過去と篠原
中学一年生の夏
私は人を殺した
きっかけはたまたま私が木の根か何かに足が引っかかったせいだ
それで転んだ私はたまたま車道に出て、たまたまそこに車が通って
その車がハンドルを切った先がたまたま崖で
そしてその事故でたまたま生き残った子がたまたまクラスメイトになって
…私は前世で何をしたのだろう
私の憧れた先輩はこの手で殺した
私の罪を共に背負ってくれた人は自殺した
私の大好きな友達は悲しみに暮れた
…でも生きている
私は彼女を守ることだけが生きる理由になった
そして今、その友達がまた一人で泣こうとしている
私はどうするべきか分からない
そんな思いとは裏腹に足は屋上に向かっていた
「ナーちゃん!」
屋上の扉を勢いよく開ける
そこにはしゃがみ込んでいるナーちゃんとそれをなだめる摸部君がいた
ナーちゃんは泣きながら言葉を続ける
「私は、どうすればいいの?」
「ナーちゃん…」
「成実さん…」
「まさか、茜ちゃんが…秋徒先輩の、恋人だったなんて…」
ナーちゃんからしたら複雑な思いになるのも仕方ないだろう
ナーちゃんのお姉ちゃん、
そしてその秋徒先輩は恋人の両親が運転する車の交通事故に巻き込まれた
私達…いや、ナーちゃんと摸部が知っていたのはここまで
共犯者だった私は最初から知っていた
恋人の名前が茜ということ
秋徒先輩の隣に住んでいる幼馴染ということ
そしてその事故は茜ちゃんは悪くないということ
私はそれを隠し続けた
私が逃げるためじゃない…ナーちゃんのために
『それは言い訳じゃない?』
いつものように耳元で囁く声が聞こえる
私はそれを無視してナーちゃんの元に駆け寄る
だけど、もうナーちゃんの隣には人がいた
摸部がナーちゃんに抱きつく
「摸部…離れ、て」
「だめです
泣き止むまで離れません」
「…お姉ちゃんも、こうやって、抱きついて、くれた、ね」
「えぇ」
「もうちょっと…このままで、いい?」
「もちろんです」
「ありがとう…」
二人の間に泣く声だけが流れる
私は黙ってそれを見ていた
…私は必要ないの?
『もう言い訳できないね』
また耳元で声がする
『成実には、アナタが必要でなくなった』
…うるさい
『アナタよりも大切な存在ができた』
…うるさい!
『アナタの居場所は無くなった』
黙れ!黙れ黙れ黙れ!
『いや、元からなかったよね
秋徒先輩を殺したのはアナタ
だから全ての始まりもアナタ
…もう必要ないんじゃない?』
…何が?
『全部
全部壊しちゃおうよ
今までの関係も全部』
何を言ってるの…
『もう必要ないでしょ?
思い出してよ…』
初めて人を殺した日
あなたに共犯者ができた
それは幸運か不幸か、友達のお姉さんだった
その存在は私にはとても大きく、秋徒先輩の葬式でも余裕があった
私だけの罪ではない
それだけが私の心の支えだった
葬式の日、私は咲花さんに会うために家に行った
家に咲花さんはおらず、私は仕方なく咲花さんの部屋にお邪魔した
その時、机の上に置いてあった日記に目がいった
ほんの好奇心だった
私は中身を除いてしまった
そこには衝撃的なことが書いていた
咲花さんは秋徒先輩が好きだったこと
デートに行ったこと
手ごたえはあったこと
そして、茜という彼女がいたこと
初めは意味が分からなかった
それでも嫌な予感がした私は何も言わずに自分の家に戻った
その次の日のことだった
秋徒先輩の具体的な死因が分かったのは
恋人の車で交通事故にあったらしい
即死は免れたが、助けが遅れて失血死
全てがつながった
咲花さんが共犯を持ち掛けてきた理由
恋人の茜さんを確実に殺すため
何らかの方法で茜さんの車を特定
そしてたまたまそれが目の前で事故にあった
ならどうするか
秋徒先輩を手に入れるために見殺しにする
もしも即死していなかった場合でも、すぐに助けが来なければ失血死や野生動物に襲われて死ぬ可能性も出る
助けが遅れるほど死ぬ確率が上がる
だから私が助けを呼ばないようにした
…それが皮肉にも
だけど、そんなことはどうでもよかった
問題はその咲花さんが行方不明ということ
そして近くの廃ビルで身元不明の自殺者が出たこと
だけど私には分かる
間違いなく咲花さんだ
共犯者が死んだ
それは同時に私が人を殺したと知っている人が死んだ、ということだ
私はすぐに咲花さんの部屋に向かって日記を回収した
理由は私にもよくわからない
少しでもリスクを減らすためか、それとも咲花さんの名誉を守るためか
どちらにしろ余計なリスクを負ってしまった
…何でこんなことを思い出しているの?
『アナタはそれをいつも持ち歩いている
どうして?』
どうして…私にも分からない
家に置いていた方が絶対にリスクはないのに
なのに私はずっと持ち歩いている
『どうしてだと思う?』
わからない…
『それは罪だから
アナタは理解しているから』
罪…私の?
『もうわかっているでしょ?
あとはアナタが受け止めるだけ』
私は、ようやく後ろを振り向く
「…アナタだったんだね、この声は」
もう迷いはない
全部壊しちゃおう
私の罪だけを残して
「さようなら、私」
『さようなら』
深呼吸をする
もう怖くない
「ナーちゃん…いや、成実!
私の罪を聞いて!」
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