第12話

「大変に焦りました、こんなに焦ったのはルシファー。貴方の刃が私に届きかけた時以来です。まさかメグミの必殺技セイント・シャイニング・メガソニック砲が防ぎ切られるとは微塵も考えておりませんでした。まさに、敵ながらあっぱれと言った所です。」


慇懃な口調で柔らかくも優美な声が聞こえる。ただし、その裏にある異質なモノに向ける冷たさは隠し切れていなかったが。あと、必殺技の名前ダサっ。


「ですがメグミの記憶を見てこの子の心の柱はご家族と和解できた今の生活。そして、そのきっかけを作ってくれたアヤさん貴方の存在が非常に大きいと、私は知っておりましたのではい、このような手段を取らせていただきました。私が手を下すことになってしまったのは残念ではございますが…まぁこれも必要経費というものでしょう。自らの手も汚さずに輝かしい未来を作れると思い込むほど私は純粋ではございませんの。」


アヤは助けられるかルシファー。

「無論だ、傷跡無く治すことを約束する、だが今は耐えろ。面倒くさがりで性格が終わっていて風呂にも碌に入らんカスだが強さだけは一級品だ。アレの一撃を貰っても大丈夫なように装甲周りを修復している。」


「ミーちゃん…!貴方、私を騙したの!?」

「騙した、騙したと来ましたか…。まぁ対等な関係であれば成立するのでしょうがあいにく私と貴方は違う生き物。そもそも精神生命体である我々とあなた方物質生命体である貴方達はなにから何まで全て違うんですもの。もし人の言葉を全ての牛が解したとて人間は牛を食べる事を辞めないでしょう?余りに大きな生物の格の差はあらゆる理不尽を押し通す論拠になる。だから私たちは貴方達をどう扱ってもいい。」

「嘘…でしょ?それってつまり私たちの事は食料としか見てないって事なの!?」


縋りつくかの様な声音で真意を問うメグミちゃんの姿は見ていられないほどに痛々しくて自身の親友を信頼しかけていた者に撃たれる絶望が彼女を徐々に覆っていく。そしてそれにとどめを刺すかのようにくるりくるりと周辺を飛び回りながら決定的な一言を告げた。


「はい♪私たちにとって貴方達人間さんはとんでもなく魅力的なエネルギー資源なんですよ~♪この成果が有れば我々の来季の続投も確実なんです♪めんどくさい利害調整も会合も人間は下等生物ですからしなくっていいですしー?なによりあなたが絶望してくれればこっちは元手無しでがっぽり儲かるんですね~♪」

「嘘…!嘘なんでしょ!嘘って言ってよ!」


おいまだかよそろそろアヤの出血がやべえのとメグミちゃんが絶望しちまう…!

「もう少しなんだ…!あと少し…!」


「…はー、めんどくさいな~人を絶望させるのって。ねえメグミ?貴方はどうしたら絶望してくれるのかしら?手っ取り早く痛めつけてみる?…でもなぁ~汚れたら嫌だしな~…。ねえメグミ貴方がされたら絶望しちゃう事、教えて?」

「やだ、やめて。お願いだから。私はどうなっても良いから他の人に酷いことしないでぇ…。」

「あらら、泣いちゃった…。あのね?泣いて欲しいわけじゃないの。私はただあなたに絶望してほしいだけ。難しい事言ってるかしら?」


そろそろ我慢の限界だ。あのゲロカスブッ飛ばして二人連れて離脱、これでどうだ。

「不安は残るが正直私も限界だ。一当てして撤退するぞ。」


足に力を籠める。胸の炎は既に義憤で燃え盛っているが時が来るまで理性で硬く蓋をする。我慢の限界を超えたせいか一周回って頭は冷えている、隙を見せた瞬間に顔面に一発入れるまずはそれだけを考える。


「そうねーじゃあ貴方が戦ってた魔物の正体とか言っちゃおうかしら♪」


くるりくるりと立つ気力もなく座り込んでしまったメグミちゃんの周りを楽しそうに回りながら最悪の事実を告げようとする。だが動けない、あいつが動きを止めてメグミちゃんから離れた時その一瞬を待つ。


「あの魔物はね、貴方と貴方の両親から抽出したいわゆる家族の絆ってやつなの。物質化にはちょ~っとてこずったけどちょうどいい遊び相手だったでしょう?貴方、なりたかったもんね?自分を颯爽といじめから助けてくれて自分の知らない事をたくさん教えてくれた御影アヤちゃんみたいに。憧れたんだもんね?だから私の手を取った、変わりたかったから。」


くるりくるりと回り続ける、絶望に突き落とそうとする円舞曲はまだ終わらない。


「でも残念、私はあなたのお願いを聞く所かその真逆。貴方がやっとつかんだ幸せを台無しにするのが目的だったの~♪あなたがちょっと思い上がってあの子みたいに、家族との関係が良くなったみたいに、変われるなんて思い上がった結果が」


長かった舞踏が終わる。この性悪イカレ天使は決定的な一言は相手の目を見て言うだろう。その瞬間を狙いすまして、その身を矢のように弾き出す前に、俺の後ろから巨大な質量が走り抜けた。


「こ、の、ざヘブァ!!」


ルシファーと同サイズの天使は自分が作りだした親子の絆にタックルされて10mほど吹き飛んだ後三度ほどバウンドし停止した。すかさずいつの間にか再生していた足で強烈なスタンプ攻撃を仕掛ける絆さんやはり親は強いのだなぁと感心していたが


「動け相馬ぁ!」


ルシファーの喝で正気に戻る。一瞬思考停止してしまったがとんでもないチャンスであることには変わりがない。メグミちゃんを回収しようとするが体に力が入っていないためお米様抱っこで抱え上げる。そしてアヤのもとに辿り着いたとき絆の獣が光に貫かれその巨躯を細切れにされた。親の像はこの像を守る様に庇いながらメグミに向けて口を開いた


『愛している』


その純真で美しい真心こそが彼女の心に深い影を落とすとも知らずに。


「まったく…、下等生物ごときが私に反抗しましたか?生意気なのも甚だしいです。ちょっと汚れちゃいましたし。」


まったく意に介していないのは問題だがそれよりももっと問題なのは絆の獣が倒されてしまったこと。そしてメグミちゃんは先ほどの込められた愛を見てしまったからか目を見開いたまま動かなくなってしまった。


「やーっと絶望してくれましたか、長いんですよ~いちいち無駄に。でもこれやるだけで絶望してくれるんだったら最初っから殺しとけば良かったなーって。」


あっけらかんと言い放つ姿には殺意さえ覚えるが今はまだその時ではないと必死に自分に言い聞かせる。守れなかった後悔が己の戦意を奮い立たせる。とにかく今は一時撤退だ、この状況では勝てるものも勝てない。


「あ、ルシファーちゃんとその契約者には今ここで死んでいただきます。なんならそこの女の子にも死んでもらおうかな?別に計画が成就すればに人の二匹や三匹誤差でしょ。」


そして肉球をこちらに向け光を収束させ始める。どうする?メグミちゃんを抱えていなくても避けられるかどうか確信が持てない。一か八かで吶喊を選ぼうとした瞬間。メグミちゃんの絶叫が響き渡った。


「もう止めてください!!私に出来る事ならどんなことでもします!殺していただいても構いません!ですからどうか!この人とアヤちゃんだけは!助けてください!」

「…あのね~死ななくって良いの。貴方には計画が終わるまで生きていて貰わないと困るんだけ」

「助けて貰えないのなら舌を噛んで自分で死にます!それが嫌ならアヤちゃんとこの人を生きてここから出してください!」

「は~…、あのねえ立場って分かる?貴方が下なの。貴方が私のお願いを聞くべきであって私がなんで貴方のお願いなんか聞かなくっちゃならないのよ。」

「私の所に来た時、貴方は「全然見つからなかったから探すの大変だったのよ?他にもいるかもしれないけれど今はまだ何処にいるのかサッパリだわ。」と言いました。ならここまで追い込んで絶望しきった私が死んでしまうのは時間の無駄なんじゃないんですか?それに言ってましたよね、いろんな都合でタイムリミットが有るって、だったら私の要求を呑んで早く終わらせた方があなたにとって都合が良いんじゃないですか?」

「…んー…まぁいっか♪それで行きましょ♪どうせ貴方さえ手に入ったらあとは儀式パパっとやって終わりだし♪ほらあなたもメグミちゃんさっさと降ろしなさい?見逃してあげるから。」


いとも容易く俺たちの助命は承認された。自身の命さえもチップにしたまだ人生がこれからと言っていい子供の命と引き換えにして。


「外出た瞬間撃たれないよなコレ。」

「撃たないわよ、これからやる事たくさんあるんだから。」


そして俺たちは生きて門を潜り抜けることが出来た。アヤもルシファーが治療を行い命に別状が無いまでに回復した。

だが、当初の目的だった音無恵の救出はかなわなかった。

苦い敗北がヘドロのようにへばりついていた。

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