第2話「王国の書庫」

あの会議があってから数日後、私は父上から正式な許可を得て、王国の書庫に足を踏み入れることになった。そこは想像以上に壮大な空間だった。

天井まで届く巨大な本棚がいくつも並び、古びた革の背表紙がずらりと並んでいる。

室内を照らすランプの柔らかな光が、本の影を浮かび上がらせ、不思議な神秘感を醸し出していた。

「こんなにたくさんの本が……。」

私は圧倒されながらも、好奇心を胸に一冊の本を手に取った。

本にはこの王国の歴史や法制度、交易記録などが事細かに記されていた。

しかし、中には難解な用語や専門的な記述も多く、読み進めるうちに行き詰まることがあった。

「これは……父上に聞いたほうがいいかもしれない。」

私は本を手に持ち、父上がいる王間へ向かった。

王間に入ると、父上は書類に目を通していたが、私の姿を見るなり顔を上げた。

「どうした、ミリア?」

「父上、この本の内容についてお聞きしたいのですが……。」

私は本を差し出し、難しい箇所を指し示した。

父上は本を手に取り、しばらく黙読してから優しく説明を始めた。

その解説は的確で分かりやすかったが、一部の内容は私にはまだ難しく感じられた。

「なるほど、少し難しいな。だが、理解できる範囲でいいから、続けてみなさい。」 「はい、父上。」

それから私は、毎日のように書庫に通い、多くの本を読み漁った。分からないことがあれば父上や母上に尋ね、教えを受けた。しかし、資金難の具体的な解決策やその原因について書かれた本は見当たらなかった。


数週間が経ち、私はいったん書庫での調査を中断し、父上と母上に報告することにした。

王間に向かうと、そこには兄上たちも集まっていた。

彼らは何やら小声で話し合っており、険しい表情を浮かべている。その様子を見て、私は足を止めた。

「……何を話しているのだろう?」

兄上たちがひそひそと話す内容は聞き取れなかったが、その態度から何か企んでいるように感じられた。この場で話を切り出すのは得策ではないと判断し、後で改めて父上と母上に会うことにした。


その日の夕食時、食卓には兄上たちの姿はなく、女性陣と父上、母上だけが席についていた。この機会を逃すまいと、私は父上に話しかけた。

「父上、少しお話があります。」

「どうした、ミリア?」

父上がフォークを置き、私に向き直る。

「前回、書庫に入る許可をいただきましたが、資金難に関する記述は見つけられませんでした。ですが、書庫を通じて、この国の財政や歴史について多くを学ぶことができました。」

父上は私の報告に満足げに頷いたが、同時に疲れた笑みを浮かべた。

「そうか。叔父上もよくやってくれたものだ……。」

父上の言葉の真意を理解できないまま、私は決意を胸に言葉を続けた。

「父上、お願いがあります。」

「何だ?」

「私をリーフレット王国の第八皇女から外してください。そして、資金難を解決するため、自由に行動させてください。」

食卓が静まり返った。母上や姉上たちは驚きの表情を浮かべ、父上は深く息を吐いた。

「ミリア……本気なのか?」

「はい。このままでは何も変わりません。私の力で、必ずこの国を救います。」

父上はしばらく黙考した後、厳かな声で宣言した。

「分かった。ミリアよ、今日をもってお前を第八皇女の地位から外す。」

「あなた……。」

「父上……。」

母上と姉上たちは悲しげな表情を浮かべたが、私はその決断を受け入れた。

そして、この日を境に、私はリーフレット王国の第八皇女ではなく、一人の人間として新たな一歩を踏み出すことになった。

「必ず、この国を救ってみせます。」

私の決意は揺るがなかった。

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