第16話 夢の国の廃墟⑤

「ねぇ、どうなってるの? あいつはいないの?」


 僕が天井から扉の隙間をのぞいていると、薄汚れた服を着た女性が前を行く男性に声をかけているのが見えた。


「ちょっと待ってくれ。今、見てみる」


 こちらも薄汚れた服を着た男性が、かなり慎重に扉の外へと顔を出す。


「あいつはいないようだ。それに、アレは何だ? 何かが燃えてて……!? 着ぐるみ達だ! 俺達をここに連れてきた着ぐるみ達が燃えてるぞ!」


 ほほう。今の会話から察するに、この人達はここに逃げてきたというより、レイス達に連れてこられたみたいだ。


「出られるの!? ここから出られるの!?」


 後ろにいた女性が前にいた男性を突き飛ばし、興奮気味に扉の外へと躍り出る。


 その大きな声に釣られて、後ろからついてきていた大人達も扉の外へと出てきた。まると女の子も慌ててそれについていく。


「着ぐるみ達が出てこないぞ! やっとここから出られるぞ!」


 別の男性の歓喜の声に周りにいた人達も同調し、みんなで階段に向かって歩き出そうとしたその時、一人のおじさんがそれを制した。


「待て! ボスはどうなった? 本当にあいつもいないのか?」


 そのおじさんの声に一同動きが固まる。


(ボス? さっき倒した中にはそれっぽいのはいなかったな)


 顔だけを動かして、キョロキョロ辺りを確認する生存者達。しかし、僕の探知には侵略者アグレサーはかかっていないけど……ん? 何だあれ?


 僕の複眼が、階段の上に黒いモヤモヤが現れているのに気がついた。そのモヤモヤは段々と濃くなっていき……


「ギョェェェェェェ!」


 一カ所に集約したかと思うと、中から右手に杖を持ち、ローブを羽織っている干からびたミイラのような侵略者アグレサーが現れた。


「出たぁぁ!? ボスだ! 逃げろぉぉぉぉ!」


 ボスをいの一番に見つけたおじさんが、全速力で元いた部屋へと戻っていく。周りにいた大人達も、我先へと扉へ殺到し、中には転んでケガをしてしまった人もいそうだ。


 そんな中、まると一緒にいた女の子は恐怖で身体がすくんでしまったのか、逃げ遅れてしまったようだ。小刻みに身体を震わせ、まるをぎゅっと抱きしめている。


〈まる、ルナ、その女の子を守ってあげて〉


 あのボスはまるとルナじゃ相手にならないほど強いみたいだ。僕は女の子を二人に任せて、急いで天井から飛び立った。


種族 エルダーレイス

名前 なし

ランク C

レベル 30

体力 94/94

魔力 149/149

攻撃力   49

防御力   49

魔法攻撃力 94

魔法防御力 94

敏捷    66


スキル

憑依

闇魔法

闇耐性

物理攻撃無効


称号

古の種族


 むむむ、どうやら物理ステータスは僕の方が高いけど、物理攻撃無効だから意味がない。魔法関係のステータスはほぼ互角。いや、魔法防御力は僕の方が大きく劣っているな。


 僕は素早く頭の中で作戦を組み立ててから、エルダーレイスに挨拶代わりの魔法を放った。


(ファイアーアロー!)


 火魔法の中でも、貫通力と速度に定評があるファイアーアローを選択した。ただでさえ、猛スピードで移動する僕から放たれたのだ、エルダーレイスが避けきれるはずもなく、その黒いもやのような身体を貫通した。


 グギギギギィィィ


 不快な音を発して身をよじるエルダーレイス。魔法防御力が高いので、それほどダメージを与えたようには思えなかったが、案外効いたのかもしれない。


 僕には魔力回復スキルがあるから、魔法の撃ち合いになれば僕の方に分があるはず。このまま動き回ってあいつの魔法を避けつつ、こっちの魔法は確実に当てていこう。


 エルダーレイスは闇魔法を駆使して僕を捉えようとしてくるが、敏捷で勝る僕は高速で飛び回り的を絞らせない。逆に僕のファイアーアローやファイアーボールは確実に体力を削っていく。あいつがまだ何にも憑依していない状態だったのもこちらに都合がよかった。おかげで直接ダメージを与えられるからね。


 僕が魔法を放つ度に黒い影の部分が少しずつ消えていき、いよいよ赤く光るコアがむき出しの状態になった。


(これで終わり!)


 そのコアに最後のファイアーアローを撃ち込んでエルダーレイスは消滅した。


〈お疲れ様です、ミストさん。さすがの強さですにゃ〉

〈やっぱりミストは強いわん! 一生ついてくわん!〉


「とんぼさんすごーい!」


 ルナとまるもしっかり女の子を守ってくれたようだ。その女の子も僕の戦いぶりを褒めてくれている。しかし、大人達が部屋に戻ってくれていてよかった。僕は見た目が侵略者アグレサーだからね。こんな姿を目撃されたら、今度は僕が討伐対象になりかねない。


 もう辺りに侵略者アグレサーの気配はなくなったので、僕は一足先にここを出ることにした。




~side 閉じ込められていた人々~


「ねぇ、すごい音がしてるけどどうなってるの?」


「ちょっと待て。今、出たら危ないだろ!」


 ボスの登場に慌てて戻った部屋の中で、若い女と若い男が言い争いをしている。


「孫は、わしの孫はどこじゃ?」


 唯一、広間に取り残された女の子の祖父がその女の子を探している。だが、この場にいないことで外に取り残されたことに気がつく。


「おい! じいさん! 扉を開けるな! 危ないだろ!」


 扉に向かってふらふら歩み寄るおじいさんに気がついたおじさんが、おじいさんを突き飛ばした。


「ちょっと、やめなさいよ!」


 別の女性がそんなおじさんの行動を注意する。どうやら、今まで諦めかけていたところに急な変化が訪れたため、みんな希望と絶望の間で感情が揺れ動き感情が不安定になっているようだ。


「あの犬と猫も見当たらない。ひょっとしたらあんたのお孫さんを守ってくれてるかもな。どちらにせよ、あのボスがいる限りはここからは出られん。あの犬と猫が味方で、ボスを倒してくれるのを願うしかない」


 この集団の中でも発言力がありそうな男性の一言に、みなが頷き身を寄せ合って耳を澄ます。


「静かになったな……」


 しばらくして、部屋の外が静かになってからゆっくり十を数えた後、リーダー格の男性が扉へと向かう。


 男性がそっと扉を開け、顔を出す様子を固唾を飲んで見守る人々。


「ボスが……いない。犬と猫が生き残ってるぞ!?」


 男性が勢いよく扉を開け、広間へと入っていく。他の面々もそれに興奮した様子で続く。そして、彼らが目にしたのは、地面に残された魔石とその真ん中で佇む犬と猫と女の子だった。


「くろいもやもやをとんぼさんがやっつけてくれたの!」


 生き残った女の子がおじいさんに身振り手振りで説明しているが、その様子を見ているものはいなかった。みんな落ちている魔石を拾うのに必死だったから。


 全ての魔石を拾い終えたところで、建物が不気味な音を出して振動する。


「なに? 何が起こってるの!?」

「うわぁぁぁ、城が、城が崩れるぞ!?」

「南無阿弥陀仏、並阿弥陀仏」


 ボスが倒されたことでダンジョンの崩壊が始まった。事情を知らない人々はパニックに陥るが、大きな揺れの中動けるはずもなくその場にうずくまって目を閉じた。



「えっ、あれ? 外だ! 外に出られたぞ! うぉぉぉぉぉぉ!」

「ああ、もうだめかと思ったわ! まさか生きて出られるなんて!」


「しかし、予想はしていたがこの惨状は……」

「あれから一体どれほどの時間が経っているんだ?」


 ダンジョンが消滅し、地上へと転移した人々は最初は無事に外に出られたことを喜んだが、辺りの惨状に気がつき不安そうな声を上げる。


「わん!」


 そんな人々の不安をよそに、まるが元気よく鳴き声を上げた。三人で相談して、この人達を街まで送り届けることにしたのだ。残念ながらルナの家族はいなかったけど、この人達をこのまま放っておくわけにはいかないからね。


 道中、何度か侵略者アグレサーの襲撃を受けたが全てまるとルナで対処することができた。おかげで、二人はこの人達から神様のように崇められ、ルナはともかくまるはとっても嬉しそうだった。


 僕はみんなの前には姿を現さないように、一定の距離を保ちながら遠くの侵略者アグレサーを狩りながらついて行った。


 お年寄りや子どもがいたのでゆっくりとしたペースではあったが、途中休憩を挟みつつ、丸三日かけて六十キロの道のりを歩き通し成田空港避難所セーフティーへとたどり着いたのだった。

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