第4話


「御影さん!大丈夫でしたか!?」

「お疲れ様です、大家さん。…これ何があったんですか?」

「御影さんが住んでた部屋の前に電柱があったでしょう?経年劣化が激しいから工事で撤去するみたいな話が回ってたんだけど乗用車がハンドル切り損なったみたいで突っ込んじゃって。」

「確かにこの辺異様に曲がりくねってますもんね。慣れてないときついでしょう。」

「そーなのよ!で、当たった時に電柱が根元からいっちゃって!部屋にいなかったのは良いんだけどお部屋がめちゃめちゃになっちゃって…。隙間風っていうかもうこれ半分キャンプみたいになっちゃってるから今日はいったんホテルか何かに止まってもらっていいかな?」

「わっかりました…。」


と上記のような会話をしたのが早1時間前、なんやかんやありつつも自腹にホテルに宿泊することになったのはまぁいただけないが後日事故った人からの保険が効いたりするらしいので領収書を貰いつつ休息を頂いている。

そして目の前には作業用のデスクに座りながらお茶をすすっている悪魔が一匹、言いたいことは山ほどあるがまずは真意を問いたださなければならない。


「で、お前に協力するのに何で仕事辞めないといけないの?」

「単純明快にあなたが仕事をやめてくれないと人類家畜化エンドだからだけど?」

「詳細を話してくれ、詳細を。いきなり仕事辞めてくれって言われたってこっちも覚悟とか必要なんだよ。」

「めんどっち~。フィーリングで辞めてくれない?」

「しばきまわすぞお前マジで。」


なぜ説明を渋るのかは分からないがこっちだって死活問題なのだ。こっちは福利厚生と家賃補助だけで会社選んでるんだぞ。

だが、どうやら向こうも理由を話さなければ話が進まないことに気づいたのだろう。やれやれとでも言いたげにかぶりを振りながら説明し始めた。


「まずは、君たち人間を媒介して天使がこちらに来れるというのは、ほんの数時間前に見たばかりだから理解しているよね?」

「ああ、けったくそ悪い話だがな。」


そう、あいつらは方法は不明だが人間を化け物に変えてこちらを襲わせてきた。俺たちを追い詰めるという点だけでいえばあまりにも単純で、残酷で効率的な手法を使ってきた。


「私たちは精神生命体だからここみたいな物質主義的な法則が適用されている場所では活動に大きく制限がかかる。だからこちらの世界に干渉するためには依り代?みたいなこっちでも活動できる窓口が必要になる。ここまではOK?」

「単純明快にこっちで動くためにはこっちのルールに則った体が必要って訳だな。…じゃあなんでお前は肉体が存在するんだ?お前も同じ人種…悪魔種?なんだろ?」

「説明したと思うが私の場合は仲間の協力で私の存在自体を圧縮してもらったんだよ。大気を圧縮すれば目に見えるようになるのだろう?それと同じことだよ。」


私のベストコンディションでもこちらの重さ換算すれば10KGくらいだもんね!と宣っているが圧縮の際に壮絶な痛みが発生するであろうことは想像に難くない。そこまでの危険を犯しながらもこの世界を救おうとしてくれようとしていることを察した俺はそこはかとない畏敬の念を感じた。それと同時にその存在に仕事をやめろと言われている現実を思い出しやっぱろくなもんじゃねえなと考えを反転させた。


「…一瞬感謝したのにそこから手のひらを返せるのはすごいことだと思うよ?本当に。話を戻すよ?天使がこちらに来るのには窓口が必要。そしてその窓口には君みたいにある程度の素質を持った人間が必要になるんだ。単純に言うと天使が祝福って呼んでる洗脳が効かない人間が。」

「洗脳が効かない人間だけなら俺みたいなやつがいるんだろ?俺がそうなのも驚きだけど結構数いるんじゃねえか?」

「数だけでいえば居るんだろうけど奴らは質のほうが圧倒的に大事だろうね。私と私の仲間たちに正面切ってやりあえる奴が七匹いる。あっちの勝利条件は依り代を通じてそのやりあえる七匹のうちどれか一匹でも依り代を通じて人間界に顕現したら勝利なんだ。」


さらっと、あまりにもさらっと、人類が滅亡する条件を聞かされてしまった。そして非常に残念なことにこいつはどうやら俺にすべてを託す心づもりでいるらしい。


「その条件になる依り代探しはもはや一分一秒を争うレースなんだ。先に見つけて説得してどうにかこちら側に来てもらわなければならない。なんとしてでもだ。」


こっちは一回ミスったら全部終わりなのにあっちはコンテニューし放題なのはマジでずるいよね!などと腕を組みながらプンスコ起こっているがそんな気軽なリアクションで話す事ではない。だが既に賽は投げられてしまった。後戻りは、もう出来ない。


「…依り代になる人間の目星はついてんのか?」

「やる気になった?とっても嬉しいよ!…とはいえ条件はあるんだけど私はその条件が一致する人間がどこにいるのかが分からないんだ。集まりそうな場所の選定は君に任せる形になる。いいね?」


さて、ここからが大事だ。この条件が厳しければ厳しいほど全国津々浦々をめぐる地獄の人探しタイムアタックが始まってしまう。貯金的に考えても非常に厳しいがその場合は倫理道徳に背くような手段をとらなければならなくなる覚悟を決めたところでルシファーが口を開いた。


「まずは今現在幸福を感じている個体である事。統計的には雌がいいのかな?天使どもは感情エネルギーを利用するといっただろう?それは希望が絶望に変わる際に途方もない量のエネルギーを放出するんだ。そしてその落差は深ければ深いほどいい。顕現するのにはその途方もないエネルギーが必要になるからだ。」


幸福を感じている人間が多く集まる施設ねえ…この周辺は地価が高い影響もあってか割かし富裕層って呼ばれる人間が多いのは知ってるけどそんな手放しで幸福っていえる奴らいっぱいいるかぁ?


「前述の条件と相反するが次に何かしらの問題を抱えていること。問題が人間関係に起因するのであればあるほどいい。表面化していなかろうと天使が洗脳すれば依り代の周りの人間の問題が一瞬で表面化するからな。だが奴らもバカではないからバレるリスクを鑑みて閉鎖空間を選ぼうとするはずだ。問題から簡単に引き離されては元も子も無いからな。」


人間関係の問題が発生しやすく閉鎖的な環境…いや、まさかな。いくらこいつが余りにもテンプレじみた姿形をしているからってここまでテンプレではないだろう。うむ。


「そして最後に…若い個体である事。あいつらが求めているのは希望から絶望に反転する際の感情の落差だ。君たちのように成熟した個体であれば経験を積んでいる分予期したりすることが出来るだろうが若い個体はそれがしにくいだろう?そういう面で絶望させやすいという点はあいつらにとって途轍もないアドバンテージに成りうるのだよ。」

「びっくりするくらい異能力学園モノじゃねーか!!」


あまりにも大きな声が出てしまったため隣の部屋から壁ドンが飛んできた。申し訳ない。

だがこれはあまりにもゆゆしき事態である。以上の三つの条件からこれはもう学校以外の選択肢は無くなってしまったといってもいい。学校以外の条件があるのならぜひ教えて欲しい。いや本当に。さらに問題なのはこれがどう考えても天使と悪魔が密接に関わる以上これは依り代になった女の子が魔法少女的なコスチュームに身を包むこと確定である。一眼レフを買わなければ。


「考えを読ませてもらったけど学校なる施設があるのか。そこでは…未成年が勉学に励み…閉鎖環境であり…くらすかーすと?なるもので上位にいるものは幸福を感じやすい…。まるであつらえたかのような施設だねえ…。」

「何をどう考えても条件に合致する人間が集まる場所なんか学校しかない。そしてこの近辺にある学校の中で幸福度高そうなとこだとなると…。」


そう、あるのだそんなおあつらえ向きな学校が。その名も私立精華院女学園、この辺りでいえば名を知らなければ地元民でないレベルの超お嬢様学校だ。中高大と完全に教育を一貫して行うイカレエスカレーター学校でありそこに通う子女は超一流。こんなあまりにも物語の舞台になりそうな学園が俺たちの目と鼻の先に存在する。するの…だが。


「だが?」

「どうやって学校に潜入するんだ?俺教員免許なんか持ってねえぞ。」

「あー…。」


スタート前に詰みかけた時ってどんな顔すればいいんだろうね…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る