試練

放課後、例にも漏れずいつもの喫茶店で集まっていた

理由はもちろん、作戦会議だ

いつもと違うのは摸部と成実がいることだ

初めて五人で作戦会議をする記念すべき日に、俺と有愛は頭を抱えていた

「「マジで分からない」」

保健室の先生から言われたこと

アナタ方は、まだ茜さんと向き合えてない

向き合えてないってどういうことだ?

そもそも向き合うってなんだ?

考えれば考えるだけ分からなくなる

「…うじうじしてても始まんねぇか」

「そうね…コレは私たちの宿題ということで」

「ナニナニ?深刻な話?」

何も知らない成実がグイグイくる

有愛に目配せする

絶対話すなよ!って顔してるな…

俺も説明面倒だから話す気はない

とりあえず、成実のことは無視しておく

「じゃ、作戦会議するか」

「え~無視ぃ?」

視界にチラチラ入ってくる成実が邪魔をしてくる

無視無視と

「何か話したいことあるか?」

「じゃーちゃんのお悩み教えてよー、ね?ね?」

俺は話してくれないと分かったからか、有愛の方に行く

有愛がものすごくうざそうな顔をしてる

正直に言うと邪魔がいなくなって助かる

有愛がこちらを睨んでくる

俺は押し付けてねぇーから!

でもなんか成実がいつもより面倒くさいな

そんなことを思っていたら摸部が成実の肩を引っ張って自分の元まで連れていく

成実はそのままの勢いで摸部の胸元に飛び込む

「ダメじゃないですか

そんなにいってしまったら」

「で、でも…」

「でも、ではありません」

成実の腕を半ば強引に引っ張り、キス手前まで顔を近づける摸部

そんな強引な姿が刺さったのだろう

半ば蕩けた目で

「はい…」

と返事をする成実

そしてそんな二人を見て開いた口が塞がらない大人と

「「ハァ⁉」」

キレた二人がいた


「「何がどうなったんだ⁉」」

「それはですね…」

訳を説明し始める摸部

どうやら成実は自分の姉のことをずっと後悔してきたらしい

だから自分が嫌われてでも茜のためにできることを…

「「違う、そっちじゃない」」

「え?」

俺と有愛は、ほぼ同タイミングで首を横に振る

確かにいつもよりしつこいとは思ってたよ?

でもそうじゃない

「「いつの間にそんなラブラブに?」」

そう聞いた瞬間に明らかに二人の顔が赤くなり、互いが見つめ合う

「いえいえ…」

「ラブラブだなんて…」

「「違う違う違う」」

求めていたのはノロケとかじゃなくてさ

いつそんなことになったのかとかさ

そもそも付き合っているのかとか

「「そんな話を聞きたいんじゃない!」」

「うわっ!」

「ビックリしました」

「俺はフラれてんのによ…」

「私も諦めてるのにさ…」

有愛と同時にため息を出す

そんな俺らを見て、成実と摸部は呟く

「「いや、そっちも人のこと言えない…」」

「あ”?」

ドスのきいた声が喫茶店に響く

有愛の所から聞こえたような気がするが、気のせいだろう

怖い目で睨んできてますし

「ていうか!じゃーちゃん恋してんの?」

成実が変なことに触れた

あーあ…死んだわアイツ

ほら、有愛が鬼のように赤い顔で照れくさそうに…

「ま、まぁね」

…何だって?

俺の知っている有愛はどこに?

なんと言うか、普通の女子みたいで可愛いな

そんな有愛が好きな奴って誰なんだろう

俺には関係ないはずなのに無性に気になる

恋バナとか興味あったんだな、俺

それにしても諦めてるってどういうことだろうな

何にせよ、有愛にも色々あるんだな

人のことに構っている場合なのだろうか

「私は私がやりたいようにやるわ

アンタには余計なお世話よ」

「心読むなよ⁉」

「分かりやすい顔してたわよ」

どうやら俺は顔に出やすいらしい

茜にも昔そんなこと言われた気がするな

あの頃はよかったな…

「茜のためにも今は、作戦会議をしましょう」

「だから心を読むなって!」

「…ごめんね」

そう言った有愛の顔は、どこか悲しげだった

「ま、有愛の言う通りだな」

それを俺はあえて見ていない振りをした


「その前に、いいですか?」

摸部が手を挙げて発言する

「やはり昭良君と有愛さんが何を隠しているのか気になります

それに僕らが隠し事をしていたら解決するものもしないでしょう」

「む…」

そんなことを言われたらそんな気がする

別に隠すことでもないし話してしまおうか

有愛も同じように思ったのか先に話始める

「…保健室の先生に茜と向き合えていないって言われたのよ」

「だからクラスの皆を説得できないんだとよ」

そこまで話すと成実と摸部は腕を組んで考え始める

考えに考える

そして!

「「分からない!」」

「「だよな」」

俺たちと同じ結論に行きついた

「そもそもアカネっちを一番理解しているのは二人な訳じゃん」

「それでも向き合えていないというのは…」

「「ねぇ?」」

「まぁそうだよな」

期待していなかったとはいえ、少しがっかりする

ま、気を取り直して会議と行こう

「じゃあクラスの奴らをどう説得するか考えるか」

「結局ここに戻るのよね」

「まぁ一番の難関だからな」

「なぜ難関なのですか?」

摸部が挙手する

本当に分かっていないという顔だ

仕方ねぇか、説明してやろう

「クラスの皆は俺よりも茜の声を優先する

だから茜が一言嫌だと言えば、皆反対するだろ?」

「それはもちろんです」

「だけどなんでこんなに茜の人気が高いのか分からない

だから対策もしようがないんだ」

「えっと…」

何か言いたげな顔をしているな

成実も同じなのか、摸部のことをチラチラ見ている

「なんだよ」

「いや…クラスの皆さんが茜さんの言うことをすんなり聞く理由ですよね」

「言い方が気になるけど、大体そうだな」

「えっと…知らないですか?」

「まさか知ってるのか⁉」

前のめりになって摸部に聞く

興奮するのだって仕方ないだろう

これさえわかれば、クラスメイトを説得できるかもしれないんだからな

摸部は困惑したように続ける

「…入学したときに先生から言われませんでしたか?

茜さんは重い病気を患っているから、何か発作のようなものが出たら助けてあげて欲しいと」

「私も言われたよー?」

成実も同調する

一年の時、別のクラスだった摸部と成実さえも知っているんだ

なのに、なのに!

「「なんで知らないんだ⁉」」

どうやら俺も有愛も知らなかったらしい

「具体的には、いつ言われたんだ?」

「んーっとね…入学式終わった後に教室で話されたよ?」

「「寝てた」」

「カスですね」

真顔の摸部の口から出てくるとは思えないぐらい酷い暴言が飛んできた

そんなにか?そんなにだな

「とりあえず整理しましょう

皆が茜が言うことを聞くのは病気のせい」

「そうですね」

病気というのはおそらく鬱病のことだろう

嘘は言ってないな、うん

それで皆が茜に遠慮していると

「…それなら説得できるかもしれねぇ」

「そう、じゃあ任せるわ」

有愛が特に何も聞かずに即答する

「心配とかねぇのか?」

「アンタが決めたことなら、きっとうまくいくわよ」

そう言って微笑む

他の皆も首を縦に振ってくれている

俺も頬を叩いて喝を入れる

「ただこの作戦には穴がある

茜がその場所にいたら終わりだ

だから有愛は足止めを…」

「その役割は僕がやるよ」

今まで黙っていたおっさんが手を挙げる

確かに家で足止めしてもらうのが一番確実だ

「それに僕が手助けできるのもこれで最後だからね」

「何か言ったか?おっさん」

「いいや、何でもないさ」

「?まあいい

とにかく、明日の朝に作戦を決行するぞ!」

「「「「おー!」」」」

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