第13話「新たな商機とギルドへの道」

サクヤ商店の個室で、ミリアは深く考え込んでいた。先日、ギルド長から聞かされた「闇の店」の噂が頭から離れない。自分の開発した試作品が、知らぬ間に不正販売されている。

(このままじゃ、私の作った商品が悪用されてしまう……)

決意を固めたミリアは、亭主のアーロンとガレンに相談することにした。

「ガレンさん、旦那様は今お時間いただけますか?」

「どうした、ミリアさん?何かあったのか?」

「はい、少し大事な話が……」

ガレンが確認してくれた後、ミリアはアーロンとガレンが待つ部屋へ向かった。

「旦那様、いえ……アーロンさん。お願いしたいことがあります。」

アーロンは静かに頷いた。

「お願い?話してごらん。」

ミリアは深呼吸をして、ギルド長と交わした会話を思い出しながら話し始めた。

「実は、先日ギルドに試作品の改良版を渡しに行った際、ある情報を得ました。

私の作った商品が闇の店に流れており、不正に売買されているそうなんです。」

アーロンは眉をひそめ、重々しい口調で返した。

「……その噂、私も耳にしている。実は過去に、うちの店も似たような被害に遭ったことがあってな。」

「えっ、サクヤ商店も?」

ガレンが口を挟んだ。

「その時は、競合店が密かに商品を模倣し、不正に売り出していた。今回の件も、それと似た構図かもしれない。」

ミリアは決意を新たにし、きっぱりと口を開いた。

「だからこそ、私はおとりになって闇の店を潰す作戦をギルド長に提案しました!」

アーロンは勢いよく立ち上がった。

「それはダメだ!」

「でも、私が……!」

「君が危険な目に遭うことは許さない!君は元皇女だ。もし何かあれば、王国全体に波紋が広がるぞ。」

ミリアは唇を噛みしめた。自分の立場が再び「足かせ」になることが悔しかった。

ガレンが静かに口を開く。

「……なら、別の人物をおとりに立てるのはどうでしょう?」

アーロンはしばらく考えた後、頷いた。

「それならば危険を分散できる。ミリア、君が直接前に出る必要はない。」

ミリアは悔しさと安堵が混じる複雑な気持ちで、ただ静かに頷いた。


3日後。ギルドとサクヤ商店の合同作戦が始まった。囮役おとりやくには、ギルドの信頼できる冒険者が立ち、ミリアは作戦本部で指示を担当することになった。

調査の結果、闇の店は他国の密輸組織と繋がっていることが判明した。彼らはリーフレット王国の新製品を不正に流通させ、莫大な利益を得ていたのだ。

「……やっぱり、このままにはしておけない。」

ミリアは商品開発者としてだけでなく、一人の商人としての誇りを守るために動いていた。

作戦の成功から数日後、ギルド長・ガイルがサクヤ商店を訪れた。

「おお、ミリア!元気そうだな!」

「ギルド長、今日はどうされたんですか?」

「ちょっとした提案があってな。そろそろ、君も冒険者ランクを上げてみないか?」

ミリアは少し驚いた表情を浮かべた。

「私には冒険者としての実績がほとんどありませんし、サクヤ商店の仕事も忙しくて……」

ガイルはニヤリと笑った。

「いいんだよ。一度だけ、ランクアップ試験を受けてみろ。もし気が変わったら冒険に出ればいいし、ランクはそのまま維持しておいてやる。」

ミリアは少し考え込んだ。

(冒険者としての成長も、商人としての経験も……どちらも私に必要かもしれない。)

「……少し考えさせてください。」

「もちろんだ。お前の功績は十分に評価している。いつでも試験に来てくれ。」

ガイルはそう言い残して、ギルドへと戻っていった。


ギルド長が去った後、ミリアは空を見上げながら呟いた。

「私も……もっと強くならないと。」

数週間後、ついに試作品の改良版が完成に近づいた。

「防具屋・ダレオン」と「錬金術師店・リリア」との連携も順調で、ミリアは再び新たな挑戦へと踏み出す準備を進めていた。

(商人として、冒険者として、私はまだまだ成長できる。)

彼女の心は、確かな自信と希望に満ちていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る