第16話
翌日になり朝日が昇る。ルシファーと出会ってからわずか一週間で全てが変わってしまった事を思い出しながらベッドから出る。突然変わってしまった日常にどこか取り残されてしまった様に感じながら寝ぼけ眼をこすっていまだに眠そうな相棒に問いかける。
「どうだルシファー。調子は?」
「無論万事順調。委細承知という感じだ。」
「嘘つけめちゃめちゃ眠そうじゃん、それに四文字熟語使い方あってるのか分かんねえし。急にIQ上げようとしてるのかも知れないけど最初の方のぶりっ子とか思いだしたら今更お前の事頭良い系の奴として見れないよ。」
「最初の方は思い出さなくても良くないかね?それに無駄に罵倒してくるし…いや、武者震いというやつかね?その恐れは仕方ないものだ、なにせ普通に生きていれば君は命の取り合いなどせずに生きていけたはずなのだから。」
「今更文句言ったって仕方ねえだろ、やれるだけの事をやる。それが一番だ。」
普段であれば何の変哲もなかっただろう土曜日の朝。普段であれば昼頃までしっかり二度寝するか酒でも飲んで昼過ぎまで寝ていただろうか。寝てばっかじゃねえか俺。
だが今日はそうではない、そうではないのだ。一人の女の子の命を救うため、そのついでに世界も救うため俺は戦いに行かなければならないのだ。…俺コレだいぶ痛い奴じゃないか?全部本当の事とは言えあまりにもシチュエーションが最終決戦前の主人公なんだけど。
「事実、今君はまさしく最終決戦前の主人公だよ。巻き込まれて悲惨な目に遭っている純然たる被害者だ。」
「巻き込んだ側が言うと説得力違うなぁ、もうちょい申し訳なさげにして?」
「ハチャメチャに申し訳ないとも。だからこそ君を全力で支えるのさ。」
「おにいちゃーん、準備出来てるー?」
そういいながらアヤが部屋に入ってくる。すでに着替えは終わっていていかにも準備万端といった様子だ。とはいえさすがに早すぎないか?まだ朝の8時だぞ。
「色々準備とかあるんでしょ?もしかしたらもっとメグミちゃんに刺さるものがあるかもしれないし…まさか昨日買ったアレが本当に対抗手段になると思ってるの?おふざけ極まりないんですけど?」
「お前こっちはメグミちゃんの趣味趣向を限られた時間でリサーチした結果がアレだったんだよ。じゃあなんだ?お前が着るか?」
「ふざけた事言わないで!いくら戦う場所が場所だからってアレ着るなんて絶対いや!それにメグミちゃんの趣味が趣味だからってお兄ちゃんが着る意味が分かんない!それにこういうのってあんまり分かってない人が猿真似なんかしたら余計怒るんじゃないの!?」
「怒るかもしれないが最近はそういうのもネタとして受け入れられ始めているんだ。だからやってみるだけの価値はある。」
「…まぁ、どんな理由であれメグミ殿が立ち上がるきっかけになりさえすれば可能性は見えてくる。今は彼女の死にたい程の絶望を引き剝がすナニかが必要なんだ。そういう面では…その…ショック療法という観点では…良い…良い?のかなぁ…。」
この気高きルシファーの契約者があんな格好をするのか…?とかなんとか言っているがそんなのこっちだってできればやりたくないのだ。むしろやりたがるのは本当に好きな人だと思いたいそれか他の誰かを笑顔にしたい人。
「にしてもお兄ちゃん本気でやるの?その…魔法少女のコスプレ。むしろサイズがあったことに驚きなんだけど。」
「やるに決まってんだろ。あの子が強い、負けないと思うものがあの場では最強になるんだから。誰しも好きなものが負ける所とか想像できないだろ。」
「理屈はある程度筋が通っている気もしなくはないのだがねぇ…。やはり君が着るというのが最大の障害な気がしてならないよ私は。なんなら君が言っていたが妹殿が着たほうが圧倒的にいいのではないか?」
「私はパス!嫌だからね!」
「魔法少女キラメキ☆ソウマちゃんだぞ。今はまだ知名度こそないが一瞬でスターダムを駆け上がれる逸材だぞ。写真撮らなくていいのかよ。」
「普通に見苦しいからやめた方が良いと思う…。というかキラメキ☆ソウマって何?」
「人間を家畜としか見ない悪の天使と戦うために人間の世界に降り立った正義の悪魔の力を借りて戦う魔法少女だ。このステッキは税込み340円のルシファー棒だ。相棒で守護悪魔のルーちゃんが変身した姿だぞ。」
「無駄に設定考えるのに本気出さないでよ、やる気があるのか無いのかどっちかにしてよお兄ちゃん。」
「340円を私が変身した姿と言い張ったなこいつ、妹殿後で協力してくれ。勝利の暁にはシバかせて頂きたい。」
結構真面目に考えたんだがなぁ…どうにもウケは悪いらしい。とはいえ魔法少女役は大事な気がするのだ、何しろこれはメグミちゃんを審判に置いたどちらの方が強そうに見えるかという試合なのだ。だったら割とお手軽目に強そうと思っている者になれるこれは結構いいアイデアだと思ったんだがなぁ…。
そうはいうもののといった風情だなこれは…流石に身内からの評判が最悪だ。これでは俺のメンタルに重篤なダメージが残ってしまう。この設定も昨日寝る前に5分で考えたんだぞ、努力は認めてくれてもいいじゃないか。
「なんだいなんだい、好き放題言いやがって。こっちもある程度は真面目に考えてるんだよ!それをよってたかって…!」
「これは寄ってたかって文句も言うだろう、少しは周りからの見え方も工夫してはどうかね。」
「絶対にバレないでね!魔法少女のコスプレしてる兄が学校の用務員として働いてるとかマイナスも良い所なんだから!」
「勝たねえとその評価する周りが洗脳されて終わるんだよなぁ…。」
「一応君達これから戦いに行くんだよね?なんでこんな締まらない会話をしているんだい?」
「そりゃもう、俺達が俺達だからだよ。変に気負ってがちがちになったら勝てるものも勝てなくなるだからこれでいいんだ。…良いんだよな?」
「そうは言うけどもうちょっと真面目な方が良いんじゃないの?どう考えてももうちょいなんかあるって。」
「お黙り!」
そうグダグダと言いながら着替えようとパジャマに手をかけるがアヤが出ていかない。流石に出て行けよ、こんなんでも異性だぞ。
「出て行って下さいまし?ワタクシ今からお着換えの時間なんですけど。」
「下に着こんでマジックとかでよくある早着替えみたいな真似しないか監視がいると思うんだけど。」
「スカートズボンの中に着込んだらトランプのジョーカーの服みたいになるわ。そんな事しませーん。車の中で着替えまーす。」
「こっちが間違ってるみたいに言うじゃん。明らかに間違ってるのそっちだからね。」
そういいながら部屋を出ていく。ルシファーは頭に引っ付き魔法行使の紫の光を出しながら喋りかけてくる。取り切れていなかった眠気やだるさが瞬く間に消えていく、便利だなお前。
「…いつ話すんだい?血がつながってない事。」
「あいつが18になったら。どこからバレた?」
「君がご両親を口に出すとき以外は母親、父親と呼ぶところから。そこから記憶を探ればそんなに掛かるものでもない。それにそんな隠し続ける事でもないじゃないか。人間正直に生きたほうが楽だぞ?悪魔がこんなこと言うのもなんだが。」
「確かにあいつは自慢の妹でアヤにはアヤの人生が有るんだろうし、求める幸せもあるんだろうがそういうの受け止めるのはまだ時間と経験が足りねえよ、何よりお兄ちゃんはそんな義妹ものの本みたいなことは許しません事よ。」
…一体どこからどこまでその記憶を暴いたのかはマジで分からないがそういうの本当にやめて欲しい。もし聞いてたらどうすんの。
「…すまないデリカシーが無かった。死ぬかもしれないから心残りは全部解消させてあげようという私なりの気遣いだったのだが…。」
「墓までもっていかなきゃいけないタイプの心残りだってあるんだよ。隠し事できない、なんでも相手の事を理解しようと思えば出来るお前らにとっては不思議だろうが。」
そういいながら着替え終わった。Tシャツにジャケット黒のチノパンを合わせてただの大学生風コーデだ。何の特徴も無い。鎖骨の付近に若干の火傷後がのぞくのがマイナスポイントだろうか。
「ルシファー、終わったらこれ治してくれよ?」
「生きていればな。」
そういいながら、部屋に戻っていたアヤを呼び靴を履き替え玄関を出る。靴をつっかけにしてドアを潜り抜け逃げるように言ってしまった「行ってきます。」の言葉は両親に届いただろうかという思いに後ろ髪を引かれる。思い起こされる「逃げてもいい」の言葉と最後になるかもという余計な感傷を靴を鳴らしてどこかに飛ばす。
車に乗り込みエンジンをかける。かすかな振動が心地よく感じる。助手席に座ったアヤもこちらを見て頷く。
「じゃあ、行くか。…あ、ガソリン無いじゃん。ちょっとガソスタ寄ってから行くわ。」
「お兄ちゃん本当に締まらないね…。」
決戦への旅路はそんな感じで始まった。
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