滝本晃司さんの歌詞③(終わりのない顔)
今回も、滝本晃司さんの歌詞から学んでいきたい。しばしお付き合いください。
取り上げるのは、また夏の歌で「終わりのない顔」だ。冒頭からの歌詞を以下に掲げる。
そこにあるものはただなんにもないこと
晴れた日の息苦しさ
もう目にみえない遠くまでの静けさ
公園も市営プールも死んだふりする
四行中三行が体言止めで、コラージュのように断片を重ねながら夏の暑い日を表現している。
「晴れた日」は一般的にはポジティブなものだが、ここでは「息苦しさ」とネガティブに捉えているのが、はっとさせられて良い。また「市営プール」は日常の(俗な)言葉であるが、見事に詩にマッチしている。普通の人なら、使おうと思わない語彙だ!
「死んだふりする」という擬人法も効果的で、ここで描かれているのは、明るくにぎやかな夏ではなく、ひそやかで生命力のない夏である。
次のパートは以下の通りだ。
セキをするたびにネジがこぼれおちてゆく
夏の自転車でゆこう
ぼくは穴のあいたままでふくらむ
青い青さ まぶしいまぶしさ
終わりのない顔
まず前半。「ネジ」は何のネジだろうか。私の解釈では、「セキ」をする主体の「ネジ」がこぼれ落ち、壊れていく様子を歌ったものではないか。そのせいかわからないが、「ぼく」(主体)は「穴のあいたままでふくらむ」。好きな歌詞だ。詩の自由さを感じられる。
後半。「青い青さ」「まぶしいまぶしさ」というのは感覚的に強く訴える表現で、素人にはなかなか思いつかない言葉続きだ!
なお曲のタイトルにもなっている「終わりのない顔」というフレーズがここで出てくるが、正直、私にはよくわからないです。どなたか教えてください〜
サビ!
「夏だ」
目をひらいたり たちすくんだり
くちびるかんだり
泳ぎながらすぐ何色にもなってしまうよ
ここですここにいますって
かわりに鳥肌たてて
胸の上にやさしくしっかりだいた
ピストルで
この夏空 キズひとつない空にうち込むよ
曲調はテンポが速くなり、やや畳みかけるようにして歌われる。ここでは、末尾三行に注目したい。ピストルを夏空に撃ち込む、というやや衝撃的な歌詞である。え?ピストル?ってなる。持ってるだけでやばいのに、え、撃っちゃダメでしょ、って。少し抵抗感が生まれる人もいると思う。でもこれが、想像=創造、なのではないか。
詩の世界に善悪や倫理道徳は関係ない。でも私たちの中に“一般常識”があるからこそ、それを逸脱する詩には心揺さぶられる。
また、詩は現実を切り取るだけではなく、現実を創出する力もあるといえるだろう。ここで言っているのは、夢やファンタジーではなく、リアルを創出する力である(この絶妙なラインを描けるか、が実力になろう)。……そんなことを考えさせられた。
なんだか盛りだくさんになってしまった。うまく伝わっただろうか。少しでも皆さんの創作の参考になれば幸いである。
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