六話「田舎民の食事量は多すぎる」
家に着き、扉を開けようとするといい匂いが外まで漂ってくる。
肉か..肉なのか?!
先程まで減っていなかったお腹が急激に減って、お腹かからぐーという音を出す。
俺はその匂いと空腹に我慢できず、勢いよく扉を開けて玄関に入る。
「おかえっ...」
「帰ってきたぜ!勇鬼!」
俺は勢いでエプロン姿で帰りを待っていたであろう勇鬼に抱きついてしまった。
別に...そういう事をしようとした訳じゃない...ただ、このいい匂いのせいで行動がおかしくなっただけで...後で素直に謝ろう。
「お、おかえり...」
勇鬼は顔が真っ赤になりながらも、ハグを返してくれてそう言ってくれる。
「す、すまん...抱きついて」
「だ、大丈夫...気、気にしないで」
そう言って、とてとてとリビングに消えてしまう。俺は一息ついてゆっくり戸締りをして、ふと靴箱横にある縦鏡で顔を確認すると、俺の顔はまだ真っ赤だった。
(...見られたくねぇ...)
そう思いながらも、俺はゆっくりとリビングに向かうのだった。
リビングに着くと、真ん中には肉切れが山のように置かれているお皿があった。
「え、えぇ...」
俺が唖然としているのを察した、勇鬼は慌てて近くに来て否定する。
「ち、ちゃんと!他の物も買ったし!!お野菜もあるから!!」
「だ、だとしても...肉多くない?」
「...や、安かったんだもん...。沢山食べ買ったんだもん!」
うーん。許す!
そりゃ...ねぇ...恥ずかしがりながらも、ブンブン手を動かしながら否定する様子を見せられたら...うん。可愛い。
「分かったから、一緒食べよう」
「お、おう!あ、お米は少し待ってな?」
そう言って、勇鬼はキッチンに向かって行く、その場でなんだろうとまっていると、手にピンクのミトンをつけた勇鬼が土鍋をもって机の端っこら辺に置く。
「...土鍋?」
「あれ?知らねえのか?土鍋でご飯炊けるんだぜ?」
「そうなのか?いや、お前ん家行った時確かそうだったような...」
何となく...そんな記憶がある。
しかし、覚えているのは勇鬼と部屋の内装とか何をやったのだけで、勇鬼の母親と父親が確かその時いたはずなのだが見た目が思い出せない、思い出そうとすると霧が掛かかると言うよりかは、大きな手に遮られるように出てくる場面自体が思い出せない。
「よく覚えててくれたな!」
「お、おう...」
俺はそう、曖昧な返事をしてしまった。しかし、勇鬼はそれを気づかなかったのか、茶碗にご飯を山盛りについでご飯にしようと言ってくれた。
夕食を食べ始めて、最初は間昔の事で語り合い楽しく食べていたが、皿の上にある肉が半分に減る頃には俺のお腹は満杯になっていた。
「すまん...ギブ...」
「お前そんなに胃が小さかったか?小さい頃はよぉまだまだ食ってただろ?」
そう言って、勇鬼はバクバクご飯と肉を食べ進める。というか、口の中にご飯を放り込んでいるようにも見える。
ふと昔を思い返すと確かに昔の俺は結構な量を食べていた気がする、いや、自分だけではなく学校の給食では皆がバクバク食べるから米粒1つさえ残らず食べ尽くされていたし、なんなら。中学校に進学した最初の給食にて、都会から来た学生から「その量食うの...?」と言う目線が俺たちに向かっており、田舎ら辺の子はほぼドン引きされてたような気がする。
いやまぁ、若いのもあったのかもしれないが、流石にテレビに出てくるようなチャレンジメニューをいとも容易くペロリと食べ尽くせた記憶もあるため、当時の自分は余程胃がおっきかったのだろう。
「確かにそうだったな...」
「だろぉ?」
そう言って、勇鬼が食べ終わり皿洗いをしてくれた後。俺たちがゆっしているとふと、勇鬼が呟いた。
「なぁ...覚えてねえのか...?」
最初は何を言っているのか分からなかったが、恐らく食べる前の会話の時、曖昧に返事を返したことだろうと思った。
「い、いや...えっと...」
本当の事を言うかどうか迷う。
勇鬼の事は思い出せたけど、勇鬼の両親が思い出せないと言うと、恐らくこいつは不安になってしまうだろう、ワンチャン俺のことを嫌うかもしれない...
俺は、どうしようかと迷いながらも、ゆっくりと答えを決めて口を開いた。
「ごめん...お前と遊んだ事は覚えているんだ...でも...唯一、勇鬼の親の姿が思い出せなくて...」
「...そ、そうか...な、なぁ...私の事は忘れないよな?」
勇鬼は泣きそうな顔で俺を見つめてくる。俺は後ろから抱きしめて頭をゆっくり撫で、呟く。
「忘ない...絶対に」
「...うん...絶対に、絶対に忘れないでくれよ...」
恐らく、この世界で勇鬼のことを覚えているのは俺ぐらいだろう。そう考えていると、少し独占しているという優越感と、皆の勇鬼との記憶を戻したいという逆の気持ちが交差する。
そして、俺は皆から勇鬼との記憶を戻せるなら俺はその為に行動するだろう。しかし、それは勇鬼の助けになるからで...勇鬼のためにならないなら、俺は記憶を戻さないし、ずっと俺だけを見てくれと願ってしまいそうと思ってしまう。
こういうのをヤンデレと言うのだろうか、恋と言うのだろうか...俺はこいつの事が好きだが...こいつは俺の事が好きなのだろうか...
なんか別の方向に行ってるような気がしたため軌道修正をする。とりあえず、今の俺の目標はこいつを助ける事だ。まぁ...助けるために必要な情報は何も無いのだが...
「んっ...さ、流石に撫ですぎじゃないか..」
色々考えながら無心で頭を撫で続けていると、さすがに恥ずかしくなってきたのか、勇鬼は頬をほんのり赤くして俺の目から視線を逸らした。
「...いや、髪綺麗だし、撫で心地もいいし...」
「そ、そうか...な、なら...ま、満足するまで撫でろ....よ...?」
なんで命令形?と口に出そうとしたが、彼女なりの照れ隠しだと思い俺はそのままゆっくりと頭を撫で続けた。
しばらくすると玄関からインターホンの音がする。
「なんか注文してたっけ?」
俺は今日の出来事を思い返しながら、まだ勇鬼の頭を撫で続ける。諦は来ない。
そうだ、確か今日交番に向かう時に、じいちゃんばあちゃんが野菜を届けてくれると言ってた気がする。
俺は勇鬼を撫でていた手を外して玄関に向かおうとするが、片方の手が勇鬼に掴まれる。
「ま、まだ...ほしぃ....」
「でも待ってくれてるだろうし...」
「なら..その...頭撫で続けたままで...」
いいんですか?!そんなことして!?
近所中に広まりますわよ?!
おっと、驚き過ぎて口調が変わってしまっていた。
「...せめて...手を繋ぐ程度でいいか?」
「わ、わかった、それで許す...けど!か、帰ったら...なでなでしてくれよ....?」
....何だこの可愛い生き物。
鬼とは本来、凶暴で、強欲で、人々を脅かす存在では無いのだろうか...
しかし、この勇鬼という鬼は甘えん坊で、可愛く、少し強引な所が本当に可愛い。
可愛いしか言ってねえ気がするがそうとしか表現出来ないからしょうがないだろう。
それにしても、こいつ、鬼ではなく猫ではないだろうか...ツンデレぽいけど、ツンデレにしては少し素直なところが猫ポイントが高い気がする。
俺は思いながら、約束通り手を繋いだまま玄関の扉を開くと朝であったおじいちゃんおばあちゃんが野菜がこんもり入った箱を両手で持ち笑顔で待っていてくれていた。
「済まないねぇ...今日はじいさんが暴走しちゃって...それに嫁さんがもう居たとわ...本当にすまないねぇ...」
その言葉に俺と勇鬼はお互い否定する。
「「いやいやいや違」」「いますよ!」「うから!」
しかし、おばあちゃんは、仲良いわねぇと言って笑顔をのまんまで...恐らく本当に結婚してると思っているのだろうか....
「おばあさんや、少し暑いからわしらは退散しようかの」
「そうですねおじいさん」
そう言って2人は玄関の隅に野菜が入ったダンボール箱を置いてその場をそそくさと去っていった。
反論する暇はあったのかもしれないが、おばあちゃんの一番最初の一言で思考が持っていかれて、お互いなんか恥ずかしく感じてしまって上手く口が開かないでいたから、まぁしょうがないよね...
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