第11話

現在時刻20時13分ルシファーの魂レーダーを頼りにメグミちゃんを捜索中である。

車を走らせているから余裕で追いつくだろとか思っていたら全然車が入れない山道に突っ込んでいったらしいので仕方なく徒歩での山狩りを決行する事になった、メグミちゃんがバイタリティに溢れすぎているお嬢さんじゃなかったっけあの子。

とはいえ光源がスマホのライト位しかないため難航を極めている、普通に息も上がってきた。何考えてこんな所に用があるってんだ。


「これは…遅かったかもしれないね…。」

「それどういう事ルーちゃん!あんまり変な事考えてると私怒るよ!」

「いや、割かし正当な考え方だろ。あんまり責めてやるなよ。しかしここまで早いとは、敵の事舐めてたな」


そう、もしかすると向こうのほうが早かった可能性が出てきてしまったのだ。期待は裏切られるものと経験から知っていたのにここまでが上手く行き過ぎて忘れてしまっていた。

こうなる前に打てる手は無かったのかと己を責めそうになるが過去は変わらないので前へ進むことだけを考える事にする。そうしている内にルシファーが声を上げる。


「暫定メグミ殿が止まった!北西の方向距離300m付近!」

「どっちだよそれ!」

「こっち!お兄ちゃん!」


方向音痴である自分に情けなさを感じつつアヤを先頭にしてルシファーが示した場所に急行する。森の中の気時の少ない若干開けた地域の中心にそれはあった。

光り輝く空間の裂け目のようなもの。淵は銀色でありながら虹色でもあり、刻一刻とその色を変えている。その中心には漆黒が広がっておりスマホのライトをかざしても反射は一切しない。明らかに人間の所業ではない、では悪魔か?現在人間界にいる唯一の悪魔は俺たちと共に間に合わなかったことを確信し驚愕に染まっている。そう、今現在これを作ることが出来るのは俺たちを家畜に貶めようとしている天使に他ならないのだから。

そしてふと気づく、なぜ彼女は自分の意志でここに来たのか?依り代に催眠は効かない、これは大前提のはずだ。ならばまだ、彼女は彼女の意志が消えていない。絶望さえしなければ俺達にも可能性は残っている。要はあの子の意志をこっち側に持ってくればいいのだ。打てる手はある、そう思い込む。


「ルシファー!この中入れるか!?」

「任せたまえ!だが二分寄越せ!」

「一分だ、間に合わなくなる!」

「気安く無茶を言ってくれる!」


ルシファーが裂け目に取り付き解除を行う。心臓が光り虚脱感に襲われるがこんな事はどうでもいい。だが急に力が抜けた影響で膝をついてしまった。アヤがそれに気づき走ってくる。

「お兄ちゃん大丈夫!?」

「ちょっとフラット来ただけだ、問題無い。それとアヤめちゃめちゃ危険だが付いてきて貰うぞ。メグミちゃんをこっち側に戻すためには親友のお前がこちらにいる事を知ってもらう必要がある。こういうのは誰が言ったかが大事なんだ、それでいうなら友達のお前のほうが嘘塗れのクソ天使より確実に信頼される!いいか!?」

「もちろん!説得は得意なんだよ!もし聞き分けが悪かったら殴ってでも止めるから!」


今できる事はこれくらいだ。そしてルシファーの解除も終わったらしい。空間の裂け目が形を変え白色の豪奢な装飾が施された両開きの門が現れた。神聖さを感じるもののどこか薄ら寒い、そのような良くないものを感じ取った、おれが今悪魔と契約してるからかもしれないが。


「解除成功、一分ジャストだ!あとでたっぷり褒め称えたまえ!」

「でかした!マスコット!」

「ありがとうルーちゃん!」

「相馬はあとで説教だバカめ!」


そんなやり取りをしながら門を開け放つ。一瞬の浮遊感と共に踏みしめていた地面の質感が変わる。森の中の砂利から整えられた石畳へ、光源がなかった森から光にあふれた空間へ。

いっそ神聖さすら感じる空間に三つの動くものが存在している、一つは異形、一つは人型、一つは小さいながらも羽を持ち人型の近くを浮かんでいる。

そしてその人型を見たアヤが叫ぶ。


「メグミちゃんだ!」


そのメグミちゃんは昨日出会った時の制服姿の印象とは大幅に異なり全体的に白とピンクで纏められたふりっふりの服を着ていた。もうふりっふりであるとんでもないくらいに魔法少女だ。もしくはフ〇リキュア。

絶対に言ってはいけないのだろうがつい口から漏れ出てしまった。


「アヤ…お前の友達随分気合の入ったコスプレしてるな…。」

「言ってる場合!?なんで戦ってるか分かんないけど助けないと!」

「待ちたまえアヤ殿!メグミ殿のそばでふわふわと浮きやがっているあいつが天使だ!あの腐れ外道どもが純粋に力を貸す事なんて有り得ない!守るとするなら異形の方だ!」


そうだ、天使は最終的に絶望させることが目的なのだ。人はどんな時に絶望するのか、幾多の答えがあるだろうがそのうちの一つは自らの大切なモノを自分の手で壊してしまった時、そう考えれば化け物になってしまっているが大切なモノなのだとしたら…!


「ルシファー!変身だ!前みたいに行けるか!?」

「無論だとも!」

「え!?変身って何!?」


そういいながらルシファーが俺の胸に飛び込んでくる。胸に焼けるような熱を感じた後瞬く間に心臓から噴き出た紫色の炎が俺を包み心臓から鎖が飛び出る。鎖は全身に巻き付き俺の体を鎧に変え弾ける。視界が開け炎を振り払う。


「お兄ちゃん、仮面でライダーなの!?」


変身音鳴り響いてないからセーフでしょ多分そんな場合じゃない。メグミちゃんは刻一刻と異形を追い詰めているしサポート天使はわかりやすくピンクとか水色に光って必殺技みたいなのを打つ準備をしている。


「闇に惹かれた邪悪な魂よ!聖なる光の裁きを受けて…」


めっちゃそれっぽい口上言ってる!ダメだってそれ殺ったら!多分君の大切なモノなんだから!ルシファー!体張って止めるぞ!防御魔法的なのお願い!


「努力はするがめちゃめちゃ痛いぞ!覚悟したまえ!」


返事もせずに足に力を籠め走り出す、目的地は無論異形の前。ここでじっくりと見ることで分かったが四つ足の異形はメグミちゃんの攻撃のせいか足があったであろう場所はすでになく動けない事が推測された。その頭と思われる部分には大理石のような彫刻が施されていた。そしてそれは男女が小さな子供を慈しんでいる様にも見える。ならばこれはきっとアヤとの出会いのあとに得た、


家族の絆か。


守護らねばならない。せっかく手にした大切なものを自分の手で壊すような事はさせてはならない。その一心が胸の炎を燃え上がらせる。足を回せ、腕を振り上げろ、呼吸なんか後でいい。今はただ守るために行かねばならない。


「その身を光に返しなさい!」


メグミちゃんが光を放つ前に相手した卵とは比較にならない光と熱の暴力に家族の絆は断たれようとしている。聖なるものと自らを偽り何も知らない少女に自らが得た尊いものを壊させようとしている邪悪を誰が許せようか、誰もいない。

特に今ここに立っている故郷を追われ悪魔と自らを貶めざるを得なくなった者と義憤に駆られている者はその企みを必ず破綻させると己の心に誓ったのだ。


異形の前に黒の影が立ちふさがる。それはいかにも悪魔的で、鋭利で、怒りに溢れていたが、とった行動はいずれにも該当しない両手を広げて異形をかばう事であった。そして光が直撃する。


ルシファーが張った防御結界は正常に効力を発揮した。相馬の生命の源である心臓も最大限に鼓動し、文字通り命を燃やしながら少女の大切なモノのためにその身を文字通り盾とした。あの一瞬で出来る事としては万全だったであろう、それでも相馬が次の瞬間に感じたのは目がつぶれんばかりの光輝、そして莫大な、ともすれば何故一瞬でも体が原型をとどめているのか疑問に思うほどの熱と痛みであった。


「がぁぁぁぁぁぁあぁぁぁあぁあぁぁ!!!」


もしも人間の体であればコンマ数秒も持たない熱の奔流をただただ耐える。本能が逃げろと叫びたてるのを理性と意地で捻じ伏せる。痛みをわずかにでも逃がすために歯はすでに割れんばかりに嚙み締められ声にならない叫びが喉から漏れるばかりだった。


「耐えろ、耐えてくれ…!」


悪魔が人間に祈り人間が祈りに答えようとする。だが祈りはむなしく胸の炎が勢いを弱め消えようとする時、永遠に続くかと思われた光は唐突に消えた。全身から力が抜け、その場に倒れ伏しそうになるがすんでの所で片膝をつき意識を飛ばさずに済んだ。


「…終わったのか?」


祈るように絞り出された言葉には次が来たら耐えられないという確信が込められていた。


「さすがに次が来たら撤退だ。今私たちは自らに出来る事全てをやったと断言していい。死にたいのなら付き合うが天使の侵略を甘んじて受ける羽目になる事だけは納得してくれよ。」


残酷な事言いやがる…まぁ正論なんだが。おぉ…暫定命名家族愛が砕かれた足を引きずりながら俺を守ろうとしてるんだけど、やっぱいい人達なんだろうな。説得したいが胸の部分が焼け爛れて声が出ねえ。これは天使に丸め込まれて二射目来るか?


「メグミちゃん!止まって!」

「アヤ!?なんでここにいるの!?ここはミーちゃんが悪徳と対峙するために作った聖域なのに!」

「そのマスコットがあんたに嘘ついてるの!多分だけどその化け物は!」


その言葉を言い切る前にメグミちゃんの隣から一条の光線が放たれた。光線はアヤの腹部を撃ち抜き倒れ伏したアヤから命を示す赤色が流れ出した時メグミちゃんの絶叫が響き渡った。

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