6話 白は踊り、白は狂い、青は嗤う。前編
「じゃあ早速、クエストを一つやってみねぇか?」
「どうして?」
「どうして、と言われてもな…」
この良く言えば純真無垢、悪く言えば世間知らずのか弱い…どころか最強に近いこの子をどうやって納得させるか、少しの沈黙の後、
「あー、もちろん、嬢ちゃんの信用のためだ。いくら嬢ちゃんに敵意がなかったとしても周りにはそれがわからない。むしろ、あの馬鹿みたいによく思っていないヤツのほうが多いだろうからな」
未だ、壁にめり込んだままの冒険者を見ながら苦笑。
「でも、何をするの?」
多少の興味はある様だ。
「あー、そうだな…これはどうだ?迷子の子猫探し」
ひらりと一枚の紙をシヲに手渡す。そこには小さな白猫の写真と、メッセージが添えられていた。
{迷子の子猫、至急情報を求む。特徴・白が基調・尻尾が短い・エメラルドのような瞳・ミサンガの首輪}
「ふーん…」
『かわいいね~、シヲちゃんみたい』
嫌味ではない、純粋な感想のようだ。猫に免じてデコピン一発で済ませておいた。
「簡単。もっと、難しくても、問題ない」
「フッフッフッ…それはどうかな?」
不敵な笑みを浮かべるギルド長。
「どういう事?」
警戒態勢に入るシヲ。
「あー、待て待て。そう言うんじゃなくてな…実はこの子、最後に目撃情報があったのはもう1ヶ月も前なんだ。それも、嬢ちゃんが出てきたあの森が最後なのさ」
「なら、もう死んでる。あそこは、死の気配が、一番強い」
最もだ。なにせ精霊が出入りする門がある場所。当然魔力のエネルギーは高い。そこに出現するモンスターは指折りの中位探索者でも討伐に骨が折れるほど。
「でもねぇ。その子はぜぇったい見つけないとダメなんだってぇ」
アリアだ。いつの間にか離席していたが、戻ってきた。
「実はその子、ここのえらーい貴族の猫ちゃんでねぇ。そこの一族はたぁくさん猫を飼ってるんだけど、特にお気に入りの子なんだってぇ。その紙に書いてなぁい?」
下の方に{ウィブルス家の末っ子、リンド様の寵児の子。発見次第、直ちに報告を}と、書かれているのを見つけた。
「領主から、発見できなかったらお前たちただじゃ置かないぞぉ!って言われちゃってねぇ。失踪してから三日間はみーんな血眼になって探したよぉ」
「だが、結局見つかることはなかった」
アリアとギルド長は顔を見合わせ、当時のことを思い出していた。
「じゃあ、なんで今更?」
「領主からな、死体でもいいから見つけてくれってついこの間言われたんだ。だが、最後に見かけたのがあの場所となるとな…気づけば一ヶ月経ってたんだよ」
小さなため息を一つ。ギルド長は、シヲとアリアを見回した。
「そこでお嬢たちだ!」
「どうして、そうなるの?」
「お嬢等は強いからな。あの森で探し物をするぐらい、造作もないだろう?」
シヲはコクリと頷いた。
『さっすが!自信満々だね~』
「と、言うわけで…受けてはくれないか?難易度はB級、報酬は…」
アリアの方をちらっと見る。
「そうねぇ…しばらくの安全と、衣食住は保証しましょう。もちろん、クエスト達成報酬も貴方の物よ」
「…わかった。やる。」
断っても別の依頼が入るだけだろうと判断しての事。報酬も魅力的だった。
こうして、シヲの初クエストが始まった。
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『着いたねぇ~』
シヲ、そしてアリアは冥界門のある森に到着した。
「探すって言ってもねぇ、この森広すぎるのよねぇ。シヲちゃん?」
シヲは何か考えている。しばらく考え込んだ後、言葉を発した。
「死の気配が、少ない?」
「えぇ?どういう事?」
アリアは精霊ではないので、死の気配がわからない。殺気などは感じられても、精霊が感じる特有の気配はわからないのだ。
『◽️◽️◽️◽️。』
『イザナ?何してる?』
『ごめんねぇシヲちゃん、今回は危ないから手助けしちゃうよ〜。』
イザナが聞き取ろうとしても聞き取れない言葉を発すると、シヲの体が思う様に動かなくなった。まるで、体の支配権を一部奪われている様に。しかし、そんな事より無視できない言葉があった。
『危険?なんで?』
『お姉ちゃんは、妹ちゃんの危機を守らなきゃいけないの。ごめんね?』
答えになっていなかった。シヲは考える。イザナがこう言うと言う事は、本当に危ないのだろう。イザナが直接手を出して来たのは、私が傷着いた時だけだ、と思い出したからだ。
「アリア、この任務、多分危ない。」
「え?なに、どう言う事ぉ?」
「理由は分からない、けど危険。」
言葉足らずのシヲであったが、警戒態勢を見せ、いつでも戦闘に入れる様になっている。その姿を見て、アリアも警戒心を上げて行った。
しばらく歩くと、アリアはその言葉の意味を理解することになる。
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「アリア、あれ……」
「えぇ、シヲちゃんが危険と言った理由がわかったわぁ。」
口調はさながら、アリアも緊張していた。
二人は、道中魔物に一切出会わなかった。シヲが死の気配を頼りに歩いていたが、全く出会わなかった。冬眠などで少なくなることはあるが、一切いなくなるという事は無いし、今は冬では無い。ならばなぜか。考えられるのは、圧倒的上位存在がいる可能性がある。アリアはそう考えていた。
〝なぁーーん。〟
その答えは魔物の死体の上に佇む、ミサンガの首輪をした猫だった。
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作者の甘茶でーす!気に入ったら♡、⭐︎、フォローお願いします!ちょっと忙しすぎてしぇがみん様に代筆50%ぐらい頼んでいます。しぇがみん様著の氷白戦記も面白いので読んでくださいね!
本来1話に収めるはずの内容が前編後編になりそうで恐怖してます。
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