第2話 金の王

 錬成失敗により、見知らぬ土地で、どこの誰かも分からない他人になってしまった蒼唯は、取り敢えず落ち着くため、手に持った石鏡に錬金術を掛けこね繰り回すことにした。

 面白いように石鏡が整形される様子を見て、倒れていた蒼唯を介抱してくれた男、ギンガは疑問を投げ掛ける


「嬢ちゃん? それは何してるんだ?」

「石鏡に猫耳を生やしてるです。可愛いです?」

「まあ可愛いが…それにしても何度見ても惚れ惚れする練度の錬金術だな。その石鏡だって商会に飾られてる一級品と遜色ねー」

「ありがとうです」


 とは言え、錬金術を作品造り可愛いモノ造りに取り入れてから6年程になるが、これまで様々な経験をしてきた蒼唯にとって、見知らぬ土地で他人になるくらいの衝撃は、猫耳付き石鏡を作ればだいぶ緩和される程度の出来事である。


「ふう、少し落ち着いたです。取り敢えずさっきも話した通り、私はここに来るまでの記憶がほとんど無いです。でも錬金術は何か使えるです。何故かは知らんです」

「そんな状況で落ち着ける嬢ちゃんは、ある意味大物だな」

「えっへんです」

「褒めてねーよ。…まあでも、それほどの錬金術が使えるなら食うには困らねーか」


 そう蒼唯の錬金術の腕前を褒めるギンガの表情は、冴えなかった。


「そう言えばギンガさんは、魔獣? てのが多い森に何でいるです?」

「…俺の嫁が病気でよ。この辺りに森を縄張りにしている『金の王』ってのが生やす木? が万病に効くって噂でよ」

「それを探しに来たですか?」

「あぁ、これでも一応冒険者だからな。…でもこの森は『金の王』が縄張りにし出してから生息する魔獣の質も上がっちまって、探索するだけで精一杯だぜ…」

「それなのに倒れてる私を助けたです?」

「助けられるなら助けるのが心情なんだよ! 流石に魔獣に襲われてたら無視してたかとしれんが」


 元の世界にも冒険者に似た探索者と呼ばれる、ダンジョン攻略を仕事にする者たちがいた。

 そんな者たちに装備やアイテムを造っていた蒼唯からしてもギンガが装備しているものは差程質の高いものでは無かった。ようやく駆け出しを越えた辺りといった所だろうか。


「うーん、素材不足で装備は難しいですね、特に可愛く出来なそうです。ギンガさん薬草とかって持ってないです?」

「薬草? 一応幾つかあるが」

「なら貸してくれです」

「あ、あぁ」


 蒼唯はギンガから渡された薬草を選別する。そしてお目当ての薬草を幾つかピックアップし、食事で出された水と錬金術で混ぜ合わせていく。

 

「ぽ、ポーション?」

「そうです。けど、あんまり病気に効きそうな薬草が無かったですね。3本しか造れなかったです」

「さ、3本も…ってこの容器はいつの間に?」

「本当はガラスとかの方が良いですけど、面倒なので、石の容器です。一応『保存』を付与してるてすけど、完璧に劣化は防げないですから早めに飲ませるなりぶっかけるなりするです」

「ぶっかけねーけど、え、これ俺に?」

「介抱してくれたお礼です。どこまで役に立つか分からんですけど。さてとです」


 そう言い、蒼唯は森の方を向く。


「じょ、嬢ちゃん?」

「最後に聞きたいですけど、ギンガさんが聞いた森の主の噂って、『菌の王』が生やす木の子が万病に効くってのじゃ無いです?」

「あ? ああ、そうだ。ま、まさか嬢ちゃん、その万病に効く木の子を取りに行こうって言うんじゃ!」

「木の子に興味は無いです。ちょっと『菌の王』に興味があるです」

「や、止めとけ、木の子採取なら兎も角、『金の王』はベテランの冒険者すら容易く返り討ちにしたって…」

「問題無いです。もしかしたらその王様と知り合いかも知れないですから」

「そんな訳ないだろがーーー!」


 蒼唯の訳の分からない台詞を受け、ギンガの絶叫が森中に響き渡るのであった。


 

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