第16話

できれば一年記念日、一緒に過ごしたかった。「ずっと一緒にいようね」なんて、可愛らしい約束を、きみと結んでみたかったのに。


耐えられないから、なんて言われたら、嫌だなんて言えなかった。


だってその言葉はわたしのことが大好きだって言ってるようなものだったから。



「いつか結実が話してた未来、あるじゃん。ピンヒールがなんちゃらとか、トーキョー23区内とか」


「あ…うん。今年進路希望聞かれた時だと思う」



進路希望調査の紙に何も書かないまま提出した小旗くんに不安になったその帰り道、ひたすら並べたわたしの理想の未来。


きみとBARに行く、の後は恥ずかしいから内緒にしたけど。



きみはただ笑って聞いていた。


お酒はきっと飲めないのに、間違えて言ってしまったわたしを責めず、きみは優しく笑ってくれた。



「あの時言えなかった言葉を贈るよ」



耐えらんないから別れを選んだきみ。

それはわたしといることよりも、命を選んだ答えのような気がしたから、諦めないでくれたんだと思って、辛かったけど同時に嬉しかった。


それなのに、きみを閉じ込める狭い空間で、小旗くんはひとり淋しく静かに泣いた。



ごめんは、わたしの方。

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