三話「あの子は変わらなくて」
目が覚めて、隣を見る。
「...やっぱり寝てるか」
俺はそう呟いて、脳内で名前を何回も呼ぶ。
山旅勇鬼、山旅勇鬼、山旅勇鬼。
よし、覚えてる。
...なんか自分がボケてるかどうか確認してるみたいで滑稽だなぁ....
「...でも、お前を絶対に忘れないように頑張るよ、俺」
そう独り言を呟いて軽く勇鬼のほっぺを触る。
柔らかい、しかもこいつ気持ちよさそうな笑顔になるぞ?!
試しに少しほっぺから指を離すと笑顔が引っ込む、再び触れると気持ちよさそうな笑顔が再度出てくる。
うん、可愛いか?
やばいぞ?今日から勤務始まるのにこれをずっとしてたい!めっちゃ可愛い。
あかんあかん。
深呼吸をして気持ちを取り戻すと、再び少し触って元気を貰い軽く体を洗いに浴室へ向かった。
風呂を沸かす時間などないためシャワーだが、昨日お風呂に入るのを忘れた分しっかりと体を洗う。
風呂から上がる時にふと、あいつも風呂入ってないことを思い出してお湯を溜める。
というかあいつ、家が無くなったって言ったが、どのくらい風呂とかに入っていなかったのだろう...気ずかいがまだまだだな....
服を着てリビングに戻ると、壁に掛けてある時計で時間を確認する、短針と長針が指しているのは5時15分。
うーん...朝ごはんはどうしようか...昼飯も。
本当はいつも弁当を作るのだが、こっちに来るのがワクワクすぎてあんまり買い出しをしていなかった。
今日もカップラーメンか?いやまて...確かインスタント味噌汁はあったはずだ、んでレンジで温めればいいご飯も買ったんだっけ...これで今日の朝ごはんは何とかできるか。
そんな事を考えていると、勇鬼がぼーっとした様子で襖を開けてリビングにやってくる。
「お、おき...」
俺がそう言おうとした途端、俺はドサッと床に押し倒される。もちろん犯人は勇鬼だ。
勇鬼はまだ眠いのかぼーっとした様子で俺の胸に顔を埋める、鬼の角の先が俺の顔に当たりそうになったがまぁいいだろう。
「...つかむ...」
勇鬼がそう呟いて、涙を流す。
俺は優しく頭を撫でた。
「忘れねぇから安心しろ」
「うん...うん...」
勇鬼はそう何度も自分の中で確認するように声に出すと、再び寝てしまった。
さて...ここからどうしようか...
俺の交番勤務時間は朝8時半から、午後6時までの勤務で、そのほかの時間はどうやら別の交番から応援を呼ぶ、見たいな感じになるそうなのだが...1番近い交番からだとしてもパトカーで50分ちょっとぐらいだったはずなので、俺がなるべく早めに来てその人には休んでてもらいたいのと。
初めてここから交番まで歩いてゆくので、どれくらい時間が掛かるのか分からないから早く行っておきたいと思ってる本音だ。
でもなぁ...
こいつとまだいたいし....休んでも...いやいや!それはダメだ!!
責めて8時に付くようにはしたいからそうだな...7時くらいに行こうと心の中で決めると勇気のほっぺを軽くつねる。
「いにゅ...」
「起きろ」
「にゃだ」
そう言って勇鬼は俺の腰に手を回してぎゅっと抱きしめる。
...力強い...鬼になったからか?というか!大きなものが当たってるからか、平常心が保てなくなってくる。
「起きろ!!」
そう言って鬼の角を強く掴むと、勇鬼が「ひゃ//」っと可愛らしい声を出して目をぱちくりさせる。
「起きたか?」
「ひ、ひゃぃ!」
勇鬼は今の状況を確認して、慌てて俺から離れると顔と耳を真っ赤にして俯く。
うん、可愛い....じゃねぇ。危ない伝える事を忘れるとこだった。
「風呂沸かしてるから入ってこい、お前何日も入ってなかっただろ?あ、シャンプーとボディソープは俺が使ってるやつでいいなら使ってくれ」
「わ、わかりまひゅた!」
そう言って慌てて勇鬼は風呂場へ向かった。
うん、一件落着。...だよね?
しばらくして俺と勇鬼は机を囲んでご飯を食べ終わってぼーっとしていた。
理由は単純でやることがないからなのと、なんか、俺達が動いたらこの空間が無くなってしまいそうな...そんな感じがしてるからだ。
「そうだ、今日お使いすると今日の金置いとくわ」
「わかったわ、どんぐらい置いといてくれるの?」
「とりあえず10万?買って来て貰うのはお前の衣類としばらくの食材ぐらいかなぁ...」
「じゅ、10万!?」
勇鬼はそう言って、机にどんっと勢いよく前のめりになってこっちに顔を近づける。
「ほら、女性って服とかメイクとかにお金かけるから...」
「な、なるほどな...ん?お前、そんな事言うつう事は誰かと...」
「付き合ってない。俺の母さん、服とかメイクとかにお金かけるし、女子高校生が万引きする話をよく聞いたんだよ」
「あ、あーな...」
「よかった....」(小声)
「なんか言ったか?」
「い、いや何でもない!」
「?」
そんな会話をしていると、何かに気づいた勇鬼が怒ったように聞いてくる。
「お前...ちゃんと飯食ってるんだよな?」
「作ってちゃんと食べてる!じゃねえと筋肉こんなにつかねえよ!!」
「そ、ならいいんだ。あ、昼飯はどうするんだ?」
「お前は外食でいいだろ?俺はー、んー....」
その事は悩んでいた。
花道の所にお邪魔しようと思ったが...昨日の見た感じだと恐らく夕食の下準備に忙しそうだったんだよなぁ...んー....
「まっ、何とかするさ」
「ならいいんだけどさ...あ、なら夜ご飯は私が作るからつかむん!楽しみにしとけよ!後腹も減らしとけよ!!」
そう言って勇鬼はビシッと俺に人差し指を向けてくる。
「めっちゃ楽しみにしとくわ」
「おう!」
俺の返事に勇鬼はニカッっと犬歯を見せつけるようにわらった。
こいつの笑顔は何時もこんな感じだ。暖かくて眩しい。
「さて...早く起きすぎたな」
「...私はまだ少し寝みぃ....」
そう言って勇鬼は瞼を擦る、確かにさっきから眠たそうで時々、頭をかくんっとした後背を伸ばして目をぱちくりさせたりを繰り返していた。
時間まだ6時だし、まぁ...普通の人だと眠ってる時間だろうか。
「...Zzz」
なんて事を考えていると勇鬼はくぅくぅと眠ってしまった。
まだ春だが肌寒いし、ここだと恐らく風邪をひくだろうと考え、俺は勇鬼に姫様抱っをして運ぼうとする。
持ち上げた瞬間の感想は軽い...めっちゃ軽い...。比較すると俺の荷物が詰め込んであったダンボールより恐らく軽い。
こいつあんまり食べてないのか?いや、そうか...神社の本殿にいたんだし...
今日から沢山食べてほしぃと思いながら俺は勇鬼を運んで布団に寝かせて、掛け布団をかける。
ほんのり笑顔になった勇鬼の頭を撫でると、「ふにゃ〜」と猫のような声を出して手にほをすりよせてきた。
猫か?鬼じゃなくて猫さんなのか?
...うん、俺は覚悟を決めて素早く準備を終わらせると時間になるまで勇鬼の頭を撫で続けた。
時間を確認するとそろそろ7時になるかどうかの時間帯だったため俺は慌てて立ち上がり玄関に向かった。
家を出る際、何となくで後ろを振り向くと勇鬼が手を振っていた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
そう短い言葉を交わしあって、俺は交番に向かった。
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