第17話
ガソスタで給油後、法定速度を守りながら昨日の通りに道を進み特に記載しなければならないようなことも無いままに現場に辿り着いた。今現在ルシファーが封印された門に取り付き解除の工程を進めている。分かってはいたがかなり暇だ、だらだらくっちゃべる事しか出来ない。普通何か起こるもんだと思って覚悟してきたが全然そんな事無かった。焦らせやがって。
「君は来て欲しかったのか来て欲しくなかったのかどっちなんだい?」
「普通大事な儀式やってて自分が動けない状況になったら普通中ボスみたいなの配置するだろ。ゲームなら当たり前だよなぁ?」
「お兄ちゃん今これ現実だよ。それにそんなの出てきたら普通に間に合わなくなるから終わっちゃうよ…。」
「現実がゲーム側に寄ってんだから俺悪くねえよなぁ…。どう考えても間違ってるのはこの世界だって。そしてこんなクソみたいな芸当を押し付けてきた神様がいるとしたらそいつはトンでもねえドぐされサディストだからみんなの力でボコした方が良いって。」
「やめておけ、少なくともこの世界の神に責任の所在は無いんだ。悪いのは奴ら侵略してきた側なんだから。」
「ていうか今更なんだけど全知全能ならそもそも人間に原罪なんて背負わせないって(笑)もし本当に主が全知全能であられるなら世界を幸せにする事なんて簡単ってそれ一番言われてるから。」
「汝、主を試すことなかれ。(ブチギレ)」
アヤが珍しくブチ切れている。そういえば精華院キリスト教系の学校だったな…なんかごめんな。でもこれに関しては何もしてくれずに人間任せにしてる神様が悪いから…。天国って名乗ってるんだから実質コレ神様の管轄じゃんね。
「やっぱりもうちょいこういう人間だったらどうしようもない案件には神様かそういう専門的な所に出張ってほしいよなぁ…。一般人の出る幕じゃないって本当に。」
「朝あれだけかっこつけて出てきたのに最後の最後でこんなにグチグチ言うのかね。もうちょっと潔くやってやるぜ!と男気に満ちた事は言えないのか?」
「昨今は男女平等なんだ。何ならゲームでは女の子の方が圧倒的に強いし男なんて添え物に成り果ててるものが多いから平等に男女で傷付こうぜ。みんなで苦痛に喘いでいこうや。」
「そういうの良くないと思うよお兄ちゃん。そうやってみんなが苦しくなれば平等なんだっていう考え方は誰も幸せになれないんだよ。」
「俺だけ不幸になってるのって納得がいかないよね。」
「人間性がカス過ぎて嫌いになっちゃいそうだよお兄ちゃん。」
お、こいつはやばいな。ならかっこいいお兄ちゃんに成れるようにそろそろ腹括るか…。かっこいいお兄ちゃんってなんだよ…。
「さぁやるだけやっていこう。無理なら無理で出来る所までは頑張ろうか。」
「もうちょいポジティブに物事を解釈していこう?ガっとミカエル…あれミカエル様と同一にみると普通に嫌だな…。なんて呼ぼうかな…。」
「そりゃもうゴミで良いんじゃないの?たまたま同じ名前をしてるだけだから。」
「じゃあゴミで!あのゴミどついてメグミちゃんを取り返して皆で笑顔で帰ろう!」
「ストレス溜まっているのか知らないけど結構バイオレンス極まってるよね。もうちょい落ち着いていこう?」
「ご歓談の所申し訳ないがもう少しで解除完了だ。あの下らない作戦をするなら準備したまえ。」
どうやらグダグダしている時間は終わりらしい。というわけで車の中に戻って着替える事にする。ぺらっぺらなコスプレ衣装だがそれなりに特徴を捉えようとしている企業努力が伺える逸品である。だがやはり成人男性が着る事をギリ想定されていないからか肩回りの装飾による動かしにくさや今までに経験したことが無い股間周りの風通しのよさが羞恥心を煽る、気分としては最悪だ。だが、これこそが俺の頭で思いつく彼女の意志をに強く働きかける策なのだ。俺の羞恥心なぞ犬に食わせろ、目的の為に走り抜ける矢になるのだ。
いややっぱ恥ずかしいしタダの罰ゲームだろコレ。
「着替え終わったぞ~。」
「うっわまじで最悪、ほんっとに最悪、形容する言葉が見つからない位に最悪!ちょっとやめてよスカートでそんなに大股開くの!見たくないお兄ちゃんのすね毛見えちゃうじゃん!」
「君なりに必死に考えてくれたのだろうが余りにも酷い出来だぞ。もう少し努力出来なかったのかね。」
「非難轟々過ぎて逆に面白くなってきたな…、これを拗らせてしまうと露出狂にレベルアップするのかね。」
「は!?ダメだからね!絶対ダメだからね!?冗談抜きで学校行けなくなっちゃうから!」
やりかねないと思われていなければ絶対に出てこない反応に少ししょんぼりしながらも心に喝を入れ錠が解かれた門の前に立つ。
俺を先頭にルシファーが俺の肩に乗り、アヤが俺から8歩ほど離れた所で立っている。恐らくは開いてしまった心の距離だろうさすがに心に来る。流石に遠くなっているのは指摘せざるを得ないため言及してみる。
「ねえ、なんか遠くない?」
「いや、やっぱり「いざ、決戦だ!」みたいな雰囲気で並び立ってみる感じになるとどうしても拒否感が先に来るというか…、正直こんな人が私の血縁上の兄なんだ…って思うとどうしてもこれ以上近づけなくなっちゃって…。あの、ごめんなさい…。これ以上近づかないでいただいても良いですか?」
「ガチ拒否はあまりにも辛くなっちゃうんだってお兄ちゃん。ねえ、やめよう?」
「いや、これは仕方がないよ。私もどうしてこんなのを契約者にしてしまったんだと自問自答が止まらないんだ。」
「やめろよ。お前だけは味方であれよ。」
余りの孤立無援具合に急に全ての事がどうでも良くなってしまったような錯覚が起こる。なーんかやる気が無くなっちゃって来ちゃったな…。
「やる気なくなってきちゃったけどまぁ、適当にやっていくか…。」
「激萎えじゃないかね。もうちょいやる気を出したまえよ。もともとは君自身の身から出た錆だよ。」
「それはそうなんだけどもっと言い方ってもんがあるだろうが。」
そして、とうとう門が開く。
それじゃあ、行ってきますか。
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