第5話土竜グランティー
私は竜のお姉さま方に鍛えてもらうことになった。
「まず最初に、基礎的な肉体改造からでしょ、なら、土のあたしが一番手でいいわね」
土竜のお姉さんが宣言する。土竜と言っても、もちろんモグラのことではない。土色の髪に、穏やかそうな顔をしている。竜の姉妹の中では、一番温和そうに見えた。ただし、あくまでも初対面での印象だ。しかも、人型になる前の本当の姿も間近で観ている。
「おい、待ちなよ。あんたが終わるまで、こっちはお預け?」
赤竜が口を挟んだ。
「だって、しょうがないじゃない。まず、わたしたちのしごきに耐えられる肉体してあげるのが先決でしょ。あの子のときもそうだったじゃない。魔王と姉さんの血を引いてるあの子でさえ、何度も殺しかけたの、忘れた?」
殺し掛けたという物騒な言葉を聞き、私は正直ビビった。
「あ、あの、殺し掛けたって、マジですか?」
「あ、あれは、つい修行に張り切り過ぎただけで・・・、大丈夫、ちゃんと手加減するから」
下手な言い訳をする赤竜に土竜が呆れたように言い返す。
「手加減て、何度も全身大やけどさせておいてよく言うわね。とにかく、この子は人間なんだから、絶対に先に肉体を強くするのは大事だと思うけど。違う?」
「ま、そうね、それが順当でしょうね」
黒竜のお姉さんが、他の姉妹を見る。たぶん、長女の光竜の次に強いのだろう。誰も反論はなかった。
そして、出番が後回しになった火の赤竜や水の青竜、風の緑竜たちが渋々山を去っていき、私と土竜の姉さんがその場に残された。
「まず、今のあなたの実力を見させてもらうわ」
「!」
彼女の姿がぼやけたと思うと、次の瞬間、元の姿に戻った土竜の巨大な尾が、ブンと私に迫った。巨石が飛んできたみたいだったが、咄嗟に風魔法で障壁を作り、風の壁で尾の威力を殺しながら、後ろに吹っ飛ばされる。
義母である光竜に聖剣を折られてから、頭の片隅で次やられた時は、こうやって躱そうと考えていたものだった。
尾に吹っ飛ばされるように後ろに飛び、間合いを広げる。
「やるわね」
土竜は、すぐ人型に戻って、突撃するように間合いを詰めた。
反射的に雷撃で応戦する。
ピカッと雷が地面に落ち、土竜に直撃した。が、その足を止めただけで、彼女は平然と笑って立っていた。
「あらあら、雷は土属性で、あたしにはあまり効かないんだけど、今のはいい攻撃だったわ」
魔王には雷を斬られ、土竜には雷が全く効かなかった。
勇者として今まで身につけたものが通用しない、魔界はバケモノだらけだと思い、つい、ため息をついた。
勇者だからと、うぬぼれているつもりはなかった。そう呼ばれるためにたくさん鍛錬したし、魔王城に乗り込むまでに充分な経験を積んでいた気になっていただけのようだ。
「なるほど、無詠唱の魔法の発動は得意なようね。じゃ、まずは裸足になって」
「裸足?」
「そう靴を脱いで土を足の裏で感じるの、足の裏から大地の力を吸い上げ頭のてっぺんまで運ぶ感じ。雷の魔法で、相手に雷をぶつけたとき、天と大地の力がつながるような感覚があるでしょ。あれと同じように、足の裏から大地の力を吸い、天からの力を自分に取り込んで流し込むような感じ。天と地の力をつなげて自分に取り込むの、そうすると、巨木みたいに疲れ知らずで何年も立っていられるわよ」
「は、はぁ・・・」
天と地の力を取り込めと言われても、正直、よく分からなかった。
「いきなりは難しかったわね?」
ふと土竜は私を見ながら考えた。
「じゃ、そのまま、膝を地面につけて、天に祈るように膝立ちをして、目を閉じて顔を上に向けて口を開けて、何が起きてもジッとしてて」
「?」
「大丈夫、怖いことじゃないから」
何となく不安だったが、言われるまま目を閉じ、口を開けてジッとしていた。
「・・・ん?」
口の中に生暖かいものが注がれる。嗅いだことある匂いと味だった。
つい我慢出ず、薄目を開けると、土竜のお姉さんが自分の手首を手刀で斬ったらしくあふれ出る血を私の口の中にそそいでいた。驚いたが、竜の生き血については万病に効く妙薬だとか不老長寿の薬だとか言う伝承を聞いたことがある。その伝承が正しいかどうかは知らないが、こうして飲まされているということは、飲むべきものだろうと、何とも言えない生暖かい血の味を我慢して喉の奥に流し込む。
そして、それが胃に辿り着いたと感じたとき、急にお腹の中が熱くなり、自分の肉体が、なに変わっていくような激痛を感じて、私は気を失ってしまった。
そして、目を覚ました時、私の顔を覗き込んでいる魔王と目が合った。
気を失って堅い地面に倒れたはずだが、私は両足を伸ばした魔王の太ももに頭を乗せていた。
どれくらい気を失っていたか分からないが、不用心な寝顔を彼に見られたと急に恥ずかしなって慌てて顔を上げた。すると覗き込んでいた彼の顔と頭をごつんとぶつけてしまった。
「いてっ、その様子だと、竜の血は身体に馴染んだようだな」
彼の言葉にハッとなる。お腹の痛みは消えていたし、生まれ変わったようにすごくすっきりした気分だった。
「ほら、別に目を覚ますまで、そばについていなくても大丈夫だって言っただろ」
土竜のお姉さんが私たちを見て笑っている。どうやら、私が気絶してから、彼がやってきて、私が目を開けるまで待っていたようだ。
「さ、もういいだろ、あんたは城に戻りな。この子の修業はこれからだからね」
「本当に任せて大丈夫ですか、叔母さん」
「なんだい、あんたもここに残って、ここで子作りでも励みたいのかい? ま、新婚だから、やりたい盛りなのは分かるけど、ちょっと我慢しな」
「そ、そんな、や、やりたい盛りじゃありません」
私は思わず顔を赤らめて、否定した。
「ん? あたしらは、あんたら二人の子供が早く見たいから。いいよ、別に恥ずかしがらなくても。修行より、性欲に任せて子作りに励んでも、あたしらは止めやしないよ」
「・・・」
子作りに励むどころか、こっちは、まだ新婚らしい初夜を越えてはいない。
さすがの魔王も、この話題をどう切り抜けようか困っているようだった。
「なんだい、なんだい、うぶな童貞や処女みたいな顔して。あんたたち、新婚だろ。新婚ってのは、毎夜、子作りに励むものだろ」
土竜のお姉さんが私たちを何だか呆れるように見ていた。
痛いところを突かれたので、私も彼も口ごもった。
いや、私は悪くない。無防備な姿をさらしていたのに、魔王のくせにヘタレて私に手出さなかった彼が悪い。
「と、とにかく、本格的な修行を、さっそく始めましょう」
私は色々と誤魔化すように土竜に言った。そして。魔王が補足するように私に告げた。
「あ、修行すると聞いて、食料を、あそこに置いておいたから。うちの叔母さんたち、自分たちがたまにしか食事しないから、つい、こっちの食事のことを忘れるから。たまに様子を見に来るから、とりあえず、俺は城に戻るよ」
子作りの話題は彼も苦手なようで、そうして逃げるように魔王城へ転移して、私はそこに残された。
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