滝本晃司さんの歌詞②(「夏です」と一回言った)
滝本さん(通称Gさん)の曲には、「夏」をテーマにしたものが多い。四季の中で、夏はもっとも非日常的で、時の永遠性を象徴していると言えるだろう(それに対して、春や秋は日常で、時は循環する)。夏は、日差しが強くて、すべてが溶けそうで、部屋はぬるくて、けだるくて……そんな醍醐味がGさんの曲からはふんだんに味わえる。
今回は「「夏です」と一回言った」という曲の歌詞を紹介しよう。まず冒頭。
コップについた たくさんの水滴
クスリの数
部屋の暑さの届かない
床の冷たさ
夏の部屋の情景が描かれている。そこには人影はない。コップにたくさん水滴がついているということは、冷房はついていないのだろう。でも床だけはひんやりしている。それを描いたのがすごい。「床の冷たさ」と体言止めにしているのも良い。
続きの本文を掲げる。
よく陽のさす テーブルの上
音もなく ちぎられる
ボクのあちこち 虫のように
きちんとしていて なんだかもう
オカシクテ 笑いはじめるよ
難解である。頑張って読み進めてみよう。前半は、「ちぎられる」に重点があると思う。ここから、何かがバラバラになる感じ、破綻する感じを受ける。後半は「オカシクテ 笑いはじめる」ことで、ここまでの静謐が破られる。サビに向けて、動きや音が生じ、何かを打ち破るようにして、盛り上がるパートだ。
では、サビ部分を以下に掲げよう。
君
だまろうとしていたの
話そうとしていたの
スプーンを磨く 指がきれいだよ
ボクはけっこう好きさ
こんなふうに ゆがんだまま部屋中が
夏になっていくゆくのが
ここで二人称「君」が登場し、「ボク」は語りかける。「だまろうとしていたの?」ってなかなか思いつけない表現だ!そして視点は「スプーン」から「指」に移り、それを「きれいだよ」と評する。美しい歌詞だ。
「ボクがけっこう好き」なのは、「ゆがんだまま部屋中が夏になってゆく」こと。厳密には、「ゆがんだまま」の主語は判然としない。でも、なんか夏って、ゆがんでいないでしょうか。陽炎が起こるのは屋外かもしれないけれど、暑い部屋の中も、時間・空間がゆがんだ感じがする。その感じ、私もけっこう好きさ。
簡単だが、当該曲の1番の歌詞を見てきた。前回の「ふたつの天気」より、詩的な表現が多かったように思う。
私もGさんのような夏の詩が書きたい。こんな、こんなに、寒い日にだ……。
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