第15話 夢の国の廃墟④

 階段の途中で十分休憩を取った僕らは、三階へと上がってみた。


 三階は大きな円い広間になっていて、僕らはその中央から出てきたようだ。中心から見て前後左右の壁に扉がついているのが遠くに見えた。あのどれかに階段があるのだろうか。


 おや? 探知を広げると後ろの扉の向こうに人の反応が!?


〈ルナ、後ろの扉の向こうにかなりの人数の人がいるようだ〉


「ほんとですか!? すぐに助けに行かにゃいと!」


「ルナ、待つんだわん! 他の扉から侵略者アグレサーが出てきたわん!」


 すぐに飛び出そうとしたルナをまるが止める。そのまるが言うように、前、そして左右の扉からたくさんの着ぐるみがでてきた。どれもテレビで見たことあるような姿だ。


 ネズミやら犬やらアヒルやらの着ぐるみがものすごい勢いでこちらへと迫ってくる。この感じだと人間がいるであろう部屋につくと同時に襲われそうだ。それだけ、この着ぐるみ達のレベルが高いとも言える。


〈ルナ、まる、残念だけど追いつかれそうだ。背後から襲われても面白くないから、南の部屋の前で返り討ちにしよう〉


〈わかりましたにゃん〉

〈オイラが全部倒してやるわん!〉


 僕が空を飛んでいるから、念話で返事が返ってきた。二人とも扉の前でくるっと振り返り、迫り来る着ぐるみ達を迎え撃つ。


 休憩は十分とったから、二人とも魔力は十分。ただ、この階のレイス達は下の階にいた個体より上位種族のようだ。種族もブラッドレイスとなっている。魔力が十分でも、この数の上位個体は倒しきれないだろう。


 よし、最初に追いついてきた着ぐるみ達は任せるとして、まだ遠くにいる着ぐるみは僕が倒しておこう。


 僕は二人の動向を気にかけつつ、天井付近まで飛び上がってファイアーボールの爆撃を開始した。


(むむむ、こいつら思ったよりも強いかも?)


 今まで大体、ファイアーボールの一撃で倒せていたのがそうはいかなくなってきた。やはり、上位種族は手強い。これはルナとまるの方は危ないかもしれない。なにせ、まるの属性は土、ルナの属性は闇。どちらもレイス系相手には相性がよくない。早く片付けてサポートに行かないと。


 夢の国の着ぐるみ達がぎこちない動きで走り回っている。さらには闇魔法まで使ってくるヤツまでいる。今は僕の素早さが勝っているから、飛び回っていれば当たらないけど、長引けばやばいかもしれない。


 よし、ここは一気に決めてやる!


(ファイアーバレット連射!)


 今度は戦闘機から撃ち出されるマシンガンのように、炎の弾丸をお見舞いしてやった。


 ドドドドドド!


 一撃で倒せなければ何発も当ててやればいい。着ぐるみ達の腕がもげ、顔が削れ、足が千切れ飛ぶ。うん、ごめんなさい。着ぐるみは悪くないのにね。


 心の中で着ぐるみに謝りつつも、手を抜くことはしない。数十体いた着ぐるみをバラバラにし、全て燃やし尽くす。


(こっちはおしまい! まるとルナは?)


 未だ燃えさかる着ぐるみ達を放置して、すぐにまるとルナの元へと向かう。


「ぎゃぁぁぁぁ、こっちに来るなだわん。ストーンニードルだわん」


「まる! 私の闇魔法はこいつらには効かないから、あんただけが頼りなのよ! わたしが囮になるから、無駄撃ちするの止めなさい!」


 最初は勢いよく飛び出して行ったまるだったが、相手が強いとわかると途端にパニックになって魔法を連打している。これじゃあ、すぐに魔力が尽きてしまうだろう。


 せっかくルナが堅実な作戦を提案しているのに、逃げるのに必死で聞こえていないようだ。レベルは結構上がってきたけど、まだまだ覚えることは多そうだ。


〈ルナの作戦通りでいこう。僕がトドメを刺すから、ルナが囮になって〉


〈ミストさん!? 助かりますにゃ!〉


「ダークウォール!」


 僕がサポートに来たのに気がついたルナは、辺り一帯に闇の壁を作り出し視界を遮る。


「猫パンチだにゃん!」


 その暗闇を利用し、着ぐるみ達に次々と猫パンチをお見舞いする。まったくダメージは入っていないが、叩かれたことによりヘイトがルナへと移っていく。


 総合的なステータスはレイスの方が上だが、敏捷だけ見ればルナの方が高い。着ぐるみ達と適度な距離を保ちつつ、時折飛んでくる魔法も余裕を持って避けていく。


〈ファイアーウォール!〉


 着ぐるみ達がある程度固まったところで、その四方を囲うようにファイアーウォールを展開した。逃げ場がなくなったレイス達は、金切り声を上げながら憑依した着ぐるみごと燃えていく。


「こら! まる! 次からはすぐに飛び出さないで、ちゃんと作戦を聞いてから行動するのにゃ!」


「ごめんなさいだわん……。オイラ強くなったから一人でいけると思ったんだわん」


 今回も、僕が釘を刺す前にルナからの指導が入っているようだ。文句を言いつつも、ルナは面倒見がいいんだな。まるも素直に聞いているし、このままいけばいいコンビになりそうだ。


 さて、三つの扉から出てきたブラッドレイス達は全て倒した。残るは人の気配を感じた扉だけだ。ルナとまるも緊張した面持ちで扉の前へと移動する。もし、本当に逃げ延びた人達がいるのなら、僕の姿だと警戒されるだろうから天井に張り付いて様子を見ることにした。


「それじゃあ、あけるわん」


 僕たちの中では一番体格がいいまるが、身体を使って扉を押し開ける。


「ひっ!? く、来るな!?」

「いやぁぁぁぁ、たすけてぇぇぇ」

「お願いだ……孫を連れて行かないでくれ……」


 まるが扉を開けた途端、中から人々の悲鳴が聞こえてきた。探知した通り、人間が何人かいるみたいだけど、なぜかみんな恐怖でパニックになっている。扉を開けただけなのに。それに、『孫を連れて行かないでくれ』とはどういうことだ?


「あっ! わんしゃんだ!」


 ドアの隙間から中を覗くと、中には数十人の人達がいて奥の壁のところに集まっていた。その中から、小さな女の子がまるを見て駆け寄ってきた。


「こら! 近づくんじゃない! その犬もあいつらが乗り移ってるに違いない」


 先ほど『孫を連れて行かないでくれ』と叫んでいたおじいさんが、女の子を追いかけようとするが、年のせいかはたまた衰弱しているせいか足がもつれて転んでしまった。他の人達は気の毒そうな顔はしているが、助けに行こうという人はいないようだ。


 わんわん!


 そんな状況には全く気づかず、女の子の元へと駆け寄るまる。その後ろでは、ルナが大人達を見つめている。ああ、一つため息をついたところを見ると、ルナの家族はこの中にいなかったようだ。


 そんなルナの様子にはまるで気がつかず、まるが女の子の元にたどり着いた。女の子は嬉しそうにまるをなで始める。おいおい、まるよ。いきなり寝転がってお腹を見せるとは何事だ。いくら小さな女の子の前だからって、気を許しすぎだろう! 柴犬は飼い主に忠誠を誓うんじゃなかったのか?


 ほら、ルナがゴキブリを見るような目でみてるぞ。あっ、いや、これからゴキブリに進化する可能性もあるから、あんまり酷いことは言えないけど。


「おい、あれ、本物の犬なんじゃ?」

「まさかこんなところに、犬? それに猫?」

「外は、外はどうなってるんだ?」


 まると女の子が触れあう様子を見た大人達の雰囲気が変わった。もしかして、この人達、レイス達によって閉じ込められてたのか? よく見たら、三ヶ月も経ってる割に部屋も綺麗だし、痩せてはいるけどみんな動けている。


 まるとルナが侵略者アグレサーではないと気がついた大人達は、そろりそろりと僕がのぞき見ている扉へと近づいてきた。

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