第5話

とにもかくにもまずは現地調査をしなければならないと話にならないため一番可能性が高い精華院の周辺をルシファーが催眠念波を出しながら練り歩くというあんまりにもあんまりなパワープレイを用いて依り代候補を探すことになった。

確かに依り代には催眠は聞かないがさすがにそれは雑すぎやしないか、天国の連中にバレるんじゃないか何よりも異変がこんなにわかりやすく出るのは学生たちの中で重大な確執を残すのではないかと苦言を呈したのだが「じゃあ、何か代替手段があるのかねチミは?状況的にも戦力的にもあっちにだいぶアドバンテージがあるんだ。こちらは拙速を尊ばなければならないのだよ、反論はあるかね?う~ん?」と反論ができなかったため撃沈。煽った対価としてルシファーをにぎにぎしてなけなしの尊厳を回復することにより議論は決着した。

そして現在、昨日の激闘が明けた9月3日月曜日、会社に有給取得の連絡をして家族に自宅が消失したと連絡を入れ実家に帰らせてくれと嘆きながら申し入れ了承を得た。妹が風邪らしいので帰り際に差し入れをも買って帰らねばと現実逃避をしながら妹も通っている精華院周辺にて大規模な催眠を行使する羽目になったのである。気分はまるでテロリスト、こんなに嫌な気持ちになれるんだ人って。

そして現在ルシファーは一時的に俺と同化している。さすがにアラサーがファンシーな人形を飛び回らせて散策していては周辺の人の奇異の目を集めてしまう。というか普通に俺が嫌だ、どこで買ったんですかとか聞かれても困るし。


「…一応これでも君たちの世界でいう政府高官の立場ではあったんだけどねぇ…。協力者にボロクソ言われて悲しいよ、私は。」


敗残兵に語る口は無いのだよ、悲しいがね。と脳内会話を使いながら歩を進める。そういえば当たり前に大規模行使が前提になってるけど出力足りるの?俺に向けて催眠しようとした時もやるまで耐性持ちって気づかなかったじゃん。


「最初の時とはあまりにも状況が違うんだよ。あの時の私はまさに裸一貫で無人島に放り出されたようなものだったが今は違う。君という依り代があって一級品とは言えないが…正直言って三流ではあるが外部からのバックアップもある。君といるだけである程度の出力で催眠を使うことは可能なのだよ。」


握られるのは業腹だがね!と吐き捨てるがこいつさらっと恐ろしいことを言っている。納得したくないが三流の俺のバックアップで千名単位の学校所属者全員に催眠をかけることが可能と言ってのけたのだ、あまりにもエコが過ぎる。だからこそその中でも超一流の依り代を配下に置けたときに世界を一変させることが可能になるのだろう。


「事の理由と重大性を理解していただけたようで何より。さて、そろそろつくのだろう?心の準備だけはしておいてくれたまえ。」


さて、この時間が来てしまった。目の前には精華院の校舎が視認できる。時間は朝10時頃、ちょうど授業中なのではないだろうか。そして気になる催眠の内容とは…。


催眠を受けたら立ち上がる。立っているものはその場にうずくまる。たったこれだけ。


いや、俺も一瞬エロい事態になるかなって思ったんだけどそうは問屋(悪魔)が卸してくれませんよ。さすがに認識を改編するようなとんでもない催眠は必要な力も莫大らしく何より基本的にこの催眠は期限を決めない限り半永久的に作用するらしいのだ。エロエロおじさんに見つからなくって良かったなお前(恐怖)性欲に突き動かされる系の奴に捕まってたら間違いなくとんでもないことになってるって。もう最近じゃ催眠って言葉はどうとってもエロい風にしか使われないんだから。と独り言ちながら催眠行使まで待つ。


「種族特性を性欲のために行使させられるかもしれないとかいう特大の地雷を頭の中でぶつぶつつぶやくのはやめてくれないかね。こっちだってこんなんなりたくってなってるわけじゃないんだよ、わかる?」

「マジですまん。」


申し訳なさで出さなくっていいのに声が出てしまった。気になるのは催眠が効かなかった奴はどこまでわかるんだろうか。人数くらいは把握できるのだろうか。


「これほどの人数になると数が分かるくらいだね。思念、というのだったかな。考えが混線する影響で場所までは分からないかな。」



それでも大幅な快挙である。千人くらいから数を完全に特定するだけでも圧倒的にやる価値がある。昨晩語った条件に合致する奴らを一人一人しらみつぶしにしていくなんて非効率的だしまず俺が不審者として通報されたうえで留置場行になり人類が詰む詰むしてしまうそれだけは避けなければならない。出来ることなら公的機関にぶん投げたいが催眠耐性がないという都合上天使に洗脳されて人手が増えるというマゾゲー具合である。やってられるか。ライトノベルの主人公ってこんなにも孤独だったのだなと思いをはせているとどうやらルシファーの方の準備が完了したらしい。


「契約者との精神リンク接続確認、神経回路および魂の通貨循環機構適性稼働確認。マナからオドへの変換効率…34%されど稼働に支障なし。福音宣言範囲指定、福音対象人数1045名を指定。福音内容:座している者よ立ち上がり給え、立ちている者よ膝を折り給え:命令指定確認。循環機構励起完了、精神回路励起開始…必要量のオドの精製確認、福音執行開始。執行完了まであと10秒。」


ルシファーが儀式に必要な工程を唱えるたびに俺の心臓が早鐘を打つ。というか俺の心臓が誰の目に見ても明らかなほどに紫色に光り輝いているというか位置的に乳首が発光している、なんでだよ。それと顔や耳というか全身が熱いあとなんか息子も元気になってきた。これはあまりにも由々しき事態だ。一刻も早く発動してくれないと乳首が発光している上に顔を赤らめた上でスタンダップしている真正のド変態になってしまう。なんだよ昼間からお嬢様学校の敷地の近くで乳首を発光させながら勃起しているアラサー成人男性って普通に逮捕されるわ。


「ルシファー!早くしろ!もうなんか色々終わるぞ!!主に俺の尊厳と人生が!!」

「今やってるねえ!黙って耐えてくれないかい!?ちょっとでもずれたら大変な事になるんだよ!こっちは!」


そうは言うがこちらもやばい精神的に高揚するという点で今まで味わったことのない幸福感のようなものを感じ始めている。世界が徐々に白み始め音と光が脳に焼き付きまるで世界のすべてを支配したかのような全能感を得た。頭から感じた全能感は首、胸、腹を通り腰に留まり出口を探している。いや、待ってくれ、それだけはまずいと脳裏でかすかな自我が警告するが全能感という名の快楽でとろけている脳と体は言う事を聞かない。


「完了まで3、2、1…。」


無情にも脳裏にルシファーのマスコット味を醸し出しながら少女と言って差し支えない美声によるカウントダウンが響き渡る。お願いだ、待ってくれ。そんな思考が浮かぶと同時に無情な最後の宣言が彼女の口から放たれた。


「ゼロ♡」


語尾にハートがついていると錯覚するほどの甘い声を聴いたと認識した瞬間に俺の視界と下着は真っ白に染まった。

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