第3話 命令

「遅かったか……」


「みんなやられてしまったみたいっすね」


 二人の前には多くの死体が横たわっていた。それと同じくらいの軍用ドローンの残骸ざんがいもあった。


「敵も全滅ってことなのか?」


「たぶん……」


 二人は警戒しながらも生存者がいないか手分けして探す。コンクリートの建物の外にも中にも生きている人間、稼働可能な敵の兵器ともに見つからなかった。


「先輩、ここってっすよね」


「ああ、この国の最先端技術がそそぎ込まれた場所だ。、安全性を追求してたからな。ここはだ。そもそも外国やらテロなんかに備えて分離されてたんだが、それが良かったって感じだな」


「でも、発電所って……」


「人工知能のやつらが欲しいもの。喉から手が出るかどうかは知らんが、。ある程度までは人間さまのトップがこいつを交渉材料に連中を制御せいぎょしてたんだがな、人間のほうも電気がねえと困るってことになった。どっちもゆずらなかった結果こんなことになっちまったんだ。もう発電所も押さえられて人間がいねえ国もあるって聞くぜ」


 二人は人気ひとけのない廊下ろうかを歩いていく。


「もしかして……、やっぱり俺達もうは無理なんすかね……」


 若者が何かをさとったような顔をして項垂うなだれる。


「ん? どうした、そんな暗い顔をして?」


「だって、あれでしょ。この原発ごと爆破して、なば諸共もろともみたいなが上からされてるんでしょ? 伍長のぎわに先輩が何か言われてたのってそういうことでしょ?」


「おおっ、知らねえ内にちゃんと自分でものを考えられるようになってんじゃねえか。感心、感心」


「はあ……」


 歩きながらため息をつく若者をにこにこして見ている男。


「そうなんだよ。上からはその通り、人類の未来のためにいしずえにだか犠牲ぎせいにだか、要は死んでくれっていうのが俺達へ課せられた任務であり、命令だったな。でもな、こいつを爆破したとして残った人類に未来はねえやな。あんな感情なんてそもそももってねえ奴らの顔に最後ビンタを張ったところでってやつだ」


「えっ? どういうことっすか?」


 中央管理室と書かれたプレートのかかげられた金属製の扉の前で男が立ち止まった。そして胸元のポケットから何か取り出す。


「げっ!? それって、眼球がんきゅうっすか?」


「いやいや、。本物の目玉なんて気持ち悪くてポケットにいれてられっかよ。それにつぶれたら大変だろうが」


「ああ、なんだ……」


「ここは虹彩認証こうさいにんしょうなんでな、これで通過できる」


 男がその義眼ぎがんかざすと扉は音もなく開いた。中の機械類は稼働していた。男は壁際でかがむと何かを探し始める。


「そうそう、これこれ」


「何すか?」


「ただの回線コンセント」


「へっ?」


「まあ、この施設で唯一のだけどな。緊急用で使ってねえが、奴らはこのすぐそこまで触手を伸ばしてやがる。で、こいつを」


 男はさっきのレプリカの眼球を再び取り出すと、その背面をいじる。カチャッと音がしてプラグが現れた。男はそのプラグをコンセントに差し込む。


「ふふっ、


「何を……」


「こいつは先生の最高傑作だ。ああ、先生は俺の大学の恩師おんしだ。俺は出来が悪かったが、先生は天才だったな。上と意見が合わなくてこんな戦場に放り込まれちまったが、最後まで諦めてなかった。俺はあの人の意志を継いだだけだけどな」


「逆転勝利って?」


「いたって単純。。もともとはウェブ上を徘徊はいかいするクローラーを撃退する昔あったアイデアだ。それを先生が改良したんだ。こいつの感染力は異常でのさ。もうこのインターネットなんてものと人類は決別けつべつするのさ。でも、先生は100年くらいは反省するだろうけどまたもとに戻るかもっていってたけどな。まあ、100年もありゃ、人類は正気しょうきを取り戻すだろうからこれには意義があるってこった」


「もう、終わりなんすか? これで、世界は救われたとか……」


「ああ、何か? 人類もウィルスには苦しめられたろ? やつらはは経験してないし、どう頑張って対応したところで計算上こっちが


「い、いえ……。ならいいんです……本当に……良かった」


「そうだ、ここに来る途中で桜の木らしいのが見えたんだ。春の花見のためにちょっと確認にいかねえか?」


「あっ、は、はい! 喜んで!」


「あとは酒だな」


「ああ、それなら実家が酒屋だったんで、バレないように隠してるのがあるっす!」


「おっ、そりゃいいねえ」


 二人は立ち上がると楽しそうに肩を組んで廊下を引き返していくのだった。




 

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