第13話
「あれ、私なにしてたんだっけ…。そうだ、お兄ちゃん!メグミちゃんは!?」
アヤが目を覚ました。
門を出てから時間にしてわずか10分、されど人生の中で一番長いと思えた10分だった。もし目を覚まさなかったら、その思考が頭の中で渦を巻きルシファーから容体が安定したと言われてもこの目で目を覚ますところを見るまでは信じられないほどには追い詰められていた。
アヤの撃ち抜かれたお腹に熱線で穴が開いたことを知らしめる要素は当たったところの布が完全に消失している制服以外何もない。流れ出た血もオドを回すことにより貧血気味にはなるだろうが十分補填できているとも言われた。だが、本人に確認しなければ安心できない。
「アヤ、調子はどうだ?記憶が途切れている以外で何か体に気になるところは無いか?」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょお兄ちゃん!メグミちゃんがなんで居ないの!?もしかして向こうに残ったままなの!?なら助けに行かないと…!」
「メグミちゃんは俺たちを逃がすために自分からついていった。今俺たちが生きているのは彼女が命と引き換えに俺たちを外に送り出してくれたからだ。今は一時撤退して態勢を立て直す。」
「立て直すって…メグミを見捨てるの!?」
「そんな訳ないだろ、絶対に取り返してあいつの計画もご破算にさせる。そのためにはまずは態勢を立て直さなきゃ話にならない。ズタボロで対策も無しに向かったところで今度こそなぶり殺しにされるのが目に見えてる。だからメグミちゃんを必ず助けるためにも今は引かなきゃいけない。」
「…そうだね、ごめん。熱くなった。」
「儀式の実行の時間としては恐らく明日の正午頃だろう。天体の運行によって最適な時間はその瞬間以外にはない。そして出てきた瞬間に再封印された扉は私でも開けるのに1時間はかかる。今回の失策の原因は間違いなく私だ。まさかミカエルが直々に来ているとは夢にも思わなかった、全ては私の見通しの甘さが招いた事。本当に申し訳ない。」
そういい頭を下げるルシファー。やはり巻き込んでしまったという思いが強いらしく申し訳なさで胸が張り裂けてしまいそうらしい。
「いや、お前は十分にやったと思うよ。結構考えて動くお前がそこまで謝るってことは普通だったら考えても速攻で選択肢から外すような事なんだろ、あいつが小さくなってまでこっちに来てるってのは。」
「その通りだ。いくら私に向けての追撃であったとしても弱体化している現場を見ている以上ミカエルが一番槍を任されるとは考えていなかった。来たとしてもガブリエルが関の山と思い込んでいた。」
「そのへんの話は詳しく聞きたいんだけど家に帰りながらにしよう?今気づいたんだけどお母さんからの履歴が凄いことになってる。」
アヤにつられてスマホを開くうわ、着信18件も来てるじゃんマジでやばい奴だ。さらに時間は21時とスーパーも閉まっている、メグミちゃん救出もお使いも失敗か…。錠前で封印された門を睨みつけながら宣言する。
「待ってろミカエル、絶対ぶっ殺してやるから。」
そういいながら車に戻り実家に戻る。やるせなさが自身を襲う、もっと上手く出来たのでは無いだろうかと思考が巡る。熱線一発でダウンするとは情けない。
「あれはもう仕方がなかった。例えるのなら君が知っている光の巨人の必殺技の様なものだ。依り代の変換効率をあまり舐めない方が良い、あれほどの出力を叩きつけられて今五体満足で今動けるのは君も中々に人外に片足突っ込んでいるよ。」
「簡単に人間をバケモンにしないでくれ。お前と付き合い始めて一週間たってねえんだぞこっちは。」
「普通人間はあのレベルの痛みを受けて再起出来ないはずだぞ…。」
「お兄ちゃんは大丈夫なの?胸の所火傷とかしてないの?」
「がっつり火傷してるよ、指火傷したときの120倍くらいの痛みが乳首に奔ってる。なんだったら心なしか焼き肉の時の良い匂いする。」
「焼肉も不穏なんだけどなんで乳首限定なの?」
「中心部はがっつり焼けてて感覚が今無いからだよ。」
「洒落になってないよお兄ちゃん。」
車を走らせながらルシファーが俺の胸に手を当てて回復魔法的なモノをかけてくれているらしい。徐々に痛みが引いていくが車の運転中にはやめて欲しい。さっきすれ違ったトラックのおっちゃんすごい顔してたぞ。
「治してくれようとしているのはありがたいんだが家に帰ってからにしてくれ。俺は乳首発光ドライバーとして都市伝説に成りたくねえぞ。」
「なんだね乳首発光男とは、ちょくちょく思っていたが君はちょくちょく乳首に関する事柄が増えていくね。そういう趣味でもあるのかい?」
「乳首光らせて喜ぶ趣味なんざねえよ。ポメラニアンに光る首輪つける飼い主じゃねえんだから。」
下らない会話が落ち込んだ心を多少は和らげる。そして考える余裕が出てきたのでこれからの動きを話し始める。
「それで?これからどうするよ?」
「タイムリミットは明日の正午なんでしょ?じゃあ、何か出来る事なんてほとんど無いでしょ?」
「そんなわけないだろ?もちろんプランBがあるに決まってるよな!ルシファー!」
「そんなもの無いよ。」
「嘘でもあるって言えよそこは。」
あれほど先手を取ることを第一に考えていたのだ。向こうに先手を取られてしまった時のリカバリー手段は用意できなかったのだろう。そもそも都落ち事態想定されていない事態なのか。
「こちらも出来るとはしたんだよ…シンプルな数の暴力と正攻法の戦術に、テレパシーの通信即応性は組み合わされたら数の少ない側はかなり詰みに近づくんだぞ。」
「なんというか話聞いてるだけで最悪な詰将棋食らってるみたいな感じだったのか。」
「洒落なってなかったよ、あの絶望は君にも一度味わってもらいたいね。」
それこそ洒落なってないわ馬鹿が。あんまり自分が受けた痛みを他の奴に共有したがるんじゃねえよ。そういうのが一番ダメなんだぞ。
「とはいえこっち側でマジで出来る事ないの?このままずっと明日の昼に特攻かましに行くのさすがに嫌なんだけど。」
「こちら側が打てる手は本当に無い。…もしかしたらが有るのかも知れないがそれには前提条件があるしそれはあのゴミが生来の面倒くさがりを発揮しなければ達成できない。だから正直ぶっつけ本番でアイツの弱点をボコボコにつくくらいかな。」
「弱点あるならさっさと言えばいいじゃん。なんで勿体ぶったの?」
「風呂入らない癖に妙にきれい好きだから汚せばヘイトが完全にこっちに向くよ。依り代とは比較にならない火力が全盛期の私と同等の戦闘センスから放たれるけど。」
「ただの絶対やっちゃいけない事じゃないか。もっと有益な事言えよ」
「とはいうが私と同サイズになっている奴に君は攻撃を当てられるほど先頭に習熟しているのかね?…待てよ、なんであいつは私と同サイズになっているんだ?」
なんかそもそもの話になってきたぞ。
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