デスペラート☆クワク (4)

わざと遠回りして、若干くたびれた様子を見せつつ村にたどり着いた三人は、まず村長の家に案内されると椅子に腰を下ろし、水を頼んだ。

「いやぁ、結構な道のりでしたね。村の皆さんのために、全力で動いてきたもんで……。」

ボガートが笑顔で肩を回しながら、わざと疲れた風を装う。


軽く装備を緩め、くつろげる体勢を取ると、ほどなくして薬草茶ハーブティーが用意された。カップから立ち上る湯気に、ニーアが静かに礼を述べる。

「ありがとうございます。いただきますね。」


流石に白湯ということはないが、果実酒ワインやビールを出せないあたり、この村の財力が知れる。ニーアはハーブティーを一口含み、柔らかい笑みを浮かべた。

「このお茶、香りがとても良いですね。」

「恐縮です、勇者様方に喜んでいただけるとは……。」

村長は恐縮しつつも、どこかほっとした表情を浮かべた。


「さて、本題ですが。」

ニーアがカップをテーブルに置くと同時に、ボガートが軽く喉を鳴らして切り出した。

「思ったよりも多かったっすよ。雄だけで60匹以上、雌や幼体を含めると100匹程度ってところですかね。」


その言葉に、村人たちが一斉にどよめいた。村の人口の3倍以上となるその数は、村人にとって圧倒的な脅威そのものだった。


「ですが、何とかなると思います。」

ニーアは静かだが力強い声で続けた。

「ゴブリン程度では破れない封印を施してしまえば、とりあえずの安全は確保できますから。」


村長が目を見開き、感心した様子で声を漏らす。

「封印……そんな術があるとは!」

押しの弱い地味な魔法である封印だが、その実用性は高く、冒険者たちにとっては心強い選択肢だ。


「封印自体は可能です。ただ……。」

ニーアは少しためらうように言い、手元の杖に目を落とした。その杖は使い込まれており、窓から差し込む光を受けて鈍い光沢を放っている。その輝きは、精霊が触れ続けたことで発生する御来光グローリーの一種だった。


村長は杖の石突き部分が鉄ではなく青銅で補強されている点に気づくと同時に、握り部分が奇妙に変形していることにも気づく。それが武器としても使用されてきたことを如実に物語っていた。


村人たちは何が言いたいのか分からず、いぶかしげに視線を交わしていると、村長が察して説明を補足した。

「封印を行うために、この杖を依り代として使用するということですね?」


「その通りです。」

ニーアは真剣な表情でうなずいた。


「……ただ、これを使ってしまうと、私たちの戦力が少し落ちてしまいます。」

ホッブが低い声で静かに言った。その声には隠しようのない重みがあり、村人たちはその重要性を直感的に理解した。


ボガートが続ける。

「何とかなりますけどね。ただ、やっぱり戦いに使える装備が一つ減るのは……ちょっと、辛いですよ。

ゴブリン達を全滅させるだけなら悩む必要無いんですけど」

彼の口調はどこか軽いが、言葉の裏には村人たちに対する警告が込められていた。村を守るために戦力が落ちてしまうだろうと。


村長は一瞬考え込んだ後、納得したようにうなずいた。

「なるほど、封印には依り代が必要……。それに、その杖は精霊の加護を受けた貴重なもののようですね。」


村長は深く息をつき、重々しく口を開いた。

「実は、我が邑には代々伝わる槍がございます。勇者様方が持たれている装備より劣るかもしれませんが……

よろしければ、先ずは見てください。」


同時に、このやり取りが一種の駆け引きだということを、村長も十分に心得ていた。

精霊の加護といった部分では彼らの杖に劣るだろうが、村に伝わる槍はそれなりに価値のあるものだ。彼らが本物であると信じているからこそ、村の宝を託す覚悟を見せつつも、その反応を慎重に観察している。


「見せていただけますか。」

ニーアが落ち着いた声で尋ねると、村長は穏やかに微笑んで応じた。

「喜んで。」


その言葉と同時に、若者が丁寧に皮でくるまれた棒状の物を抱えて運び込んできた。その動きから、槍はすでに用意されていたことが窺える。


「ほう。」

ニーアが軽く感嘆の声を漏らす。


皮から取り出された槍は、見た目こそ古びているが、それなりに立派な作りだった。伝説の武具と呼べるほどではないが、現在ニーアが持っている杖よりも実用性が高いように思える。

ボガートが槍をじっと見つめながら、にやりと口元を緩めた。

「いやぁ、見た目は渋いですけど、結構な名品っすね。」

「ふむ、バランスも良さそうだな。」

ホッブが重々しい声で付け加える。


村長は三人の反応を見て、ほっと胸を撫で下ろすような気持ちになった。

(どうやら、この槍が役立つと理解してくれたようだ。)


この槍は古びた見た目のせいで一見すると大した代物ではないように見えるが、実際には簡単な魔力が込められており、見た目以上の性能を持つ逸品だ。

村長は内心でこんなことを考えていた。

(もし、この槍を封印に使うと言い出したら逆に不安だったな。そんな見識のない冒険者で、果たしてゴブリン相手に対処できるものか……。)


「いかがでしょう。」

村長が静かに尋ねると、ニーアは槍を見つめながら軽く頷いた。

「これならば、私の杖を封印に使用しても、代わりとして役立つでしょう。」

その言葉に、村長はさらに安心した様子でうなずいた。


ボガートは槍を手に取ると、軽く振ってみせる。

「へぇ、思ったより軽いっすね。こういうの、扱いやすいんですよね。

それと、不安でしょうから、封印して戻ってきてからで良いですよ。」

彼がどこか気軽に語ると、村長は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑みを浮かべた。


「それは何よりです。村にとって大切なものですが……

ですが、勇者様方にお使いいただけるのなら本望です。」


実のところ、ニーアは封印の術を使えるわけではない。槍が思いのほか良い品であることを見て取った彼女は、これを武器として確保しつつ、杖を封印用に使うという理屈を通すつもりだった。すでに彼女の中では、この槍を「自分のもの」として扱う心積もりが固まっていたのだ。

だからこそ、ボガードの村長への提案を、反対せずに頷いた。

急いては事をし損じると言うではないか。


三人は村長の配慮に感謝の意を述べつつ、静かに槍を受け取った。


村長はそんな彼らの姿に、本物の勇者たちと同じ気高さを感じ取っていた。

「どうかこの村を、よろしくお願いいたします。」


村人たちは頭を下げ、三人を敬意を込めた目で見送った。

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