体育祭編 間章 俺の好きな人

「先生…?」

そこにいたのはカウンセリングの先生だった

「…どこかで会ったことがあります?

ごめんなさいね

よく覚えていないのだけど」

知らないふり…?

いや、私が精神科に通っていると知られないように配慮してくれているのだろう

それなら私も話を合わせよう

「いえ!たまたまサイトを見かけたことがあるなと思いまして!」

「あら、そうなのね

小さい病院だけど知ってる人が居て嬉しいわ」

これで誤魔化せただろう

それにしても先生の起点には助かった

『player』には気づかれるわけにいかないしね

「へー

有愛のお母さんって病院の先生なんすね

名前は何て言うんですか?」

蛇腹じゃばらメンタルクリニックよ

私は精神科医をやらせてもらっているの」

「精神科…アカネはどうやったら見かけたんだよ」

「えーっと…ほら!

蛇腹って苗字珍しいなーって思ったから検索したら出てきたんだ!」

「…まぁ確かにな」

「ふーん…」

有愛には怪しまれてそうだな

もうこれ以上の誤魔化しは効かないか

「ま!そんなことよりご飯にしよ!」

「そうだな」

「…そうね」


結論から言うとビックリするほど空気は重かった

『player』が頑張って会話しようとしてくれていた、珍しく

だけど有愛も先生も私もだんまり

…気まずい

と言う訳で作ってきた爆弾おにぎりを口に詰めて

「私、次の競技の準備してきます!

ご飯ご一緒して下さりありがとうございました!」

…逃げた


あかねが逃げた

その背中が遠くなったのを見てお母さんと話す

「お母さん

どういうこと?」

「…事故ね

まさか有愛ちゃんと友達だったなんて」

「…やっぱ茜と知り合いだったんすか先生」

ようやく昭良あきらも状況を理解できたようだった

二人から詰められて観念したのかお母さんが話始める

「プライバシーだから詳しくは言えないわ

でも答えられる範囲なら答えるわよ」

その言葉は茜がお母さんの病院に通っているのを暗に認めるものだった

…茜が鬱病?それともほかの精神病?

これについては答えてくれないだろう

でも他に何か聞けることはあるのか

そう考えていると昭良が質問する

「入学式のあの日

ここで出会った茜は…」

「ええ

アナタの考えている通りよ

そしてあの日から彼女は変わった」

入学式の日

茜と出会う前だ

何かあったのか

その疑問を感じ取ったのか昭良があの日について話始める

「あれは入学式の日」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

・入学式の日


別に頭が悪いわけでなかった俺は適当な高校に入った

でも今までの人生で不良と言われ続けた俺に式なんか参加する気はなかった


…桜が綺麗だ

そんなことを思いながら良さそうなサボり場所を嗅がす

ふと一つの大きな桜の木が目に留まる

ここで寝たら気持ちいだろうな

幸いにも周りに人はいなかった

…ここで寝るか

いつもなら桜の木の下などと恥を忍ぶだろう

だけど仮にも入学式

俺も浮足立っていたのだろう

木の根を枕にして寝転がる

生暖かい風も心地いい

ふと風が運んできた消毒液のような匂いが気になる

どうやら目の前の部屋は保健室のようだ

そんなことを思っていたらカラカラと窓が開く

…やべっ先生か?

もうすぐ入学式が始まると思って油断してた

寝たふりをするか

見逃してくれるかもしれねぇ


しばらく…とは言っても1,2分したころだ

校舎の方からドタッと何かが落ちる音がする

…何だ?

目を開けようとした瞬間、誰かに手を引っ張られる

「―ん?何だ、お前」

あんまりにも驚いて低い声が出た

手を引っ張られたことにじゃない

肉がほとんどついていない、骨のような手だった

「こんにちは!私はアカネと言います!

あなたのお名前は?」

俺は怖かった

かすれたような、消えそうな声が精一杯の元気を出している

姿を見るのが怖かった

簡単に壊してしまいそうで怖かった

怖がられるのが怖かった

だから

「アキラ」

とだけ呟き、また寝転がろうとする

そうすれば関わらずに済むからだ

怖がられずに済むからだ

そんな俺の手を思いっきり握り、走り出す

どこからそんな力が出るのか

「ちょっ!何すんだこのアマァ!」

「何って入学式ですよ!遅れますよ」

「わかった!わかったからこの手を放せ…痛え!」

その時、初めて姿を見る

死人のように青白い肌

すぐに壊れそうな体つき

それに宿る生気に満ちた目

だけど真新しい制服が俺と同じ新入生だと語っている

…コイツは、なんだ?

俺は初めて見る人種にただただ驚いていた

それと同時に入学式の始まりを告げるチャイムが鳴る

「あー!私まで遅刻ではないですか!」

「俺のせいか⁉」

「そうに決まってるでしょう!ほらっ!急ぎますよ」

じゃあなんであんな所にいたんだ

体育館に向かうなら通ることもないだろ


全力で走り出す

何かが変わる気がしたから

走ることは嫌いじゃない

長らく全力疾走なんてしてないけど喧嘩で体力がついたのか余裕がある

無我夢中で走った

だけどすぐに気付く

…あの女がいない

後ろを振り向くと女は倒れていた

「おい!お前、大丈夫か⁉」

…なぜか俺は女のもとに戻っていた

「先行ったのかと思いましたよ」

「俺は別に参加しなくてもよかったんだ。ただ…」

「ただ?」

「…俺のせいでお前が入学式参加できねぇっていうのは、わりぃからな」

言い訳だ

俺はこの女に何かを期待してるんだ

怖がって近づいてこない同い年の男じゃなくて

ゴメンとだけ言って見捨てた親じゃなくて

このガラス細工のように脆い女に

「フフッ、アハハッ」

「何笑ってんだよ」

いきなり笑顔になるもんだから俺も自然と笑みが出る

…久しぶりに笑顔になったな

「じゃあ私をおぶって運んでください」

「…まあ仕方ねぇか」

俺は軽々と女を持ち上げる

「…なんで私、脇に抱えられてるんですかね⁉」

「仕方ねぇだろ!一番楽なんだよ!」

本当にそうだった

抱いてしまったら壊れそうで

おぶったら落として壊しそうで

「一応か弱い乙女なんですよ!」

「贅沢言うな!」

「それでは急ぎますよ!」

「俺に指図さしずすんじゃねぇ!」

そう言いながらも精一杯走る

「…私そんなに重いですか?」

俺の顔を見てそう聞いてくる

どうやら俺の不安が顔に出てたようだ

ただ俺が周りから受け入れられるか不安なだけなのにな

「ちげぇよ。俺の心の問題だ

大体お前は軽すぎるくらいだ、もっと食え

…お前は俺が怖くねぇのか?」

この女なら俺の欲しい答えをくれそうだから聞いた

「別に、他の男性と変わりませんよ」

「…そうか」

それはそれでどうかと思うけどな

「それに、あなたはいい人だって少ししゃべればわかりますよ」

俺は心底驚く

そんなこと言われたことないから

「あんがとよ」

その言葉にはさっきまでの威圧的なものはなかった

ただ照れくさかった

「いいえ!お礼を言われるほどではありません!」

そんな話をしていると体育館の扉とびらの前まで着く

それを俺は勢いよく開け、こう叫さけぶ

「道端で倒れた女を運んでたら遅れました!」

この女が俺のせいで遅れたと思われたくなくて出た言い訳だった

問題があるとすればコイツが道端でなぜか倒れていた女になるということくらいか

不名誉すぎるが仕方ない

俺は人と関わりがなさ過ぎて上手い言い訳が思いつかないからな

いきなり現れた俺の大声に、あっけにとられている生徒に先生

ただ流れている新入生を歓迎する音楽だけが不格好に流れている

少しすると前から女性の先生が俺たちの元にやってくる

「それは…ご苦労様です。昭良くん

今は新入生代表の挨拶をしています

二人とも列の一番後ろの席に座ってください」

「はい!」「はい」

元気よく返事し、言われた通りに席に着こうとする

「あ、あそこまで運んでもらえますか?」

「お前なぁ…」

不満そうに言いながらも頼られて嬉しかった

そうして女を席に腰かけさせる

「…なあ

なんで俺に声かけたんだ」

式の途中でそう言う

「なんで…ですか?」

「ああ」

俺と関わっても何もない

何なら不良だから悪名が立つかもしれない

「仲良くなりたい…」

「―は?」

「ただ仲良くなりたかったからですよ

それにあなたのことをみんなに誤解させたくないですし」

あんまりにも真っ直ぐな目でそう言う

本当なんだって伝わってくる

その気持ちに心臓がうるさくなる

その笑顔に胸が苦しくなる

…あぁ

これが…恋ってやつか

一度目をそらして、だけどもう一度女の…いや茜の顔を見て

「ありがとうな」

と笑みを浮かべる。俺の人生で初めての、心からの笑みだった


fin~

…START

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


作者から

どうも!久しぶりのあとがきです

今回の話は一話との対比になってます

ぜひ、一話と見比べてみてください!


体育祭編もあと一話でラストになります

次回は数々の謎を残していきたいと思います

是非!推理してみてください

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る