第9話「新商品開発とギルドの噂」

翌日、サクヤ商店はリーフレットの街の生誕祭以来の大仕事を終え、亭主のアーロンの計らいで店は休業となっていた。前日の商談でギルドの案件が紛れ込んでいたことが気になり、ミリアはギルドへと向かった。

ギルドに着くと、多くの冒険者が集まっており、彼女が入ると視線が集まるのを感じた。そんな中、ギルドの職員がミリアを見つけて声をかける。

「あのー、シークレットゲストのところにいたミリアさんですよね?確か、リーフレット王国の元第八皇女の?」

「ええ…。でも…ここではミリア・サクヤなので。」

「これは失礼しました。それで、ミリアさんは何をしに?」

「ここでは冒険者に聞かれたくない話なので、ギルド長か上の立場の方と話したいんです。」

「分かりました。部屋は用意できますが、ギルド長も幹部も席を外していて、戻るのに30分から1時間ほどかかります。」

「それなら、一度街を見て回って、時間を見てまた来ます。」

「分かりました。ギルド長が早く戻ればお伝えします。」

ミリアはギルドを後にし、時間を有効に使うため中央広場へ向かう。生誕祭の余韻が残る広場を歩きながら、今後サクヤ商店の売り上げを伸ばすための新商品のアイディアを考え、市場を回って視察を行った。

気がつくと30分以上が経過しており、少し急いでギルドへ戻った。

再びギルドに入ると、さきほどほどの視線は感じられず、受付の職員を探していると、目の前の男性職員にぶつかってしまった。

「あっ、すみません!」

「いえ、こちらも考え事をしていて…」

その男性職員は彼女を見て、驚いたように言った。

「君は…確か生誕祭の料理コンテストのシークレットゲストと一緒にいた人だよね?」

「はい。」

「これは失礼しました。俺はこのギルドのギルド長、ガイルだ!」

「あなたがギルド長ですか?」

「そうだ。ミリアさん、どうしてギルドに?」

「実は、ある案件についてお話ししたくて。」

「なるほど。なら、人目のつかない場所で話そう。」

「ありがとうございます。できれば、もう一人幹部の方にも同席いただけると助かります。」

「分かった。イルマ、ギルド長室へ来てくれ!」

「了解しました。」

ミリアはギルド長とイルマと共にギルド長室へ入り、席についた。

「昨日、サクヤ商店に商談の人たちが殺到し、亭主のアーロンが対応しきれず、私もガレンさんと一緒に商談を手伝いました。その中に、この書類が混じっていたんです。」

ミリアはギルド長に一枚の依頼書を渡す。ガイルとイルマはそれを見るなり、驚いた表情を見せた。

「これは…!」

「本来、ギルドで処理されるべき書類では?」

「確かにそうだ…イルマ、受付を担当した職員を探してくれ!」

「了解しました。」

「ミリアさん、これは完全にギルドの落ち度です。」

「どうしてこうなったんでしょう?」

ガイルは一瞬考えた後、口を開いた。

「これは詳しくは言えないが、ある日、一人の職員が依頼処理を担当し、その処理が終わったものを俺が最終確認して冒険者のランクに応じた依頼を出すことになっている。しかし、その職員が急に休みを取るようになり、その直後、依頼人がギルドへ怒鳴り込んできたんだ。」

「その職員はどうなりました?」

「事情を聞いたが、彼は『その依頼は受け取っていない』と言い、問題は収まった。ただ、その後彼は突然休みがちになり、今は停職処分となっている。」

「なるほど…。この件、再発防止をお願いします。」

「もちろんだ。ミリアさん、君はどうだ?ギルドで冒険者として活動してみる気は?」

「私が…冒険者に?」

「君なら活躍できると思う。どうだ?」

「少し考えさせてもらえますか?」

「もちろんだ。決まったら教えてくれ。」


ギルド長室を後にしながら、ミリアは「冒険者か…」と呟いた。

そのとき、ギルド内の冒険者たちの会話が耳に入る。

「最近、装備を新調する資金がなかなか貯まらないんだよな。」

「わかる…。節約するしかないか。」

「魔法のバックみたいな便利な収納アイテムでもあればいいのにな。」

「そんなのどこに売ってるんだよ…。」

この会話を聞いたミリアは、新商品として「便利な収納アイテム」をサクヤ商店で開発できないかと考えながら、宿舎へ戻った。

宿舎ではちょうどガレンとアーロンがいたため、ギルドでの出来事と依頼書の件について報告したのだった。

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