起きたら朝だと思うじゃん

白川津 中々

◾️

明日は休みだし朝早く起きていっぱい遊ぶぞとウルトラバカ酒飲みして就寝したら外が暗く途中覚醒かなーなんて思って時計を見ると翌日の二十時で絶望が俺を刺しにきた。


「嘘やん」


間抜けな声がこだまする。当然返事はない。毎日残業と休出を続けてようやく入った一日休みが水泡に消えた。この悲しみの深さがいかほどか、サラリーマンなら、理解できるだろう。


「うっわ、布団濡れてる……」


一日以上寝ていたのだ。失禁もする。成人しての夜尿はなにか人間的な尊厳が著しく損なわれたようで、いいようのない喪失感に包まれた。そのうえ布団の処理と新たな寝床の確保をしなくてはいけないわけだが、もう月が出ているような時間である。今からおかたづけなんてできるわきゃない。悲しみ。


「……」


言葉を吐く気力もなくひとまずシャワーを浴び、二、三日分の着替えを鞄に詰め込んで部屋を出た。会社になら寝袋がある。尿で汚れた布団で寝るよりいくらかましだ。歩いて数十分で到着する事務所に光はない。嫌でも一日八時間拘束される日帰りの檻に自分からわざわざやってくるなど狂気の沙汰。俺以外にいるわけがない。


「一旦仕事しよう」


席につき、呟く。

過剰睡眠によりクリアとなった脳では眠れない。労働で意識を澱ませ、苦しまなければ意識は途切れないのだ。仕事なんざしたくないのに仕事せざるを得ない。苦しみの連鎖。人はパンのみに生きるにあらず。されどパンがなければ死ぬ。パンのために人は生きねばならないし、パンのために痛飲し小便に塗れなければならない。主よ。もし憐れみをいただけるのであれば、これから書くコードが正しく動くようにしてください。


PC起動。時間は二十二時に差し掛かろうとしている。「夜にすまんな」と声をかけると、ファンの音が「いいってことよ」と言っているように聞こえた。孤独な闇の中で力が溢れる。ありがたい。


とりあえず、通販で布団を買ってから始めよう……

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