第4話 想いが溢れてしまいそうになる活動の男

「冷えてます、大丈夫ですか?」

 シャワーを浴びても細身のA奈は、もう肩口や背中が冷たく感じる。布団を2人の上から掛ける。

 照明も最小限で布団を被っていると、殆ど顔は見えなくなる暗闇になっていて、互いの息遣いと体温、匂いがより際立ってくる。

 寒くないですか?と布団の中で肩と背中を擦ってくれている。

 なんでこの人は……

「温めます、このままで……」

 正面から緩く抱き合っている。真っ暗な中、男の体温に触れていると、A奈の身体も、布団の中も段々と熱くなってくる。

 (あー、下の方は無視してください……)

 コツコツと、A奈の太腿に、すでに昂ったY哉のモノが当たるのに、無視しろと言われる、、、。

「変なヒトですね」

「変ですか?、俺、いつまでもいちゃつきたいんです……よね」

「男の人は、直ぐに挿入してピストンするものだとばかり……思ってました。」


 えぇ〜、闇の中で男が嘆息している。

 照れ隠しに髪をかきあげたようだ、ふわっと濡れた髪の毛が微かに額に当たる。

「確かにそう言うタイプが居るのも知ってます……でも、俺は、もっと触れ合ってから、お互いを見合いながら、したい、んです……」

 その掻き上げた手をコチラに向けて、少し汗ばんできたA奈の髪を耳に掛ける。

 (見えないけれど、見つめられてる、多分、)

 知っているあの優しい目に、、と思うだけで、身体の芯が揺れてくる気がした。


「良い匂いがします……」髪の毛を撫でていた手に続いて、額に唇が当たる。身体がピクリと反応する。誰かに全身を触られるのはいつぶりだろう?

 首筋に沿って唇が動く、背中に回された腕の中にすっぽりと収まっている。抱え込まれてる、

 男性の筋肉質の温かい両手で肩甲骨をさすられると、知らず知らずのうちに、内側から火照ってくる。

 鎖骨から胸にキスが到達した時に、Y哉の右手が乳房に軽く押し付けられる。

「良いですか?」

「いちいち聞かなくても、、」

「だって、これは、デートみたいなモノなので、知る為に、知って貰う為に、時間を掛けたいんす、」

 

 (だって、デート断られたし……)

 とY哉が考えている事が分かるようで、つい、A奈は笑ってしまった。まるで幼な子のような面があるY哉、その純粋さは、

 (今の私には要らない……)と思う言葉は飲み込む……


 沈黙が了解と取られたのか、少しずつ乳房への愛撫が熱を持ってくる。

 漏れないようにA奈は自分の手の甲を口に当てて、

「んくッ」溜め息をする。

 その微かな相手の反応に、触れていた指にチカラが入る。

 こんなに丁寧に乳首を触られるのは初めてで、

 暗闇の間の温度が一度、上がったみたいに感じる……


Y哉は相手に触りながら、(肌の温度が上がってきて、身体全体が受け入れてくれてる気がする、もう少し進んで良いのかな?)と、もう一歩近づいて抱き締める。

 静かに乳首を含む、

「!……ん、ふぁ」初めてはっきりとA奈の声が出て、2人とも一瞬動きが止まった。

 

Y哉は

 (慌てちゃダメだ、俺ぇ〜)、自分に突っ込みを入れつつ、

 ゆっくり、ゆっくりと両手で撫でながら、舌先で乳首を転がしたり吸ったりしていく。

 (ん、美味しいデス……)、うっかり口にしてしまう。

 A奈は、胸の心地良さと、むずがゆさ、居た堪れなさがないまぜになり、更に下腹部の奥が「キュウッ」となってしまうのを感じて、汗が一気に吹き出して来た。


 プハッと、思わず布団から顔を出して息をつく。

「布団、暑いですか?」Y哉に尋ねられて、頷いたのを見て、男は布団を折り畳んで、A奈の頭の上から肩を守るように包んだ。

 ――――――――――――――――――――

 (こんなに、丁寧に触ってくるなんて……)

 A奈は自分が冷えないように熱い手と身体で暖めながら、愛撫してくる男を不思議な生き物を眺めているような感覚に陥って来ていた。

 横向きに抱き合っていたのが、いつの間にか、上に男が被さっている。右手が下腹部に触れるか触れないかの所で留まっていて、

「コレはいいんですか?」臍の下から始まる傷痕を言っているのだと、A奈はドキリとしたが、

 (いいわ、)とできるだけ感情を込めないように伝えた。


 (痛々しい、)まだ生々しく感じる傷痕の周りをそっと撫でていく、大変だったんだろう、青い顔をしていた時の頃の彼女が思い出された。

傷痕をそっと押さえていた右手のチカラがつい篭る

「……ごめんなさい……」

 傷痕が震えているように見えて、そっとなぞる。

口付けしてもいいですか?

 言葉は無く頷いてくれる。

 まだ痛々しい長い傷にそっと口を付ける。ピクッと震えてくれた……

 「女性の痛みは俺には分からないかも、知れませんが、辛かったのを、伝えて欲しかったです」

 これは、部下として、或いは同僚として、、。

 違う、惹かれていて気になってたから、俺がもっと伝えたかった事なんだと、言いたかった。

――――――――――――――――――


 A奈が、ため息をついて、暗闇に慣れてきた目で真っ直ぐに見つめた。

「私の気持ちが貴方にわかるのですか?」


「……!」

 動きが止まってしまう。

 男だから?

 その立場に居ないから?


 分かるわけない、でも

「知りたいです、教えて貰いたいって思う、願うのも駄目なんですか?」

 胸が締め付けられる、もう会えなくなるかもと思った感覚を思い出して苦しくなる。

「貴方が居なくなると思うだけで、切なくなるのは、思う事もダメなんですか?、俺だけの感覚なんですか?」

 

 

 (うわ、支離滅裂じゃないか)

 

 (拒否されてるのを分かってて、誘った、俺が、俺のわがままで突っ走った、……)

 もう迸るほとばし言葉のまま、其れを抱きしめて突っ走る。

「あなたをもっと知りたい、俺を知って貰いたい、口に出すのも憚るはばかべきだと?」 

苦しい、顔が歪んで真っ赤になってるし、全然イケテナイよ、オレ……


 痩せてしまった腰が当たる、

 悲しくなるのは、

 キット、愛しいから、。

 

 この傷痕だって彼女の一部だ。


 俺を

 拒否するのも、

 受け入れてくれてるのも、

 誰かを想っていて俺の視線から逃れて行ってしまうのも、全て彼女の一部、。

 何も言ってくれない、傷痕にゆっくりと舌をなぞらせる、更にピクリと動く。

 その上に指でも撫でて行く、傷ついてる……。

 

 全ては要らない、伝えたいものが有るだけだ。

「アナタは俺を仕事では認めてくれてたと思ってました。想いは認めてくれないんですね」

 

「もう、俺とはコレっきりにしたいと決めてるんだ……」

 顔は見ないで傷痕に話しかける。

 

 ポッ……ポタッポタ。いつの間に目から熱い水が落ちる。

 何故あなたが泣くの、A奈の目も真っ赤になっている。

 駄目だ、思いが込み上げてきてしまっている、


「……ごめんなさい、帰ります、、いえ送ります。

 今日、、付き合って貰ってありがとうございました……」

 

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