下の女性士官。
「わあっ! すごいです! こんなところに桜が残ってたなんて。秋山少佐はよくこんな場所を知ってましたね」
「ああ、ここは思い出の場所なんだ」
撤去されていない瓦礫が残る場所はまだまだ国内にも多く見られる。
「思い出……、ですか?」
「十年前、俺の先輩と花見をした場所だ。花見と言ってもそのときは花なんて咲かせてなくてな。本当に桜かどうかなんて俺には分からなかったが、先輩が言うのだからそうなんだろうって二人で酒盛りしてたんだ。ああ、俺には無理だったが先輩の目にはきっとこんな桜が見えてたんだろうな」
「その先輩さんってどんな方なんですか?」
「ふふっ。山本の父上だよ」
「えっ、お父さん!? まさかあ、冗談きついですって少佐! まず少佐がお父さんと知り合いだってことに驚きましたけど、あの人にそんな花を
「かつての英雄さまも
「英雄さまって……、それ、あれですよ。お父さんが酔っ払った時の妄想、妄言、デタラメです。そのせいで小さい頃『ホラ吹き山本』って
「そのことについては俺も責任を感じている。あのときの俺達にはそれを証明する手立ては無かったんだ。唯一の証拠になるはずの伍長の目玉もはじめからそういう仕様だったのか完全にデータが飛んでしまってただの義眼になってたし……」
「ちょっと少佐? エイプリルフールっていう全時代のイベントはもう現代では死語なんですからね。フェイクが
「そうだな。人類の勝利ってことでいいって先輩も言ってたしな。だが、伍長先生の予想よりももとに戻るのが早かったな。10年とは……。やはり人類は電脳なしでは生きられないようだ」
青年が深い溜息をつくのを不思議そうな表情で見上げている山本。彼女は士官学校を出たばかりの新人であり10年というのは青年が思うよりもはるか昔の出来事であった。人工知能との生存を賭けた人類の戦いは機械側の自滅ということで学校の教科書には記載されている。当時、各地域で自発的に戦ったレジスタンスたちの記録は現在ほとんど残ってはいない。人類の人口が半減した史上最悪の出来事であったが、かつての開発競争に出遅れた各国がAIに関する国連採択を無視して研究開発に取り組んだ結果、大戦前よりも進歩してしまっているのが現状である。
「あの……、少佐殿」
「どうした急に改まって」
「もしかして私が少佐の隊に配属されたのはお父さんのお陰だったりしますか?」
「まあ、そうだな」
「あー、なるほど。おかしいって思ってたんですよ。士官学校でも成績ギリギリの私がいきなり憧れのエリート部隊に配属されちゃうなんて……」
「エリートか……。初めは俺は断ろうと思ったんだ。知り合いの娘を預かるなんてそんな……。およそ人間同士の戦いなんて地上から無くなったにも関わらず、ウチの部隊が最も天国に近い職場だし」
「いえいえ、人類のために自立型兵器の残党をやっつける尊いお仕事ですよ。それに私、昔からヒーローもののアニメに憧れておりまして」
「ああ……。これは先輩が手元においておきたいっていうのも分かる気がする」
「ん? 少佐、何を仰っているんですか? 手元にって、お父さん、いや私の父は技術屋で、えっと違うか特技兵、つまり特殊技能兵でありまして。みんなに愛されるメンテ係であると常々申しておりまして。その……」
「おぅ……。あの人またそんなハッタリを家族にまで……」
「ん?」
「山本、貴様の上官への言葉遣いは
「えへっ。そういうのは自分、昔から苦手でありましてですね。そのうち、ぼちぼち始めようかなどと思ったり思わなかったりと……」
「山本楓! 貴様の父上、山本
「た、大佐?」
「いやいや、そんなのありえないですって。ですから秋山少佐? エイプリルフールなる風習はですね……」
「これを見てみろ」
秋山は軍服の内ポケットから通信端末を取り出すと、操作して何かの画面を呼び出し山本に差し出す。
「ん? はっ、ええーーーーっ!? なんか澄ました顔で写ってるけど、こ、これは間違いなく……、お父さん。もしかしてお母さんもそれを知ってて、両親にずっと私は
「ちなみに山本の母上である
「はっ? 中学校の保健の先生のはずなんですけど……、そう信じてずっと生きてきたんですけど……」
「俺は他人の家庭の事情など知らん。だが、あの人たちならそんなことも平気でやりそうな気はするな」
「もう私は何を信じて生きていけばいいのでしょうか……」
「う、うむ。まあ、頑張れ」
秋山の声が届いているのか否か、山本
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