13 男の話

「奪ってほしいと言ってくれ」


 言ってくれたらその通りにするつもりだった。

 俺に願いを叶えさせてほしかった。


 俺の言葉に笑ってくれると思ったのに、彼女は傷ついた顔をした。

「言えないわ」

 その言葉に耳を疑った。

「行けないわ、私……」

「イース」

「あなたとは、行けない」

「イース……!」

 断られてしまえば、名前を呼ぶしかできなかった。


 俺が呼ぶたびに、泣きそうな顔をするのに──どうして。どうしてお前は。


「私はあなたの傍にいる資格がないわ」

「そんなの」


 そんなの俺が悩まなかったと思うのか。

 どんな思いでここに来たと思ってる。

 どうしてお前がそんなことを言うんだ。


 彼女の金髪は蝋燭の弱い明かりでも光って見えた。


「……あなたと彼が違うことを、私はよく分かったの」


「…………それは」

 それはどういうことだと、聞こうとして飲み込んだ。


 拒絶の後では、もう聞きたくはなかった。


 拳を握りしめた俺に、彼女はゆっくりと言った。

「けれど、願いを叶えてくれるなら、一つだけ」

 お願いさせてと俺に言った。


 いくらだって叶えるのに。

「あ?」

 言われれば何個だって、叶えてやるのに。


「ふふ……ねえ、やっぱり私、寂しいの」

 なら俺に、出会ったときと同じことを言えばいいのに。


 彼女は俺の目を見ずにこう言った。

「だから、今更だけどグリンを引き取ってもいい?」

「勝手だな」

「そうね」

 俺の嫌味などまったく刺さっていなさそうだった。彼女に撫でられて、グリンが喉を鳴らしている。


「けどいつも、付き合ってくれたわね」

「言われたからな。言ったのはお前だろ」


 傍にいてと。俺に望んだのはお前だろ。


 俺の言葉に、悲しい顔で笑った。

「ごめんなさい」

 悲しいなら泣いてくれたらいいのに、涙の一滴も流しやしなかった。

「謝られたら、俺が許さないわけがないだろ」


 彼女は、許しも、俺のことも求めなかった。


「どうか私みたいな女は忘れて、自由に生きて。縛り付けて、ごめんなさい」

 俺を見上げて彼女が言った。


「エル。あなたは私の光よ」


 眩しさで目をくらませて、そのまま奪って窓の外に飛び出してしまいたかった。


「あなたが作ってくれた影の中で、私は生きていくわ」


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