七話「鬼は赤く、目を逸し、嘘はつかない」

とりあえず、さっきの出来事はお互い忘れようと言うことになり、俺は現在風呂が溜まるまで勇鬼の頭を撫でていた。


「....大丈夫?」


「だ、大丈夫ってな...何が?」


さっきから勇鬼の顔はずっと真っ赤で本人は気づいてないのかもしれないが、気持ちよさそうな顔で俺の胸に時々頭を擦り付けてくる。

少しこしょばいが、俺は気にせず頭を撫で続ける。そういえば、こいつは猫っぽいところがあるからと試しに顎を下から撫でてみる。


「ふにゃ〜...」


...そんなふやけた声が勇鬼の口から発された。

本人はそれに驚いたようで顔をさらに真っ赤にすると、逃げるようにたとんであるお布団の隙間に入り込む。


「あ、あの...勇鬼さん?」


「忘れて、忘れて忘れて!今のは忘れて!恥ずかしいからぁ...!」


...よし、覚えておこう。

そんなやり取りをしていると、時間はものすごいスピードで過ぎていってあっという間に夜の9時。

俺は現在風呂から上がって、寝室で布団を引いて天井を眺めていた。やることがないのだ。

勇鬼は風呂に入ってるし、かと言って俺はあんまりゲームをする趣味は無いし、暇つぶしと言えば筋トレをちょくちょくしたりする位だ。

読書を少ししてみようと思う時もあるが。俺は字を読むこと自体が少し苦手なため、何日も掛けないと読み終わらなかったりする。


「うーん...」


そう1人で何をするか迷っていると、視界に鬼の角が映る。気になって視線を横にやると勇鬼が俺の目をじっと見ていた。

一瞬新しく買った服でも見て欲しいのかと思って服に視線を落とす、旅館においてありそうな白黒の浴衣着の上に薄ピンクの羽織を着込んでとても似合っていた。

しかし、服では無いらしく俺の目をじっと見つめ続けている。


「どうした?」


「いや、いつも通りの目だなって」


「?」


いつも通りの目?俺は普段気づいてなかっただけで、変な視線を向けてしまっているのだろうか...?


「気にしないで、それよりつかむん。空がきれいだから一緒に見ない?」


「ん?分かった」


勇鬼に連れられて、玄関先に行くと空を見上げる。都会の方では星空を見ても多少綺麗だなと思うだけだったが、今見ている夜空はとても綺麗で思わず息を飲んでしまう。


「なぁ、勇鬼」


「なーに?つかむん」


「流れ星来たらどんな願い事するんだ?」


そんな子供が言いそうな質問を勇鬼になげかける。


「...一緒に...入れますようにかな?」


「なら俺は、こんな日常が続来ますようにと願おう」


そう言ってお互いを見つめ合う。

心臓の鼓動が早くなり、口が無意識に開きそうになる。ここで、あの言葉を言いたくなってしまう...けれど、その言葉を言って欲しいのは勇鬼からで、俺が言う言葉では無い...っと心中で思ってしまう。

だから慌てて、別のことを言ってしまう。


「勇鬼はその角...どうしたいんだ?」


「...無くして、いつもの日常に戻りたい。そしたら恋して、お前とゆっくりしたい...」


「...戻し方とかわかるのか?」


そう聞くと、勇鬼は首を横にゆっくりと降って、ゆっくりと微笑み口を開く。


「分からないからさ...お前にお願いしていいか?」


「分かった」


短く返事をして、俺と勇鬼は再び空を見上げた、満天の星空には流れ星が時々現れて願いを聞こうとしているかのように、最後まで光り輝いていたが、俺も勇鬼も何も口にしようとはせず、その光をみてただゆっくりと時間が過ぎるのを感じていた。


次な日。

あの後、俺達はゆっくりと家に戻りお互いの布団で寝たのをぼーっとしながら思い返す。

現在時刻は朝の5時で昨日起きた時間と同じくらいだった、隣に視線をやると勇鬼が俺の手にしがみついて気持ちよさそうに寝ていた。

俺は昨日みたいになっても困るので、二度寝しようかなと思いながらも勇鬼のほっぺを触ったりを離したりを繰り返す。


...そういえば角ってやっぱり敏感なのだろうか?昨日の朝触ってみた時ビクッと体を跳ねらせていたため、結構敏感そうだが...


試しにチョンっと角に触れてみる。

すると勇鬼はむず痒そうな顔をして「ふにゃ!?」と驚いたような声を上げたが、目は開かずそのまま敷布団の中に顔を隠してしまった。

なんとも不思議な生体だ。

っとそんな事をふざけてる暇はあるにはあるのだが、とりあえず暇なので今日の朝食と勇鬼の昼ご飯を作ろうと立ち上がった。


冷蔵庫を確認すると、昨日貰った野菜の他に勇鬼が買ったでたろう物がぎゅうぎゅうに詰め込まれており、野菜類を先に処理しようとメニューを考える。

とりあえず、汁物は味噌汁にじゃがいもを入れたもので良いだろう。メインのおかずはピーマンと昨日の残りであろうお肉を一緒に炒めた物を作り、サラダはきゅうりとキャベツにドレシングをかけたシンプルなもの。そして炊飯器でご飯を炊きはじめる。

一通り朝ご飯ができた頃、寝室のとが開いて目を擦りながら勇鬼がやってきた。


「おはよう、もうご飯できたから早く着替えて、顔洗ってこいよ」


「うん...わかった...」


子供のように返事した勇鬼の頭を軽く撫でて、俺は料理をもりつけた皿を机の上に置いていく。

少しして俺が茶碗にご飯を詰めて運んでいる時に、勇鬼は最初であった時の巫女服を着込んでやってきた。


「もう食べるか?」


「うん!」


そう言って俺が茶碗を俺と勇鬼の席に起き終わると、お互いの席に座っていただきますを言う。


味噌汁を少し啜る。まだ少し肌寒い時期が続いていたため、体が少しづつ暖かくなって行くのを感じる。味も自分にはちょうどよく、具材のじゃがいもちゃんと柔らかくなっていて食べやすかった。

ピーマンと昨日の肉の残りを炒めたものだが、味付けとしては塩胡椒しかかけていないはずなのにとても美味しく、改めて田舎の凄さを実感した。

白ご飯と共に食べ進めていて、ふと勇鬼の所を見てみると、そっとピーマンを外していたのが見える。


「...まだ食べられねえの?」


「ぁ...!え、えっと...!ち、違う!違うの!!」


「何が違うんだよ」


俺はそう言って、慌てて手を振って誤魔化す勇鬼の目をじっと見つめる。


「...ほ、ほら...お漬物に...」


「食べなさい」


「...やだ!」


お子様か?

勇鬼は好き嫌いが激しい代わりに、嫌いな物が少ないタイプなのだが....てっきり俺は中学生位から無くなっていたと思っていた。

まぁそれは、俺と勇鬼が同じクラスになる事がなかったのが理由だが...


「なら、俺が食わせてやるから、口開け」


俺はそう言って立ち上がると、勇鬼の近くまで歩いていき、俺の橋で勇鬼が除けていたピーマンを掴むと、ゆっくり勇鬼の口に近づける。


「え?え?あ、あー」


勇鬼は急な出来事にわけも分からず、口を開けてしまう。俺はその瞬間を逃さず口の中にピーマンを入れた。


「美味しいか?」


「お、美味しいです....」


よしよし、勇鬼が満足に食べているところを見て俺は満足して自分の席に戻る。そして、その時気づいた。このお箸どうしようと...

そのまま使う...のは正直恥ずかし...かと言って別のお箸を使うのもなんか恥ずかしいし...うん、お箸変えよう、恥ずかしい!!


俺は別のお箸を取ってきて、それで朝食を食べ始める。勇鬼はその光景をじっと見ていたが何も言わずにどこか気恥しそうだった。


時は過ぎて、6時45分。俺がちょうど準備を終わらせた時に、勇鬼が近づいてきた。


「どうした?」


「今日も...昨日と同じぐらいの時に帰ってくるんだよな?」


「そうだな、あ、昼飯は今日の残り物だがいいか?」


「そ、それは大丈夫だけど...」


「?」


「は、早く帰ってこいよ」


「分かってる。ちゃんと覚えて帰ってくるよ」


そう言って、勇鬼の頭をグリグリと強めに撫でる。


「んっ...まってるから...」


「おう」


俺はそう返事して玄関に向かうと、後ろから勇鬼がとてとてと着いてきて最後まで見送ってくれる。


「行ってきます」


「行ってらっしゃい、つかむ」


勇鬼のその言葉を頭の中で何度も再生しながらゆっくりと外に出る。


(今日も仕事頑張るぞ!)

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