五話「押して掴んで抱きしめて」

あれから交番に戻って、交番の中で座ったり、交番前で立ったりしているが誰も来ない。まぁそれはそうだろう、ほぼじいちゃんやおばあちゃんしかいないこの村で、犯罪を起こそうとするものはいないだろう。

いたとしても、ここの老人たちは身体能力がとても高いので自分の手で捕まえたりしてそうだ...

そんなことを考えてちらっと、壁にかけてある時計に視線を移し時間を確認すると、そろそろ12時になりそうな頃合だった。


「うーん...昼ご飯どうしようかな...」


しばらく考えた後、今日も花道のところにおじゃましようと思い、交番にパトロール中という壁紙を貼って歩き始めた。


しばらく歩いて、お腹からぐーという音がなり続けた時にようやく『おっこも』につく、俺はゆっくりと扉をスライドさせて中に入る。


「つ、つかむん!?ま、また来てくれたの?」


ぱぁぁぁぁ!

という効果音が似合うような笑顔で、花道は俺を出迎えてくれた。こいつ...こんな可愛い顔出来たんだなと思いながら中に入る。


「すまねぇ...唐揚げ定食1つくれねぇか?」


「わ、わかった!すぐ作るから待ってて!」


俺が注文すると、花道は俺がどれくらい腹が減っているのか分かったかのように、凄い手際の良さでテキパキと料理を作ってくれる。

注文した料理が出てきたのは、注文してからちょうど10分くらい後だった。


「いただきます!!」


あぁ...おいふぃ...唐揚げの衣はサクサクで中はジューシー...白ご飯にとてもあう...唐揚げひとつで、ご飯が1号分食べ終わりそうだ...


「えへへ、美味しそうに食べてくれてありがとう!」


「んっ...」


俺はかぶりつこうとしていた、唐揚げを皿に一旦戻して口の中にあるものを飲み込んで話を始める。


「いや、実際とても美味しいよ」


「ありがとう!あ、それで、お腹減ってたようだけど何かあったの?」


「じっは...あんまり食べ物を昨日持ってこなくてな...昼飯どうしようかと迷ってたんだ。花道のところに行こうと思ったけど、昨日来た時は夜に向けて色々仕込みしてるそうだったから少し行きずらかったし...」


「そうだったんだ...うん。たしかに仕込みはしてるけど、お昼から営業はしてるからじゃんじゃん来ていいよ!」


花道はそう言ったあと、「サービス」と俺の耳に囁いて唐揚げをひとつ載せてくれる。


「あ、ありがとう..?」


びっくりして、少し疑問形になってしまった。その反応を見た花道はくすくすと笑って微笑む。


「良かったら私が交番に料理届けようか?」


「えっ..?」


「もしくはお弁当を作ってあげる。朝にここに来てくれたらお弁当渡す感じでいいかな?」


「いいのか?つかれるだろうし...あと。準備とかに時間かかるだろ?」


俺がそう聞くと、花道はゆっくり微笑んで俺の頬に口付けをして話す。


「これは...今まで助けてもらったお返しなんだから...気にしないで?まぁ、つかむんのことだろうから、代金ぐらい支払わないと釣りが合わないとか言いそうだけどね」


「お、おう...な、なら代金位ははらうが...朝に弁当貰う感じでいいか?」


俺はいまさっき起こった出来事に理解が追いつかずに、ぼーっとしながら返答する。


「うん、いいよ後...感想教えて?」


「何の?」


「私が頬にキスした...感想♪」


...正直に言おう、恥ずい...

俺はこういう免疫は無い、押されると弱くなる。というか...こいつ。こんな強引なキャラだったか?もっと...なんか...お人やか?みたいなイメージだったんだが...


「の、ノーコメント...でいいか..?」


おそらく俺はいま、顔が真っ赤だろう...


「へぇ...まぁいいや、それじゃ、毎朝来てねつかむん♪」


「お、おう」


...この後、唐揚げ定食の味はとても美味しかったのは覚えているが...別の衝撃でなんか...思い出そうとしても上手く思い出せなくなってしまったのは...言うまでもないだろう。

代金を払って店を出ると、しばらくその場で放心する。

いきなり、あんな事された後だからしょうがないだろう...うん...いや、まて。建前ではパトロール中なのだ、危ない。

俺は思い返して、一呼吸すると村の中をパトロールし始める。


と言っても特に変わったことはなく、歩いていてもおばあちゃんとおじいちゃんに色々言われたり、気持ちいい風が吹いてその風の余韻に浸ったりしたぐらいで何も無かった。

もちろん困った人がいたら助けたりしてあげたのだがあんまり語ることもないだろう。


ふと、腕時計で時間を確認する。

短針と長針は午後の3時47分を刺しており、そろそろ交番に戻って、書類仕事をしなくては行けない時間だった。

ゆっくりと交番に戻っていると、1時間ほど前に助けたおばあちゃんとばったり出会いまんじゅうをもらう。


「ありがとうございます」


「いいのよ!さっき助けてくれたお礼!交番勤務頑張ってね、警察官さん」


「はい、村の皆さんのために誠心誠意頑張ります!」


「元気がいいのはいいけど、無理はしないでちょうだい」


「分かりました」


そう返事をして、歩くのを再開する。

交番に続く、周りが畑の一本道を歩いていると、こちらに手を振ってくれる人が沢山いて、少し恥ずかしくなる。

初めての勤務でこんなに応援されてしまって本当にいいのか。と思う気持ちとはべつに、本当に無理せず頑張りたいと心から思い、ちょうどいい風に癒されながら交番に戻った。


交番に戻って、まずやるのは書類仕事だ。

今日取り締まったことを書類として作成...さくせ...


「ない...」


一応、支給品の電話を確認しても、110当番の電話はかかっておらず、暇当然だった。

その時、仮眠室に置いてある沢山の本を思い出してあれで暇つぶしてたのかと、感じた。

そりゃそうだ。堀川さんは年だったからパトロールするにも体力がなかったりするだろうし、ここにずっと居たかったのだろう。それにはあんだけの漫画がないと暇は潰せないし、暇な毎日で飽きるだろう。


だとしても、流石にあの漫画の量はやりすぎだとおもうが....

とりあえず、仮眠室からこち〇めを1から10巻を借りて、俺は椅子に座ってゆっくり読む。

うん、暇つぶしは大切だ、休憩も大切だ。俺が自習した先のとある警官が言ってたのだが。「頑張りすぎだら休むのもいいが、サボるのも時にはやった方がいい。それがダメなら楽な方にいけ...」みたいな話を聞いた。その人は確か仕事に集中しすぎて、休みたい休みたいと日々連呼していたのをついでで思い出す。


...うーん。

だとしても、今サボるのは違う気がする。

俺はそう思って読んでいた漫画を閉じて、交番前に立ち周りを見渡す。

特に異常はないが、それがいいのだ。

できるだけ見渡して、少しでも異変が起きてないかとおじいちゃん、おばあちゃんを見守った。


6時位になると、パトカーが交番前で泊まる。


「やぁ、しんじんくぅん...朝ぶりだねぇ...」


「初めまして!掴夢さん!私、風月 千夜かぜつき ちよといいます!薬水先輩と共にバディを組んでいて...あ、朝は居なくてすいませんでした!」


...そういって自己紹介をしてくれた千夜さんは頭を下げた。

千夜さんは俺と同世代に見えて、髪は茶色の毛にショートヘアで、以下にも私元気いっぱいです!という雰囲気を醸し出していた。


「いえいえ、大丈夫です!」


「そうだよぉ...ちよくぅん...」


「先輩は謝りやがれください!!あ、今から私、千夜は掴夢の仕事を引き継ぎますので、帰宅してもらって結構です!!勤務ご苦労様でした!」


「わ、分かりました...」


このこ、元気と勢いで乗り越えるタイプだなと思いながらもお言葉に甘えて俺は着替えて家に帰るのだった。

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