第1話 未来からの導き手

西暦2045年、東京都郊外。地下30メートルに位置する巨大な研究施設「NeoHistory Labs」では、未来を変えるべくある実験が行われていた。その名は**「Project Nobunaga」**。

織田信長という一人の天才的なリーダーの思考を再現し、現代の混迷を打破する知恵を得る——それがこのプロジェクトの目標だった。


神崎一真(かんざきかずま)はその研究チームの一員だ。AI技術者であり、無類の歴史オタクでもある彼は、このプロジェクトに情熱を注いできた。しかし、その夜、思わぬ事態が彼を待ち受けていた。


「システム異常発生!転移装置が暴走しています!」

警報音が施設内に鳴り響き、モニターの表示が赤く染まる。一真は眉をひそめながら操作盤を叩いた。

「おいおい、こんなタイミングでトラブルかよ……!」

AIの学習データの調整中に、システムにエネルギー過剰供給が発生し、装置全体が暴走を始めたのだ。


「止めろ!装置を緊急停止しろ!」

上司の怒号が響く中、一真は転移装置の制御プログラムにアクセスしようとした。しかし、その瞬間、装置から放たれた強烈な光が彼を包み込んだ。


——意識が途切れる。


目を覚ますと、そこは土の匂いと火薬の煙が充満する場所だった。一真は頭を押さえながら、周囲を見回した。

「……ここは……どこだ?」


目に飛び込んできたのは、荒れた野原と散乱する兵士たちの姿。槍や刀を持つ彼らが、何かを叫びながら戦っている。遠くからは馬のいななきと、火縄銃の爆音が聞こえた。


「これって……戦場?」

混乱する一真の背後で、男たちの怒声が響いた。


「なんだこいつ!妙な服を着ているぞ!」

「敵の間者か!」


振り向く間もなく、複数の武士が一真に飛びかかり、縄で縛り上げた。


一真は連行される途中で、ようやく自分がタイムワープしてしまったことを理解した。しかも、どうやら戦国時代らしい。

「マジかよ……戦国時代にタイムスリップ?こんなのSF映画の中だけだろ!」

彼は必死に弁明しようとするが、武士たちは耳を貸さない。やがて、彼を乗せた馬が小高い丘の上に到着した。


そこに待っていたのは、ひとりの若き武将だった。周囲の兵士たちは彼を「殿」と呼び、頭を垂れている。その男は端正な顔立ちに鋭い目を持ち、どこか威圧感すら漂わせていた。


「この者が捕らえた間者か?」

低く響く声。彼こそが織田信長だった。


一真は信長の視線を正面から受け止めたが、その鋭さに背筋が凍る思いだった。

「貴様……妙な服装だな。それに、その手に持っている奇妙な装置は何だ?」

信長の指が一真の手元を指し示す。そこには彼が持ち続けていたAIデバイスが光っていた。


「そ、それは……ただの……」

言葉に詰まる一真を、信長は値踏みするような目つきで見つめ続けた。そして、興味深そうに口角を上げる。

「まあよい。処刑するには惜しい。だが、俺の質問に答えられなければ、ただの間者として首を刎ねるだけだ。」


緊張が高まる中、AIデバイスが突然起動した。画面が明るくなり、合成音声が響く。


「織田信長様、初めまして。」


信長だけでなく、その場の全員が目を丸くした。一真は唖然としながら、デバイスから聞こえる言葉に耳を傾けた。


「私は未来の知識を持つ導き手。この者と共に、あなたの天下布武をお助けいたします。」


信長はしばらく沈黙していたが、やがて小さく笑い声を漏らした。

「面白い……まるで神の啓示のようだな。」


信長は一真に近づき、そのデバイスを手に取った。画面に表示される文字を見つめながら、再び口を開く。

「未来の知識、か……。よかろう。貴様とその道具、俺が試してやる。使えないと思えば、即座に処分するまでだ。」


一真はその後、信長の命令で最初の「試験」に臨むこととなる。それは、敵方の伏兵を探り当て、勝利への策を提示することだった。

AIデバイスは地形データを解析し、伏兵の位置を特定。信長はその情報を信じ、一真の進言通りに軍を動かした。


結果は大勝。信長の兵たちは歓声を上げ、信長自身も一真を興味深そうに見つめた。

「やはり貴様、ただ者ではないな。」

信長のその言葉に、一真は未来から来た者として、この時代で果たすべき使命を覚悟した。


「僕が……織田信長を導く?これ、冗談だろ……」

しかし、内心の動揺とは裏腹に、彼は信長の新たな軍師として認められることになる。戦国の乱世が、一真とAIによってさらに激動の時代へと変わり始めたのだった。

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