そして文化祭へ

あれから世界は私を置いていくかのように早く過ぎていった

前までの、世界をゲームだと思い込んで正気を保っていた頃の私からは考えられない変化だ

あの時は全てが苦痛だった

今はあっくんのことを思い出せて目が覚めた

それもこれも全部、昭良たちのお陰

そして私は…

「おい!茜!」

「…プイっ」

「もしかして聞こえてないか?

おーい!茜!」

私は無視してどこかに行く

そんな昭良にクラスメイトは肩に手を置いて慰める

「ま、どんまい」

「昭良には高嶺の花だったんだ」

「うるせぇよ!お前ら」

昭良はクラスメイトの首に腕をかけてフェイスロックをする

それを笑う他のクラスメイト

微笑ましい光景だ

それはそれとして私は教室を出てトイレに籠る

切り替えのために深呼吸をして…

あああああぁぁぁぁぁあぁ!

真っ赤な顔を一生懸命押さえる

ダメだ!めっちゃくちゃ昭良のこと好きだわ!

なんか全ての動作が可愛く見える

茜って呼ぶときは犬のしっぽが見えてる気がするし、フェイスロックしている時の笑顔は可愛すぎる

なんだこれ?私、流石に変わりすぎ

落ち着きを取り戻してからトイレを出る

この動悸をどうにかしないといけない

じゃないと私がどうにかなる


それはそれとして今日は文化祭前日

私達の学校もほとんど準備が終わっている

少し変わったところは一部布が被っている所があることだ

それは私たちが描いた絵画である

生徒会や教師陣の協力の元、設置してもらった

当日までお披露目はしない方向らしい

まぁサプライズ感があっていいと思います

それに私達が描いたもの以外にも布が被せられている

どうやら本当にサプライズも用意されてるみたい

文化祭前日ということもあって放課後もかなり賑わっている

何に使うのか知らないけど大きな板を運んだり、調理に使いそうな器具を運んだり…

皆が一生懸命準備しているところ、私達は…

教室に戻るとそれは一目瞭然だった

「暇だな」

「暇ね」

クラスメイト達は座って喋っていた

そう、かなり暇していた

理由は簡単、私達の出し物は展示

他の所より準備が圧倒的に少ないのだ

でも学校の皆が頑張っている中、帰宅するのもなー

これでも一応生徒会の仕事を手伝ったりはした

校内の飾りつけのほとんどは私達が行ったものだ

だけど元々数少ない生徒会メンバーで終わるようなものだったから対してヒマつぶしにもならず…

一部のクラスメイトは他のクラスの手伝いに行ったけど、同じクラスに友達が多い私達とかは教室でおしゃべりをしていた

私も有愛の近くの席に座る

「お帰りなさい」

「ただいまー」

「はぁーまさか昭良がクラスの人気者になるなんてね」

有愛の視線の先を見ると、クラスメイトと話す昭良

一年の頃の目つきはどこに行ったのやら…

今は優しい目で人のことを見るようになっている

一体何があったのやら

「まぁこの世の中全てを敵だと思っていたような奴だったからね

あんなことがあったらそうなるわよ」

「それに今まで友達もいなかったからね

…あんなこと?」

「そう言えば昭良の魂の演説知らないのよね」

「何それ聞きたかったなー」

「…やめた方がいいわよ」

「余計気になる!」

お預けを食らった私は頬をプクーと膨らます

それをぷしゅーっと指で押す有愛

「…暇だね」

「ヒマね」

「おい茜」

いつも聞いている低い声が私の横から聞こえる

ゆっくりとそっちの方を向くともちろんそこにいたのは…

「あ、昭良⁉」

「いや何でそんな驚いてんだよ

今しているだろ?抜け出さねぇか?」

「今スグです…?」

「なんでそんな気持ち悪い敬語使ってんだよ?

もちろん今すぐに決まってんだろ」

「shだあjふぃおあ」

「えぇ…?」

放課後二人きりのシチュを想像して発狂する私と本気で困惑する昭良

昭良は私の相手をするのを諦めて有愛の方を見る

「もちろん有愛もな」

「は?」

「なんでそんなにキレてんだよ」

「いやいやいやいや馬鹿かな?

貴様はもしかして馬鹿なの?馬鹿だったわね」

「本当になんでキレてんだよ⁉」

そうしてもっと困惑する昭良とマジギレする有愛

更に元からいた発狂して周りを見ていない私も加わって空間はカオスになっていた

「え…」

それをたまたま教室に入ってきた先生が固まってしまう

情報がようやく完結したのか、数分してから咳ばらいをして一言

「お前ら…帰れ」

憐れむ目で興奮した by一生徒


私達は一足先に学校を出て歩く

昭良を先頭にして有愛がその隣で仲良さそうに話をしている

そして私は後ろを歩いていた

全然二人きりでデートとかじゃなかった!

私は恥ずかしさのあまり顔を上げて歩けなかった

教室で一人勝手に舞い上がっていた私は何だったのでしょう…

しかも変な言葉で叫んでたし…

思い出すだけで顔から火が出そう!

顔を手で覆い隠しながら、ふと昭良を見る

とっても楽しそうに有愛と話している

ちょっと妬けちゃうな

思えば私と二人でいる時の昭良はあんな顔見たことないや

昭良の笑顔を出せるのは私じゃない

その事実に少しだけもやっとする

電車に乗って着いたのは私の家だった

正確に言うと私の家の隣にある、あっくんの家だった

なぜか鍵を持っていた昭良を先頭に中に入っていく

「この家に何の用なの?」

「茜、人の話聞いてなかったのかよ」

「私と昭良で話してたじゃない」

「あ、あはは~」

まさか教室での出来事を恥じて聞いてなかったとは言えない

私は笑って誤魔化す

有愛はため息をついて説明してくれる

「秋徒の部屋に茜に見てほしいものがあるって言ってたわ」

「誰が?」

「秋徒のお父さんよ」

お父さんが?

一体何を見せたいのだろう

…あっくんが死んでからあっくんの部屋だけは立ち入ることができなかった

怖かった

あの部屋であっくんを思い出すことが

でも今は違う

私はあっくんが人を恨むような人じゃないことも思い出せた

今なら…勇気を出せるはず

「わかった、行こう。あっくんの部屋に」

そう意を決す

それでも不安なものは不安だ

あっくんの部屋の扉のドアノブを掴んだ手が震える

上手く力を入れれない

そんな私の肩に二つ、何かが置かれる

振り返ると昭良と有愛が片手を私の肩に置いて鼓舞してくれる

…そうだ

今の私には昭良に有愛、信じれる人がいる

あっくんの何を知っても…私には信じれる味方がいる

それだけで私の手は震えるのを止めた

そうして扉は開かれる

「…ぁ」

部屋を開けた瞬間に一つの絵が目に入る

それは部屋の真ん中に堂々と置かれていた

きっとまだ描いている途中だったのだろう

それでも何を描いているのか、すぐに分かった

「…茜だな」

「茜ね」

満面の笑みを浮かべている、私だ

次に目が行くのは壁の絵

それも私、私、私

どうして

私の絵は絶対に書いてないと思っていたのに…

『ねぇ!どうしてあっくんは絵を描き始めたの?』

小学校の頃、私があっくんに言ったことが思い出される

どうしてだろう

確かあっくんはこう言ってた…

『描きたいものを見つかったんだ』

『なにそれ!気になる!』

『…内緒

でも、もしも納得できるものが出来たら茜にも見せてあげる』

『えーケチ!』

「…あぁようやくわかった」

あっくんが描きたい物…それは

「私だったんだね」

それに気づいた瞬間、頬に一筋の涙が流れる

二人に慰められながら私は泣き続けた

私の一人で勝手に抱いていた呪いは、涙と共に流れていった

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