第7話 帰りの電車に乗る29歳
会社帰りの電車の中、つり革に掴まりながら、真っ暗な窓に反射する自分の姿を今日も俺は、ぼーっと意味もなく眺める。
そこに映るのは松坂 透。29歳。
そして、今も目の前に映る自分が、今後誰かと、あんな風な関係になる未来は絶対に訪れないのだろう。
そんなことを、すぐ近くの座席に座っている、あからさまにイチャイチャしながら、おでこをくっつけて見つめ合う、大学生らしき男女を背後にしながら考える俺。
いわゆる、バカップルと言っても過言ではないであろう男女。
さすがにあのちょっと痛めの光景が羨ましいとまでは思わないけれど、周りの目を気にせず、自分達の世界に没頭している彼らを見ていると、少なくとも自分よりは人生が充実しているのだろうな、なんてことを情けなくも感じてしまう。
まぁ、俺が一生できないことを彼らがしていることに、違いはないはずだ。
異性とイチャイチャか...。
あらためて、悲しくなるが。この歳にして、誰ともしたことがない。今までの人生でそんな記憶は皆無だ。
今も電車の窓ガラス越しに、さっきから背後でイチャイチャとしているカップルがその両手を恋人つなぎで絡ませ合っている光景が目に入ってくるが...
俺が最後に女性と手を繋いだのって、いつだ...。
「.....」
中学の時のフォークダンスが最後だな...。
「.....」
とりあえず、これ以上考えてもただただ虚しくなっていくだけだと、感情のスイッチをオフにして、つり革に体重をかけながら目をゆっくりと閉じる俺。
そして、色々と考えていると、後3駅で自宅の最寄駅に到着することを知らせる車内アナウンスが聞こえてくる。
「ん?」
なんだろう。すると唐突に、目を瞑りながらぼーっと電車に揺られながら立っている俺の肩が叩かれた?
知り合い? それとも俺が何かを落としたのか?
そんなことを考えながらゆっくりと俺は視線を背後に....
「って、おい...」
今、俺の頬には、とある女性の人差し指の感触
「何を小学生みたいなことしてんだ...。高崎」
そう。スーツ姿の美女、隣人の高崎がクスクスと楽しそうに俺のことを笑っている光景。
いつから同じ車両にいたのだろうか。
全く気がつかなかった。
「引っかかっちゃったね。松坂」
まぁ、こんなところで肩を叩かれたら、とりあえずは普通に振り向くだろう...と思いながらもいちいち言葉には出さないでおく俺。
相変わらず目の前には、何がそこまで楽しいのだろうか...。その、今も俺に見せる無邪気な笑みとは対照的すぎる、見た目クールビューティーすぎる高崎の姿。
「そっちも今帰り? てか、機嫌いいな。何かいいことでもあったのか?」
「ふふっ、いいことー? まぁ、仕事帰りに電車で松坂を見つけたら誰だって機嫌もよくなりますよ!」
まぁ、絶対に違うが、その明らかにテンションの高い笑顔からも何かいいことがあったことは目に見えてわかる。
いいな...。
俺も何か、何でもいいから、いいことが起こってくれないだろうか。
「あ、そうだ。松坂はもうご飯食べた?」
「いや、まだだけど...」
今日も普通に疲れてるし、コンビニで何か買って帰る予定。
「じゃ、時間も時間だし、駅前のファミレスでも行こうよ」
「え...あー、別に問題はないけど」
そう。別に問題はない。
そっちさえよければ、俺は何ら問題はない。
安いしな。
あと、そう言えば、かなり前にも帰りの電車でたまたま今回のようにタイミングが一緒になって、飯食って帰ったっけ。確か、あの時も夜遅かったからファミレスだったかな。
「やった。松坂の奢りー」
「......」
まぁ、何でもいいけど。今日は特にボディタッチが激しいな。そのさっきからのやけに嬉しそうな笑顔もそうだけど、やっぱり絶対に何かいいことがあったのだろう。
さしずめ、ご飯を食べながらその自慢話に付き合わされるといったところだろうか。
まぁ、そういう話を聞くのは別に全然嫌いではないから全然いいけど。
「......」
それにしても、腹減ったな...。
何食べよ。
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