第11話 秘密の火薬工房

尾張に導入された鉄砲は、軍事力の大きな可能性を秘めていた。しかし、鉄砲の運用には欠かせない火薬の不足が、信長の次なる課題として立ちはだかった。堺商人から購入し続けるだけでは、戦が長引けば破綻しかねない。信長は独自の火薬製造計画を立ち上げることを決意した。


火薬の課題


「このままでは鉄砲は使い物にならない。」

信長は広間で家臣たちを前に語った。

「火薬が尽きれば、鉄砲はただの飾りだ。堺商人の顔色を伺いながら戦を続けるわけにはいかぬ。」


家臣たちは困惑の表情を浮かべた。火薬の供給は全て商人に頼っており、代替案が思い浮かばないのだ。

その時、一真がAIを起動し、火薬について調査を始めた。数秒後、AIの静かな声が響く。

「火薬の原料である硝石(硝酸カリウム)は、堆肥や特定の土壌から抽出可能です。国内で製造することは技術的に可能ですが、発酵には数ヶ月を要します。」


「数ヶ月だと?」

信長は眉をひそめた。

「そんな悠長なことをしていては間に合わぬ。もっと効率を上げる方法はないのか?」


AIが再び答えた。

「発酵を促進するためには、堆肥を適切に管理する必要があります。日当たりの良い暖かい場所に置き、湿りすぎないように水や土を調整することで、発酵を早めることが可能です。」


信長はその提案に興味を示した。

「つまり、火薬の原料を早く作るには場所と管理が重要ということだな。」


一真が補足した。

「さらに、火薬製造は戦略物資のため、外部に情報が漏れぬよう、特定の村に限定して行うべきです。」


信長は鋭い目つきで頷き、命じた。

「尾張の中で最適な場所を探し出し、秘密裏に火薬を作れる体制を整えるぞ。」


秘密の村の選定


尾張中の地図を広げ、村々の立地や人の往来を調べた結果、山間に位置する外部からの接触が少ない村が選ばれた。

「この村ならば、人目につかず、外部に漏れる危険も少ない。」

信長はその村を火薬製造の拠点に指定し、弥三郎を責任者として派遣した。

「弥三郎、お前に火薬製造の監督を任せる。この計画は尾張の命運を左右するものだ。絶対に秘密を守れ。」


弥三郎は深く頭を下げた。

「お任せください。必ず成果を上げてみせます。」


硝石生成の開始


村に到着した弥三郎は、AIの助言を受けながら火薬の原料である硝石の生成を開始した。AIは堆肥の管理方法を説明し、弥三郎はそれを実践に移した。


「堆肥は暖かい場所に置け。触れて冷たければ陽の当たる場所に移し、乾きすぎていれば少し水を加える。」

弥三郎は村人たちに指示を出しながら、自らも手を動かした。堆肥を触って湿り具合を確かめるたびに、村人たちはその熱心さに感心していた。


また、鳥や家畜の糞を優先的に集め、窒素濃度を高める工夫も取り入れた。村人たちは家の周囲や畑から材料を集め、一つ一つを弥三郎に確認してもらいながら作業を進めた。


発酵室の工夫


硝石の生成を効率化するため、村には発酵室が設けられた。石と土を組み合わせた小屋の中で、堆肥を一定の湿り気に保ちながら管理する。

「手で触って温かさが感じられるなら、発酵が進んでいる証拠だ。冷たくなっていれば、混ぜるか場所を移動させろ。」

弥三郎の指導により、村人たちは発酵の進み具合を感覚的に判断できるようになった。


AIも発酵の進行状況を監視し、助言を行った。

「堆肥が湿りすぎた場合は土を混ぜ、乾きすぎた場合は少量の水を加えると良いでしょう。」


堺からの火薬購入


国内生産が軌道に乗るまでの間、必要な火薬は堺商人から購入することになった。信長は堺の商人との交渉に出向き、特別な取引を取り付けた。

「しばらくの間はお前たちから買うが、尾張が独自に火薬を作れるようになれば、そう長くは続かぬ。」

商人たちはその言葉に冷や汗をかきながらも、契約を結ぶことを了承した。


最初の成果


数ヶ月後、村での硝石生成が成功を収め、最初の火薬が完成した。信長は弥三郎から報告を受け、村を訪れた。弥三郎は信長に完成した火薬を手渡しながら報告する。

「お館様、尾張で作られた火薬がこちらです。」


信長は火薬をじっと見つめ、満足げに頷いた。

「これが尾張の力だ。この成果をさらに広げ、軍を支える柱にする。」


秘密保持の徹底


信長は火薬工房の存在が漏れる危険性を認識し、厳格な秘密保持体制を敷いた。工房の存在を知る者は最小限に絞られ、村全体が監視下に置かれた。


「この計画が外に漏れれば、尾張の未来はない。どんな犠牲を払っても守り抜け。」

家臣たちはその言葉に深く頷き、忠誠を誓った。


未来への展望


火薬の国内製造が始まり、尾張の軍事基盤は強化されつつあった。信長はその成果を見つめながら、一真に語りかけた。

「これで尾張は、他国に依存せず自分たちの力で未来を切り開ける。」


一真は信長の言葉に頷きながら、この計画が尾張の命運を大きく変える一歩になることを確信していた。

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信長×AI:時空を越える天下統一 れおんがくしゃ @leo_086

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