第2話 初陣と信長の覚悟

意識を取り戻した神崎一真(かんざきかずま)は、冷たい夜風を感じた。辺りを見回すと、自分は織田信長と名乗る若き武将の前に跪かされていた。信長の鋭い眼差しが一真を射抜く。近くの篝火が信長の顔を赤々と照らし、その若さとは裏腹の威圧感を際立たせている。


「貴様……正体を明かせ。何者だ?」

信長は静かな声で言った。その一言一言が兵たちの緊張をさらに高めているようだった。


一真は何とか口を開こうとしたが、緊張で声が詰まる。しかし、ふと信長の後ろに立つ老武士の言葉が耳に飛び込んだ。


「お館様、こ奴が間者(スパイ)であるなら、即刻処断すべきではございますまいか?」


その言葉に一真の心は凍りついた。彼は生き延びるために必死に頭を回転させる。そして、奇妙な装置(AIデバイス)を手にしていることが信長の興味を引いていることを察し、それを活かすことに決めた。


未来からの導き手


一真は覚悟を決め、話し始めた。

「待ってください!僕は敵ではありません!この時代の人間ではない……もっと遠い未来から来たんです!」


信長の眉がぴくりと動いた。周囲の武士たちはざわめき始める。未来という言葉が彼らにとってどれほど不可解であったか、一真には痛いほど伝わった。しかし、信長は興味深そうに一真を見つめ続けた。


「未来?貴様、まことに愚弄する気か。それとも、神の啓示を受けたか?」


一真は言葉を選びながら続けた。

「信じてもらえないのは分かっています。でも、この装置を見てください。これは未来の技術で、僕が信長様のお役に立てる証拠です。」


一真が手にしたデバイスが小さく光を放つと、信長の目がわずかに見開かれた。その瞬間、AIが低い合成音声で語り始めた。


「私は未来の知識を持つAI。織田信長様の天下布武をお助けします。」


兵士たちは恐れのあまり後ずさりし、老武士でさえ刀に手を掛けた。しかし信長は微動だにしない。それどころか、さらに興味を深めた様子で一真を見つめている。


「この機械は神の声か?それとも貴様の策か……?」


信長の問いに、一真は一瞬ためらった。しかし、命を繋ぐためには信長を納得させるしかない。

「これをどう捉えるかは信長様次第です。僕はこの装置と知識で、未来を見据えた助言を差し上げることができます。ただし、それを活かすかどうかは、信長様の判断次第です。」


その言葉に信長は微笑を浮かべた。

「ほう、面白いではないか。ならば試させてもらおう。」


信長と信秀


翌朝、一真は信長の小さな軍勢と共に行軍していた。彼は戦国時代にいるという実感をようやく受け入れ始めていた。だが、その細かな時期が気になって仕方がなかった。一真は周囲の会話に耳を傾けながら、状況を把握しようとした。


「お館様、今川義元が西から圧力をかけておりますが、信秀様の策が功を奏し、ひとまず尾張は安泰でございます。」

「うむ、父上には感謝せねばな。」


その言葉に一真の目が見開かれた。信秀が生きている?ということは……。頭の中で歴史の年表を思い出す。信長の父・織田信秀は1551年に死去したはずだ。それなら、この時代は1549年頃のはずだと彼は推測した。


「1549年……。信長は15歳……まだ若い時期だ。」

一真は頭の中で歴史の流れを整理し、この時代で自分が何をすべきかを考え始めた。


初陣と奇策


その夜、信長の陣営に急報が届いた。隣国の土豪が兵を挙げ、織田軍の領内を侵略しているというのだ。信長は即座に出陣を決意するが、相手の兵力は圧倒的に優勢だった。


一真は信長に助言を求められた。

「未来の知識を持つお前ならば、この状況をどう打開する?」


一真はAIの助けを借りて地形を分析し、敵軍の動きを予測した。そして、夜襲を仕掛けることを提案する。

「敵は自分たちの優勢に油断しています。夜襲をかければ、彼らの陣形を崩せるはずです。」


信長は一真の提案を採用し、少数精鋭で敵陣に奇襲を仕掛けた。敵は混乱し、あっという間に敗北を喫した。この勝利により、信長の部隊は自信を取り戻し、彼の指導力にさらに信頼を寄せるようになった。


信長の覚悟


戦いの後、信長は一真に向き合い、こう語った。

「お前の知恵とあの機械、確かに役に立つ。だが、忘れるな。この乱世で必要なのは、知恵だけではない。覚悟だ。」


一真はその言葉に重みを感じた。この若き信長は、まだ荒削りではあるが、確かに天下を目指す資質を持っている。そして彼は、その未来を信長に託す決意を固めた。


こうして一真は信長の側近としての一歩を踏み出した。しかし、この先に待つのはさらなる試練と、未来を揺るがす決断だった。

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