第4話 間章 久里浜真帆 その弐


わたしは薄暗い部屋に閉じこもって携帯ゲーム機に向かい合っています。


ゲームの名は「漆神」。美麗なグラフィックと壮大な世界観、練りこまれたストーリーはわたしの心をとらえて離しませんでした。


ゲームスティックとボタンを操作するだけで、自分の代わりにゲームのキャラクターは空を飛び、海に潜り、まだ見ぬ世界に連れて行ってくれます。


ゲームの中には悪口を言うクラスメイトもなかなか上がらない成績もありません。


 続けて六時間はプレイしていたでしょうか。ゲームをプレイしていたわたし、久里浜真帆は一度電源を落とします。


唯一の光源である携帯ゲーム機の明かりが消え、暗闇に徐々に目が慣れてくると自室の天井が目に映りました。


 天井。自分の部屋。脱ぎ散らかした至福の中に混じった制服、ここ数か月ろくに手に取っていない教科書。


ゲームという刺激が切れると現実に向き合わなければならなくなります。フラッシュバックというやつでしょうか、次々と嫌なことが思い浮かんできて気が狂いそうになります。


わたしは耳をふさいで布団の中に閉じこもりましたが、一度脳内を埋め尽くした光景はそう簡単には消えません。


そんな時に決まって、わたしの手は下腹部に伸びるのです。


芋ジャージの下に滑り込ませた手で、足のつけねを何度も往復させます。徐々に脳内から嫌な光景が消えていき、足の付け根から伝わってくる快感だけがわたしのすべてになります。


「ん、んん、ん……」


 声が抑えきれなくなってくると、手の動きが一層激しくなります。奥をかき回し、指を荒々しく差し入れ、時にすっかり女性らしくなった表面をなでまわします。


 もうどこをどう刺激すれば気持ちいいか、すっかり覚えてしまいました。


 最近は指だけでは物足りなく、緩急をつけるために指を固定して腰の方を動かしたりしています。


 やがてつま先が突っ張り、背中が弓のように反ったかと思うと全身が徐々に脱力していく。再び天井を仰ぐ。


「こんなことを繰り返していても、どうにもならないのに……」


ふと、わたしの唯一の味方を思い出します。


わたしが泣いても不登校になっても、けっして否定せずにそばにいてくれたおじいちゃん。


 わたしがかけっこでビリになっても、優しく頭を撫でてくれたおじいちゃん。


机に置きっぱなしにしていたスマホが点滅していたことに気が付きました。おじいちゃんは機械が苦手で、スマホの操作なんてできません。


また家族が口先だけの心配をしてきたのでしょうか。 


わたしなんていなくなればいいと思っているくせに。


わたしなんて産まなければよかったと思っているくせに。


そう思いながらも、いやな予感がしてわたしはスマホを手に取りました。

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