第9話
────3月19日
中学3年の今日、きみと出会ったこの学校を卒業する。
早咲きの桜のピンク色が、薄水色の空によく似合う、晴れの日にぴったりのお天気。
卒業曲合唱を目前にし、ロクに歌詞を覚えていなかったわたしは一番後ろなことをいいように活用して、体育館を抜け出した。
渡り廊下は春だというのに寒い。
朝はいたはずの小旗くんは、卒業式の途中から姿を消した。
心臓がせわしなく動いた。
なんだかこわくなったわたしは、思い当たる場所を探して、わりと簡単に見失った姿を見つけることに成功する。
これは愛のちからなのか。
なんの力も持たないと思っていたそれを、大事に思うことができたというだけで、今日という日に少し感謝することができた。
「小旗くん、ここを選ぶなんてずるいね」
化学室に入ると、きみは気配を感じとったのかこっちを振り返った。
驚かないあたりずるいよ、本当に。
「俺、ずるいし」
「そこがいいんだけどね」
「…そーいうの言わなくていいから」
あ、照れた。
「別れてもまだ好きなの、とか聞かないあたりもいい」
「…ははっ。きっつ」
今度はちょっと困ってる。
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