第14話

きみは息継ぎを知らない。たぶん知らない。少なくともわたしが知ってるきみは、一度も水泳の授業で泳いでいない。



だから、大丈夫かな。

そう不安を感じていた時だった。


器用なはずの指先が、胸元で止まる。

重ねていたくちびるが、離れてく。

小旗くんの黒髪が、ぐらりと揺れた。



心臓、止まるかと思った。わたしのも、きみのも。きみの方が先に止まりそう。そんな縁起悪い想像が、一瞬で頭を駆け巡るあの感覚は、悪夢は、二度と忘れられないだろう。


寝言みたいに「薬……」とつぶやくきみを見て、わたしははっとした。


このままじゃ、本当に本当に死んでしまうって。



一瞬で青白くなった皮膚。苦しそうな眉間のしわ。辛うじて行われている短い呼吸。


わたしは、震える声で救急車を呼んだ。


震える足で部屋に常備されたペットボトルのミネラルウォーターを取りに行って、それから、小旗くんがいつもこっそり誰にも知られないように持ち歩いていた錠剤を、ワイシャツの胸ポケットから取る。それしかわかんない。これ以上は何したらいいかわかんない。

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