第14話

「そもそもこちらの世界で我々が活動を行うには君たちと同じように物質的な肉体を持つ必要がある。そうでなければ言語ベースが同じであるだけでも1億人もいる人間の思念に希釈されて原型をとどめる事が出来なくなってしまう。だから我々はシェルター代わりに肉の体が必要なのだ」


急に真面目な話始まったな…。まぁ乳首の話どうこう言われるよりかは圧倒的にマシだからこのまま話を続けよう。


「ジュースを海にぶちまけたら一瞬で海水になるって事か。精神生命体って自称してるんだから精神的なパワーに関する事柄に関してはそっちの方が強いんじゃないの?」

「我々の力は個として比べたのであれば君たちよりも強いだろうがあまり数の強さを舐めないほうが良い、精神体剥き出しでこちらの世界に来るという事は頭がおかしくなる薬が充満している世界になんの保護装備も無しで飛び込むようなものだ。特にそういった事を大事に思っている奴らが思想や使命が歪んでいく恐れがあるものを容認は出来ないだろう。」

「じゃあ、逆説的に俺と融合しているお前やばいじゃん大丈夫なの?」

「たった一人とは言え公人深く繋がっている以上大丈夫ではない。現に向こうの私であれば絶対にしないような事を躊躇なく行えてしまっている。向こうの仲間が私を見たらあまりの衝撃にクアドラプルスピンを決めた後着地をミスってセルフジャーマンスープレックスを決める事になるだろう。」


なるほど、確かに言動が大丈夫ではない。これがこちら側に精神汚染されているという事か。そう考えるとだいぶ相手側のミカエルも言動もおかしかったぞ?あいつあんなにぶりっ子みたいな感じなのか?


「あれはもともとのあいつの性質とメグミ殿の趣味が悪魔合体した結果だろう。我々の性質は君たち人間よりも影響されやすいといった所がある。だから…その、なんというのか…。」


余り掘り下げるとメグミちゃんが大やけどしそうだから一旦止めとくかって事ね。理解理解。


「メグミちゃんの趣味?メグミちゃん魔法少女モノとか大好きだよ。というかアニメ全般が結構好きな感じだね。」

「おい、ストップだアヤ、勝手に友達が兄に勝手にオタクカミングアウトしたとか友情に亀裂が入っても仕方ないんだぞ。」

「なんで?私も一緒に秋映画見に行ったよ?応援上映の方。」

「気合入ってんなぁ…。え?一緒に見に行ったの?」

「メグミちゃんに「お金なら出すから!お願い!後生だから!」って言われて見に行ったよー。ちっちゃい時ぶりだったから今の奴あんまり内容分かんなかったけど女の子達たち可愛かった。メグミちゃんは「良かった…!」って言いながら泣いてたけど。」

「熱量の差えっぐ。」


なかなかに度胸あるタイプのニチアサオタクなんだなメグミちゃん…。幼女先輩に囲まれながら声張って応援してたんだろうか…。これメグミちゃんが勝手に火傷させられただけじゃね?


「なんか勝てそうになる弱点増えたりしねえのかよ。好きなものに対して攻撃出来ないようになるとかさぁ。」

「好きな物に対して攻撃出来ないという可能性は無いと考えていいだろう。アヤ殿が攻撃されている以上はそんな性質付与はされていないとみるべきだ。」

「アヤちゃんもっとメグミちゃんの個人情報話してほら。人類滅亡の危機なんだからある程度は言ってもオッケーよ。」

「んー…。アヤちゃんはこう…なんというか、貢ぎ癖?みたいなのが有って…。」


余りにも急に差し込まれたド直球の罵倒に噴き出しかけたが気合で耐える。この年から貢ぎ癖が有るって同級生に断言されるとかヤバすぎでしょ…。


「もうちょい言葉軟らかくなんない?メグミちゃん聞いてたら泣いちゃうよ?」

「何でも言えって言ったのはそっちでしょ!」


それはそうだがこれも武士の情けなのだ…。なんで赤の他人だろうと性癖が晒されてる時ってこんなにも動悸がするんだろうね。


「メグミ殿の壁についてはこれ以上掘り下げてもあまりよくはならんだろう。だから一旦ミカエルの方に焦点を当てるべきだ。」

「それもそうやね。それで?あいつの弱点とかは?」

「めんどくさがり。」

「ただの欠点じゃねーか。しかも戦うときにはあいつ油断せずにくるタイプだろ、弱点になんも繋がらなさそうなんだけど」

「とはいうが本当に戦闘に関しては隙が無いのだ。私の仲間で戦闘面で私とほぼ同格だった憤怒のサタンもあいつに片腕を取られている。内政面ではカスだが武官としては一級品だ。」

「というか急に新しい用語出てきたんだけど。なに?憤怒のサタンって。」

「私含めた七人の反対派の中のうちの一人だよ。もとの名前は…くそ、思い出せない。ともかく貶められて憤怒のサタンと呼ばれるようになった。」

「急に七つの大罪みたくなるじゃん…中二病マシマシになってきたな…。」

「…その呼び名をどこで知ったんだ?」


目を見開いてこちらを見るルシファー。え?もしかして偶然の一致とかあるの?


「体制に逆らい混乱をもたらした七人は天国に存在する不和を招く七要素の名をそれぞれ当てはめられて呼ばれることになった。傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰、これら七つを我らに当てはめ名を奪い我らの元の力を制限したのがあいつ等だ。」

「呼び名変わるだけで力が制限されて元の名前思い出せなくなるってどんな仕組みなんだお前ら。じゃあ、あっちにもなんかすごい呼び名があんの?」

「我らも元は違う称号が有った筈なんだが…そこはまぁいったん関係ないから割愛させて貰うが。奴らは七つの美徳と呼ばれている融和と団結をもたらす概念を冠している。その呼ばれ方をする限りあいつ等は讃えられ、力を増し、また讃えられるという循環に入っていくわけだな。」

「なら、ミカエルはなんて呼ばれてたんだ?あいつの方こそめんどくさがりっていうなら怠惰にふさわしくないか?」

「あいつは謙譲のミカエルと呼ばれていた。武力を民衆に捧げ、安定を不和を呼ぶものから勝ち取った…といった風に、己が持ちうるものを捧げ平穏を勝ち取った事を讃えられて称号を贈られていたよ。もっとも?あいつは無抵抗の奴も持ちうる力で物言わぬ死体に変えていたが。」


じゃあもうただの血に狂った暴君じゃん。そんなのを七人のトップに置いているとか思った以上に碌でもねえ集団なのか。ふと思いついた事を口に出す。


「なあ、ミカエルが強かったのは謙譲の美徳として大多数から認識されてた事がでかいんだよな?」

「ああ、精神生命体は認知が全てだ。多数の者にこいつはこうだと決められた事柄が事実になる。ゆえに我等は敗走する羽目になったのだ。」

「でも今はあいつ特にそんな認識される様子なんかないじゃんか。じゃあ、なんであんなに強いんだ?」

「それは観測者が強い存在と認識しているから…。待てよ?」


そう、そうなのだ。精神生命体が認知によってその強さが変わるのであれば、観測者の認識を強くない存在に変えてしまいさえすればあいつは持っていた力を発揮できなくなるのでは無いのか?


「そうは言ってもメグミちゃんは今は逆らえない状態なんでしょ?その、私がやられちゃったせいで。」

「じゃあ、お前が生きている事をアピールしてこいつはそんなに大した事無かったぜ!だからこっちに帰ってこいよ!っていうのは?」

「恐らくそれとミカエルの強さは別の話になってくるだろう。それに今の心を折られたメグミ殿では恐怖の対象になっているに違いない。それを弱いと思い込むのは至難の業だ。」

「じゃあさ、メグミちゃんがミカエルよりも強いと確信できる存在がいたらさ、どうなるんだ?」

「断言はできないが…恐らくミカエルは勝てなくなる、精神生命体である限りこうだと定められた認知を覆す事は出来ないのだから。」

「だったら決まったぜ、作戦が。」

「なにすんのお兄ちゃん。ウルトラマンとか連れてくるつもり?」


流石我が妹、着眼点が非常にいい。


「ウルトラマンを連れてくるんじゃない。俺がミカエルに絶対勝てると思われるヒーローになるんだよ。」


そして、俺はド〇キに車を走らせた。

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