ほろほろと、辛い。

両親に対する幻滅、かたや高まる姉への傾倒。三歳上の姉をひたすら追いかけ、神格化してしまうのは、自分が姉を仰ぎ見る視線と姉が自分を見つめる眼差しに、どうしようもない温度差を感じていたからではないか、そう感じさせられます。

姉は現実的で合理的で、発した言葉をひるがえすことに躊躇はありません。私の言葉は私のもの、それは私によっていつでも取り下げられるし、強めることもある。でも妹はそんな姉のひとつひとつの言葉を絶対的なものとしてあがめ、それが覆されることに混乱させられてしまいます。

姉にだって葛藤はあったはずです。彼女がどのように悩み、乗り越えていったのかはわかりませんが、妹とは違って追うべき背中がなかった姉は、混沌とした世界の中をひたすら前を見ながらかき分けかき分け、光を目指していったのではないでしょうか。

角川さんのまなざしに妹が感じたのは、姉とふたりでいたあの日の空気でした。その後幾度か繰り返される彼との邂逅、そして、その存在を受け入れていく妹。妹もゆっくりとこの世界を受け入れ、変わっていきます。でも、その様子に、妹は姉の代わりの存在を見つけ、新たな依存関係を構築していこうとしているのではないか、そのようにも感じてしまいました。人間関係なんて、所詮そうやって広がっていくものなのかもしれません。姉のように、自由に孤独に独立し、おおらかに自分の世界を広げていくものもいれば、がっしりと掴まれた過去の腕を何とか振り払い、そのくせその腕にぴったり似合う背中を探し求めたりもするものもいるのです。

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