第3話 視点:私
外は、とても寒かった。
チラチラと降る雪が星灯を反射して、今までに見た景色の中で、一番きれいな気がした。
「汽車通?」
「ううん。歩いて二十分」
「俺は汽車」
「そう」
私達に交わすことができるのは、ありきたりでなんの面白みもない言葉だけ。
それで良かった。
そのくらいが、ちょうどよかった。
でも、もう終わりだから。
言いたい言葉、ちゃんと見つかったから。
駅へと続く道と、私の家に続く道との分かれ目。
先に足を止めたのは、私だった。
「どうしたの?」
先に声をかけたのは、彼だった。
「ねえ。」
「うん」
夕暮れの教室で見た時の彼の目は、陽光に照らされていたにも関わらず、そのまま消えてしまいそうだった。
でも、今私を見ているその目は、少しだけ、ここに存在しているような気がした。
「あのね、」
もし、キミが今、ここにいたいと少しでも思っているのなら。
苦手な言葉だけど、少しくらいなら紡ぎたい。
「私は、笑わなくても、良いと思う。だけど、キミにとってのそれが義務なんだったら、我慢して、我慢して、それで、限界が来た時に、誰かの前で泣いちゃえば、それが一番、だと思う。でも、」
私の途切れ途切れの言葉を彼は静かに聞いてくれていた。
これは、そんな彼に、私が一番伝えたかったこと。
「でも、ね。・・
たとえ、うまく笑えなかったとしても、キミはキミだよ。」
目の前の彼の瞳が、わずかに見開かれた。
そして、一瞬の空白の後、
「うん。」
と、小さな返事が返ってきた。
そのままくるり、とこちらに背を向けて歩き始めた影は、もう振り返ることはなかった。
でも、私には少しだけ見えてしまった。
彼の、心からの柔らかい笑みと、目尻を飾る雫の海が。
何も特別なことなんてない、ある日の放課後のセカイの話だった。
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