第6話剣将軍の娘カフィー

魔王に敗れ、意気消沈したのは勇者だけではない。同行した仲間たち、女戦士、女魔法使い、女神官も同じだった。

彼女たちは、それぞれ、人間界で秀でた者として勇者に同行し、魔界を旅し、魔王城に攻め込んだ。魔王城に辿り着くまでに、充分に魔界の魔物たちを倒し、魔界について慣れたと思っていた。

そして、この勢いで行けば魔王なんて楽勝だと思いあがっていたのだが、結果として無様に敗走し、勇者は魔王の嫁となったのだ。

勇者たちのパーティーの前衛を任されていた女戦士は、帝国の剣将軍と呼ばれる父のもとに帰っていた。

皇女と違い、親の命令で戦士になったわけではない。父の剣技が美しくかっこよかったから、父に憧れ自ら頼んで剣を教えてもらい、強くなった。もし、皇女が勇者として育てられなかったら、皇女の近衛になっていたかもしれない。

とにかく、帝国内でもそこそこ剣の腕を認められたのだが、魔王の返り討ちにあって人間界におめおめ逃げ帰ったことは、知れ渡っている。

そんな自分の不甲斐なさを恥じるように、屋敷の板張りの道場の真ん中でひとり正座して、目をつむって魔王戦を回想していた。もっとあそこで思い切って踏み込んでいれば、もっと支援魔法が欲しかったなど、思い出しながら、あのときの自分に足りなかったものを考える。だが、何度反省しても、結局自分の力不足という結論に辿り着くだけだった。

せめて、魔王の魔剣に匹敵する武器が欲しい。

よく斬れる名刀を父から譲り受けていた。必ず己を守ってくれるはずだと肌身離さず持つように言われた名刀だったが、魔王には届かなかった。ただよく斬れるだけじゃ駄目だ。なにか特別な力が付与された武器でないと魔剣と魔王の鎧で武装した魔王には届かないと感じる。

ふと道場に父が入って来た。白髪の大柄な漢で、いかにも武人という顔つきで、元々は遥か東、海を越えた島国の出身で、凡人な兄王子と秀才の弟王子の王位をめぐる対立に巻き込まれ、秀才の弟王子側についたのだが、凡人の兄王子に有力諸侯が加担し、弟王子が勢力争いの果て打ち首にあい、それを機に少数の部下を連れて国を捨て、海を越えて、帝国の客将になり、女帝から帝国の将軍職をいただいていた。

「なんだ、また反省か、反省するよりも一回でも多く素振りでもした方がよいぞ」

道場に正座していた娘にそう声をかける。

「父上は、魔王と勇者の戦いを見ていないから。あれは、聖剣を持った勇者で、なんとか戦いになるレベルでした」

「うむ、聖剣使いの姫様と互角とは、魔界の武術もなかなかのモノじゃの」

帝国の武人として。勇者として育てられる皇女を彼は間近で観ていたから、その実力も知っていた。

「ああ、あれはやばいぜ、オヤジ。陛下が慌てて娘を嫁に出したのも、理解できる。だが、勇者と魔王だ、いずれ派手な夫婦喧嘩を起こして、勇者が魔界から逃げ出してくると思うぜ?」

「夫婦喧嘩して、嫁が実家に出戻りか。ありそうだな」

剣将軍も真剣にそう考える。

「で、お前はそれに備えて、道場で瞑想か?」

「ああ、いざとなったらあの子を助けに魔王城に再び乗り込む覚悟はできてる」

本当は勇者が嫁入りするとき、自分も従者として魔界について行きたかったが、魔王側から、余計な者は連れて来るなと拒否られていた。

だが、魔界にひとりでいる勇者が魔王と喧嘩して魔王城を飛び出すというのは、あながち的外れな予想ではないと思っていた。この頃、女戦士たちは知らなかったが、勇者は夫婦喧嘩ではなく、嫁姑問題で魔王城を飛び出して竜姉妹のところに身を寄せていた。

「とにかく、万が一を考えて、もっと強くなりたい、もっと強い武器が欲しんだ、オヤジ」

「うむ・・・」

娘の言葉に剣将軍が考え込む。

「つまり、己を高めるために武者修行にでも出たいのか」

娘の心の内を読む様に将軍が尋ねる。

「ああ、そうだよ。それもあいつのそばに行きたいから魔界での武者修行だ。ついでに魔界中を探せば魔王に対抗できる武器が見つかるかもしれない。いいだろ、オヤジ」

勇者のいる魔界で己を鍛え、そのついでに魔王に対抗できる武器を魔界で探す。妙案だと思った。

「分かった。じゃ、まずは久しぶりに稽古だ。惨めに逃げ出して来たのに、また魔界に挑むんだ。それなりの覚悟を見せてくれ」

父は仕方ないといった笑みを浮かべていた。

そして、訓練用の木刀を手に互いに構えた。父から本気の殺意を感じた。実力を確かめるというより、娘の身を案じて、ある程度怪我させて、魔界行きを断念させる気だったのかもしれない。

カンカンと何度か木刀で打ち合った。が、本気となった父は強かった。ので、こちらも、つい熱くなった。白髪になる年齢である。年齢の衰えは、すぐに出て、気が付けば、父を道場の床に倒していた。

汗だくで青あざのできた父が、床に寝転がりながら笑っていた。

「儂も、老いたな。まだまだ強いつもりでいたが、息が持たん」

自分の老いを嘆くようにため息をついていた。

「魔界に行って来てもいいよな、オヤジ?」

「まさか、一人で行くつもりか?」

「ちゃんと仲間と行くさ、ひとりで乗り込むほど、バカじゃないよ」

「そうか、ならいい。無事に帰って来いよ」

「ああ、もちろん。強くなるだけじゃなくて、魔界の隅々まで冒険してすごい武器を見つけて、いまよりもっと強くなって帰って来るよ」

魔界で修行しても、強くなれる保証はない。だが、やられっぱなしというのも性分ではなかった。

とにかく、魔界へのリベンジの旅を戦士は決意した。

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