四話「先輩は個性的」

交番に向かって歩いている時にふと周りの景色を見る。

周りの田んぼにはちょくちょくおじいちゃんおばあちゃんが農機にのって、土づくりをしていた。ちょうど近くで作業をしていたおじいちゃんに俺が軽く挨拶をすると、一瞬その場に止まって首を傾げ俺の顔をじっくりみて少しするとあー!という顔になり元気に走りよってくる。


「風弥くんかい?!」


歳の割に意外と元気そうなおじいちゃんはそう言って思いっきり抱きついてきた。


「は、はい!」


「懐かしいのぉ!!こっちに帰ってきたのは知っていたがこんながっちりした肉体になっとるとは!」


「は、はぁ...」


「警察になったんじゃけ?昔っから正義感が強いお前さんがこんなんならこの村は安泰じゃ!」


「い、言い過ぎですって...」


「言い過ぎぐらいがいいものじゃ!所でお見合...」


じいちゃんがそう言おうとした途端、後ろから凄い形相をしたおばあちゃんがおじいちゃんの耳をつまんで引っ張りあげる。


「あらあら...おっきくなったわねぇ...これから交番勤務なんでしょ、頑張ってねぇ」


「ち、ちょ!ば、ばあさんや痛い痛い!?」


「おじいさん。無理にお見合いさせちゃダメでしょ?それに、この子にも好きな人がいるかもですし」


「そ、そうじゃの...若いもんは恋をすべきじゃからな...」


そう言っておじいちゃんは考えを治したのかぺこりと頭を下げて謝る。


「いえいえ、大丈夫です!気にしないでください!!」


「すまないねぇ...後でたっぷりお野菜分けるから」


「いえいえ大丈夫です!無理しないでください!!」


「いいのよ、2人で生活してるとお野菜が余っちゃってよく漬物にしちゃうから。今はどこに住んでるの?」


「もともと、俺のおばあちゃんが住んでた所に...時間は...夜7時には...戻ってきてると思います...」


「あー!ひっちゃんのとこね!なら言われた通り7時に送るわね!あ、こんなに時間とってごめんなさい!勤務頑張ってね!」


「は、はい...」


俺がそう返事をすると2人はスタスタと作業に戻って行った。

嵐のような2人だったなと思いながら再び交番に向かって歩く。


...あいつと...出来れば...ずっと、おばあちゃんおじいちゃんになってもあんな感じに暮らしたいなと思う。

変な考えかもしれないが...


それからさらに30分ぐらい歩いていると、周りが畑の中にポツンと周りに何台か車が止める為に整備されたであろう駐車場があり、そこには、俺の代わりに応援に来てくれた人のであろうパトカーともうひとつ俺用のパトカーが置かれていた。


その駐車場の隣にそれと同じくらい大きな交番があり、そこが俺の勤務先だ。今の時間を確認すると8時ちょうど、家からここまで来るのに1時間位なのを確認して、記憶するとの中に入る。


「あのー...」


俺が声を出しながら中に入ろうと薄暗く電気が付い無いことに気づいた。


「あれ?」


俺は応援に人が来てるのは勘違いだったのか?と思いながらもゆっくり中に入り、とりあえず仮眠室で寝てると考えてそこへ向かった。


「いないなぁ...」


仮眠室にはこち〇めやラッキー〇ン、〇ン肉マン、等の古い作品の漫画が本棚に敷きつめられていた。

堀川さん...ここを自分の部屋だと思って使っていたのだろうか...いや、それよりも漫画多くない?

交番天井まで届く本棚が壁一面にびっしりあって、その本棚の中にもびっしり本が揃っている。しかも戸締りをちゃんと意識していたのか色褪せがなく、新品並に見える。


「...後で読も」


そう呟いた途端、ガシャンと音が聞こえた。


「え?」


俺の腕を見ると手錠がかけられていて、鎖の先を目でたどって見ると、そこには灰色の長いボサボサ髪をかきながら立っているお姉さんがいた。

女性の年齢を探るのはあれだが...恐らく年齢は21歳ぐらいで、警官服の袖が何故かブカブカの状態だった。


「逮捕だよぉ...しんじんくぅん...」


「ぇ?え?」


「早く来たらぁ...先に先輩に挨拶だろぉ?」


「ど、どこにいたんですか?」


「トイレの中だよぉ...しんじんくぅん....食べ物なくて持ってきたカップラーメン食べたら油っこくて吐き気がぁ....」


「...大丈夫ですか?」


俺が心配して近づくと、その人は頭に手を当てて何かしら変なポーズを撮る。


「はっはっはっ!心配するなしんじんくぅん!!所で自己紹介がまだだったねぇ!私の名前は薬水 安理やくみず やすりよろしくねぇ!」


「は、はい」


そう勢いよく名乗った薬水さんは耳を真っ赤にしていた。いや、じっと見ていると耳から顔へと段々と赤くなっていく。

...男に免疫ないタイプの人なのか?もしくは単純に恥ずかしいのか...


っと、そんなことを考えてる暇はないんだった、俺は薬水さんに聞かなくては行けないことがあるのだ。


「なんで、手錠かけたんですか?」


「んー、ノリというものだよぉ、しんじんくぅん」


そう言って、薬水さんは手錠に鍵を差し込もうとするが、手がプルプル震えていて、差し込むのに何分か掛かりながらも手錠を外してくれた。


「それじゃあ、私は帰るから頑張ってねぇ、しんじんくぅん」


「はい!お疲れ様です!」


俺がそう頭を下げてお礼すると、薬水さんは俺にゆっくり抱きついてきた。いや、訂正しよう倒れてきた。


「ぇ?」


「すまない...はきけ...」


ちょっとぉぉぉぉぉぉ!?


その後慌ててトイレに駆け込んで、背中を摩ってあげた。

あれからてんやわんやありつつも、一段落着いて、俺はロッカーの中に入っていた服に着替えると、仮眠室で横になっている薬水先輩の様子を見る。


「えっと...大丈夫ですか?」


「大丈夫だよぉ...しんじんくぅん....あ〜...胃がきもちわるぃ....」


そう言って仰向けになっている、薬水は頭に手を当てて俺の方をちらっと見ている。


「酔い止め持ってきましょうか?」


「そうだねぇ...すっかりわすれてたよぉ....」


薬水さんはそう言って懐から錠剤を取り出すとそれを口の中に放り込んで飲み込んだ。


「よぉし...しばらくは大丈夫だから、しんじんくぅん。その間に近くの交番まで運転お願いできるかぁい?」


「分かりましたよ....」


俺が了承すると薬水さんは笑顔...マッドサイエンティストがしそうなにやけ顔で、感謝をしてくれて、俺がパトカー運転席にのり、薬水さんは助手席で吐いてもいいように袋を装備したまま乗るのを確認すると運転を始める。


「...薬水先輩」


「どうしたんだぁい...?しんじんくぅん....」


「...次来る時は無理しないでくださいね?」


俺がそうゆっくり言うと、薬水先輩はクックックっ....と怪しい笑い方をしながら口を開く。


「...私はよく要らない子扱いされるけど...来るなと言われたらきたくなるタイプでねぇ...?」


「はぁ...なら、来てもいいですけど、本当に無理はしないでくださいね!」


「わかったよぉ...しんじんくぅん」


ちらっと横目で確認すると、薬水先輩の顔は赤く火照っていたが...熱だったのだろうか?

しばらくして近くの交番まで薬水先輩を送り届けると、俺と同じ新人であろう女性警官が頭を下げてお礼をすると、薬水先輩を文字通り持って行ってしまった。

俺はそれを唖然としながら見送り、濃ゆい先輩だなぁ...と思いながらも、とりあえず気分を切りかえて、自分の交番に戻るのだった。

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