第12話「ギルドとの接点」
あの大きな商談から2カ月後、サクヤ商店の評判はうなぎ登りだった。冒険者ギルドとの取引や王都からの大商人たちの依頼も増え、忙しい日々が続いている。
亭主のアーロンは、ミリア専用の商品を扱う個別の部屋を用意してくれた。そこでミリアは、自身が開発した商品を管理し、改良や新しいアイデアの整理を進めていた。
そんなある日、店の扉が勢いよく開かれた。
「お!やっているな、ミリアさん!」
ギルド長・ガイルの朗らかな声が響く。ミリアは書類から顔を上げ、少し驚いた表情を浮かべた。
「ギルド長?どうしたんですか?もしかして、冒険者ランクの件ですか?」
「いや、それはまた今度だ!今日はお客様を連れてきたんだ。」
ガイルの後ろから姿を現したのは、見覚えのある人物だった。
「やぁ!ミリア!」
「……えっ!フローラお姉さま!?」
ミリアは思わず立ち上がり、驚きの声をあげた。そこに立っていたのは、リーフレット王国の第七皇女、フローラ・リーフレットだった。
「久しぶりね、ミリア!」と無邪気に笑うフローラに、ミリアは少し呆れながらも微笑んだ。
「どうしてここに?お付きの方たちは……?」
「それがさ、ちょっと護衛たちを振り切って来たの!」
「……またですか。お姉さま、その癖はそろそろ直した方がいいですよ!」
「いじわる!」
二人のやり取りに、ガイルは苦笑いを浮かべた。
「ミリアさん、実はフローラ殿下を中央広場で助けたんだ。不審な男たちに絡まれていてな。」
「またお姉さま……本当に心配なんですから!」
「まぁまぁ、それはさておき。今日はミリアに渡すものがあって来たの。」
フローラは懐から一通の封筒を取り出した。王宮の紋章が刻まれている。
「これは……まさか、父上(レイヴァン・リーフレット)から?」
「そうよ。この手紙を読むかどうかはミリア次第よ。」
ミリアは丁寧に手紙を受け取ると、深く礼をした。
「ありがとうございます。あとで、しっかり読ませていただきます。」
その後、フローラはガイルに案内されて店内を見て回ることになった。ミリアは再び仕事に戻るが、心はどこか落ち着かない。
夜、自室に戻ったミリアは父からの手紙を静かに開封した。
――父からの手紙――
ミリアへ
お前がこの手紙を読んでいるなら、それはあの生誕祭以来だな。
お前の噂は王国中に知れ渡っている。父として誇りに思う。
母上も、兄姉たちも元気で暮らしている。お前の成長を陰ながら見守っているぞ。
もし王国に用事があるなら、友人のアーロンに頼るといい。
健康と仕事に気をつけて、無理はするな。
お前の未来が輝かしいものであるよう願っている。
―― 父上より
手紙を読み終えたミリアは、胸の奥が温かくなった。
「……父上、ありがとうございます。」
翌日、ミリアは「防具屋・ダレオン」と「錬金術師店・リリア」を訪ね、改良した商品を受け取った。その足でギルドへ向かう。
ギルドに入ると、受付で不穏な会話が耳に入った。
「おい、受付のお姉さん。あの冒険者ミリアが考案した商品、持ってるんだろ?」
「申し訳ありませんが、こちらでは扱っておりません。正規品はサクヤ商店で購入してください。」
「……チッ、分かったよ!」
その冒険者は不機嫌そうにギルドを後にした。ミリアは受付に近づき、声をかけた。
「こんにちは、今の人たちは?」
「ミリアさん!実は最近、あなたの試作品を不正に販売している冒険者が増えていて……。ギルドでも調査しているのですが、なかなか尻尾を掴めなくて。」
「不正販売……そんなことが?」
すると、ちょうどギルド長・ガイルが姿を現した。
「お、ミリアか。ちょうど良かった、部屋で話そう。」
ギルド長室で、ミリアは改良した試作品を渡した。
「ギルド長、一応これが前回の意見を反映して改良したものです。」
「おお、ありがとう!助かるよ。」
ミリアはふと真剣な表情になり、口を開いた。
「ギルド長、受付で聞きました。試作品が不正に売られていると。」
「ああ、実はここ最近、冒険者たちの間で密かに売買されているという報告があってな。調査中だが、証拠が掴めない。」
ミリアは少し考え、ある提案をした。
「もしよろしければ、私が
ガイルは驚いた表情を見せた。
「
「ええ、私自身が試作品の開発者として動けば、不正販売者をおびき寄せられるかもしれません。」
ガイルは腕を組み、しばらく考え込んだ。やがて頷く。
「……面白いな。だが、危険は承知の上だぞ?」
「もちろんです。」
ギルドから出ると、ミリアは冒険者たちの話し声を耳にした。
「なぁ、聞いたか? ギルドでランクアップを兼ねた特別クエストが出るらしいぞ!」
「それは本当か!?」
「ああ、まだ噂だけどな。」
ミリアは立ち止まり、心の中で決意を固めた。
(そろそろ……本格的に冒険者としても成長しないと。)
彼女は自分の胸に手を当て、静かに呟いた。
「次は、もっと大きな挑戦に挑む時ね。」
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