第2話 視点:私

その後、彼はたくさん自分のことを話してくれた。

言いたいことを決めていたわけではなく、自分の心に浮かんだ言葉をそのまま吐き出している、という感じだった。

要約してみると、どうやら彼は笑い方を忘れたらしい。

私の目にはいつも、笑顔を浮かべているようにしか見えないけど。

「なんで俺、笑ってるんだろうって思っちゃって」

「なんで?」

「それがわかんないから困ってるんだよ」

「なら一生困ってればいいんじゃない。」

「やっぱり、君って面白いね。声かけてよかった」

「そう。無理して笑っても良いことないと思うけど。」

「義務に近い感じかな」

「そんな義務あるなら、私は全く守ってないよ。」

「強いね」

「別に。」

相談でもなんでもない、ただ話を聞くだけ。

彼の喋りたいことを相槌を打ちながら聞いて、私も少し話す。

誰かがそこに現れたら、なにかの音がなったら、途端に消えてしまいそうな空間だった。

そのくらい不安定で、頼りないセカイだった。

でも、彼は確かに微笑んでいたような気がするし、私は確かに、居心地の良さを感じていた。

「ねえ」

ふと、なにか彼に言いたくなって声を上げたその時、このセカイを壊す音が鳴った。

ああ、終わりか。

静かに、そう思った。

空には約束していた星が瞬き始めていたけれど、名残惜しさは一つもなかった。

ただ、終わりだ、という空気だけが流れていた。

「・・もう、帰らないとだね。」

「うん。」

先ほど音が流れてきたスピーカーを見上げ、呟いた彼。

結局相槌だけ打った私が自分の目の前のカバンを持ち上げると、彼がこちらに手を差し出していた。

「何。」

「あと、ちょっとだけ話そ?」

なんとなくこうなる気がしていたけれど、でも、あと少しで、何かを彼に言えるような気がする。

彼がほしい何かを。

「うん。でも、本当に最後だからね」

「知ってる」

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